琥珀色の戯言

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犯罪小説家 ☆☆☆


犯罪小説家

犯罪小説家

出版社 / 著者からの内容紹介
新進作家、待居涼司の出世作「凍て鶴」に映画化の話が持ち上がった。監督に抜擢された人気脚本家の小野川充は「凍て鶴」に並々ならぬ興味を示し、この作品のヒロインには、かつて伝説的な自殺系サイト「落花の会」を運営していた木ノ瀬蓮美の影響が見られると、奇抜な持論を展開する。待居の戸惑いをよそに、さらに彼は、そのサイトに残された謎の解明が映画化のために必要だと言い、待居を自分のペースに引き込もうとしていく。そんな小野川に、待居は不気味さを感じ始め――。全篇に充ちた不穏な空気。好奇心と恐怖が交錯する傑作心理サスペンス!

かなり多くの書店で平積みにされ、「気合を入れて売ろうとしているのだな」ということが伝わってくるこの作品、↑の「内容紹介」を読んだだけで、「おお、これは面白そうだな……」と思いました。
でも、読み終えての印象は、期待が大きかっただけに「なんというか、大きさのわりには餡が少ないアンパンみたいな感じ」でした。「この長さのわりには……」とか、つい考えてしまうのです。
この「内容紹介」を読むと、「2人の個性派作家の丁々発止のやりとり」みたいなのを想像するじゃないですかやっぱり。
ところが、実際の作中では、「ただうっとうしいだけの小野川とただ不機嫌にボーっとしているだけの待居」でしかなくて、「自殺サイトの秘密」も「真犯人」にも全然驚くべき点がないのです。むしろ、「これで終わっちゃっていいの?」という読後感。
作中で、「自殺サイトの話なんて、読みたい人は少ないんだから」と登場人物のライター・今泉がアドバイスされるシーンがあるのですが、僕はその言葉を雫井脩介さんにそのまま進呈したい。僕は「自殺サイト」に興味がないわけじゃないんだけど、「サスペンス小説」のなかに「詳細な自殺サイトのドキュメント」を挿入されてしまうと、「こういうのが読みたくて買ったわけじゃないのに」と言いたくなります。
というか、この小説、参考文献にも挙げられている『明日、自殺しませんか 男女7人ネット心中』(渋井哲也幻冬舎)の影響を受けすぎ。僕は『明日、自殺しませんか』を既読だったので、なおさらこの小説に「うんざり」してしまったのかもしれませんが。

結局、この作品で書きたかったのは「作家の業」?「ネット心中」?「どんでん返しのサスペンス」?どれも中途半端。
みんな詰め込みすぎて、かえって「中途半端な要素の羅列」になっています。
評判になったという待居の小説『凍て鶴』のあらすじのつまらなさにも悶絶。
ちょっと前に、松本人志さんが『王の男』という映画の感想で、「内容はともかく、主人公のコメディアンの『笑わない王を笑わせた芸』が、あまりにつまらなくて感情移入できなかった」と書かれていたのを思い出しました。
そういう小道具の弱さで「しらけてしまう」作品って、けっこうあるんですよね本当に。

せめてあと100ページくらい短かったらそれなりに緊迫感もあったんだろうけど……最後のけっこう面白いところにたどり着くまでが、けっこう大変で「割に合わない」感じでした。

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