琥珀色の戯言

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私鉄探検 ☆☆☆☆


私鉄探検 (ソフトバンク新書)

私鉄探検 (ソフトバンク新書)

内容紹介
日本の個性豊かな私鉄を味わい尽くす!
西武、京王、京急近鉄、阪急・阪神などなど……日本には独自の沿線文化を築いた私鉄が幾つもある。
それらの歴史的背景から名所の紹介、電車にまつわる情報を盛り込んだ、ガイドとしても使える私鉄を徹底的に楽しむ一冊である。


出版社からのコメント
日本の私鉄の面白さがここに凝縮!
私鉄を築いた財閥の力や沿線文化の醍醐味、各私鉄の名所案内など読みどころ満載の内容となっている。
鉄道ブームの中、今こそ私鉄の世界を存分に探検しよう!

 この新書、タイトルは『私鉄探検』なのですが、いわゆる「鉄道マニア」、とくに「乗り鉄」と呼ばれる、車体や駅に思い入れのある人たちにとっては、ちょっと物足りない本ではないかと思います。たぶん、インパクトと間口の広さを考えてこのタイトルにしたのでしょうが、実際の内容は、「私鉄と都市開発」あるいは「私鉄と沿線文化」について書かれている部分が多いんですよね。

 そもそも私鉄は、20世紀の都市開発における重要なツールであった。それは阪急にはじまる私鉄による郊外開発に代表される。第2章で参照した建築家。隈研吾の清野由美との共著『新・都市論TOKYO』からふたたび引用すると、隈は郊外を次のように定義している。

 様々な歴史、時間が染み付いているはずの「土地」の上に、その場所とは無関係な「夢」を強引に構築する手法で作られた街が「郊外」と呼ばれたのである。

 そしてその「夢」を鉄道という「線」によってたばね、つなぐ技が発見されたのが20世紀だったと隈はいう。

 地図の上に新たに書かれた鉄道という「線」に沿って一つの「夢物語」を構築し、そのストーリーに沿って一つ一つ「夢」を配置していく。「夢」は単独ではみじめな妄想にすぎないが、束ねられ、つなげられることによって、妄想から現実らしきものへと進化する。私鉄沿線の「郊外」とは、そのようにして出現した現実らしき場所のことであった。

 小林一三(阪急の創業者)も、五島慶太(東急の事実上の創業者)も私鉄に夢を見、実際にその配置をこころみたわけである。また、歩み寄り方は違えども、阪神を買収しようとした村上ファンドだって私鉄にある夢を抱いたことは間違いないだろう。しかし村上ファンドは夢を追うあまり、その夢が根ざす土地にあまりに無頓着であった。もっとも、第7章で書いたように、そのように地に足がついていない偏在的イメージをはらんでいるのが、阪神タイガースに象徴される阪神の企業色だともいえるのだが。

 「阪神タイガース」が、「大阪の球団の代表」たりえたのは、「阪神」が関西の私鉄のなかでは運行距離が短く、あまり目立たない存在だったからこそ、「企業色」が薄まって、「企業チーム」ではなく、「みんなのチーム」として受け入れられやすかったから、というような話には、なるほどなあ、と思いました。そういう感覚って、地元の人じゃないとわからないところってありますよね。

 鉄道関係、あるいは鉄道関係者の博物館や観光スポットなどが網羅されているガイドマップも面白かったです。なかなか実際に足を運ぶまでには至らないだろうなあ、というスポットが多いのですけど。

 「鉄道」というより「20世紀の都市開発」、そして、「鉄道に夢を求めた実業家たち」について興味を持っている方にはオススメできる本です。ただ、この本で採り上げられている「西武、京王、京急近鉄、阪急・阪神名鉄つくばエクスプレス」に日常接している人のほうが、よりいっそう親しみがわき、楽しめる本だろうとは思います。個人的には、西鉄も採り上げて欲しかったなあ。

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