琥珀色の戯言

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聖女の救済 ☆☆☆☆


聖女の救済

聖女の救済

内容(「BOOK」データベースより)
男が自宅で毒殺されたとき、離婚を切り出されていたその妻には鉄壁のアリバイがあった。草薙刑事は美貌の妻に魅かれ、毒物混入方法は不明のまま。湯川が推理した真相は―虚数解。理論的には考えられても、現実的にはありえない。

あの『容疑者Xの献身』に続く、『ガリレオ』シリーズの長編第二作。
この長編と『ガリレオの苦悩』という短編集の2冊を『容疑者X』の映画で盛り上がっている時期に出したといことに、東野さん(というより文藝春秋の?)商売の上手さを感じずにはいられません。
いまや、ミステリ界は「東野圭吾のひとり勝ち状態」で、「他の作家とは一桁違う」らしいですし(2009年度版の『このミス』の座談会でそんな話が出ていました)。

この『聖女の救済』、僕にとっては、「最近読んだミステリのなかでは、間違いなく良質だと言える作品」なのですが、その一方で、「やっぱり、『容疑者X』に比べると物足りないなあ」とも感じました。
それは、この作品が悪いのではなくて、『容疑者X』が、「圧倒的な作品」だったからなのですけど。
トリックの「ありえなさ」「こんなことできるヤツ、いないだろ……感」としては、『容疑者X』も『聖女の救済』も同じくらいのレベルだと思うんですよ。
でも、この2作の最大の違いは、犯人のトリックについて、『容疑者X』は、「それでも石神ならやってもおかしくないか……」と感じられるのに比べて、『聖女の救済』は、「この人に、そんなことができるとは思えないな……」というところなんですよね。
「あちらからも仕掛けてくる」石神の場合は、湯川との「勝負」だったけど、この作品の場合は、「弱い立場の犯人をジワジワと湯川&内海が追いつめていくだけ」ですし。

それでも、あの傑作のあと、どうしても比較されるであろう『ガリレオ』シリーズの長編として、これだけの作品を書き上げた東野圭吾さんは、やっぱりすごいですよね。
個人的には、僕も同じようなことをした経験があるので、それが「事件解決の決め手」になってしまった草薙刑事のせつなさには、ものすごくシンクロしてしまいましたよ。
東野さんは、単なる「奇抜な謎解き」だけじゃなくて、こういう「人間の心の痛み」みたいな一味を加えるのが、素晴らしく上手い作家だなあ、とあらためて思いました。
人気作家の人気作品の続刊なので、ネガティブな評価をされがちなのだけど、ひとつの作品として、本当によくできたミステリです。


容疑者Xの献身 (文春文庫)

容疑者Xの献身 (文春文庫)

↑「2008年、日本でいちばんよく売れた文庫」らしいです。傑作。

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