琥珀色の戯言

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【読書感想】篦棒な人々ー戦後サブカルチャー偉人伝 ☆☆☆☆☆

篦棒な人々ー戦後サブカルチャー偉人伝 (河出文庫 た 24-1)

篦棒な人々ー戦後サブカルチャー偉人伝 (河出文庫 た 24-1)

内容紹介
戦後大衆文化に放たれた、激烈なるエネルギー――
康芳夫(マルチプロデューサー、虚業家)/石原豪人(挿絵画家、画怪人)/川内康範(月光仮面原作者、生涯助ッ人)/糸井貫二(全裸の超・前衛芸術家) 彼らケタ外れの偉人たちを追う伝説のインタビュー集。裏の昭和が熱く妖しくよみがえる。

サブカルチャー総合誌『クイック・ジャパン』創刊当初の名物企画から生まれた名著『篦棒(ベラボー)な人々』、待望の文庫化。 解説=本橋信宏

いやこれは凄い、本当に「箆棒(ベラボー)な」インタビュー集です。
僕はインタビューとか対談を読むのが大好きで、かなりいろんなものを読んできたのですが、この本は間違いなく、それらの「インタビュー本」の5本の指に入ると思います。
それで、何がすごいかというと、インタビューされる人たちがみんな「怪人」ばっかりなんですよ。
そして、彼らは竹熊さんに対して、実に奔放に自分のこれまでの人生や思想を語っているのですが、その内容がまた、常軌を逸したものばかり。
僕はインタビューを読むときに、「役に立ちそうな言葉」に付箋をつけていくのですが、この本には、「僕の人生に反映できそうな言葉」は一切出てきません。
読みながら、「なんなんだこの人たちは、すごいなあ、絶対にマネできないなこんなのは……」と圧倒されるばかりです。
でも、圧倒されながらも、「世の中には、こんな『箆棒な』人生を送っている人がいるのだ」ということを知るだけでも、なんとなく自分が閉じこもっていた殻に風穴が開いたような、少し清々しい気分になれるんですよね。

康芳夫さんのインタビューは、たしか以前読んだことがあったのですが、他の3人の「肉声」を読んだのは、これがはじめてでした。
石原豪人さんの、あの妙に色っぽい(いや、「色っぽい」という意味が当時はよくわからなかったんだけど)、親の前で見るのがなんとなく憚られるような絵にたどり着くまでの人生や怪獣ブームの頃のハードな仕事ぶり。

石原豪人今でも忘れられないのが大伴昌司とやった『少年マガジン』の仕事です。昭和40年代、(怪獣)ブームの終わりの頃で、大伴さんから百匹の怪獣を描いてくれって注文を受けたんですが、締め切りまで2日しかないんです(笑)。計算してみたら、一匹二十分で描かなければ終わらない。なんとか3日に伸ばしてもらったけれど、死ぬかと思った。時間がないからトイレにも行かないの。怪獣ブームの末期だったから、テレビに登場した怪獣は全部描いた。しまいには見たことない怪獣まで描くんです。完成した瞬間、バタッと倒れてそのまま死ぬって感じでした。

あの絵が一匹20分!!
いや、大人になって見直してみると(この文庫にも、石原先生の絵が(モノクロですが)いくつか採録されていて、それだけでもこの本にはかなりの価値があるのではないかと思います)、石原先生の絵はすごい、本当にすごい。上手いっていうよりエロい、エロすぎる。フレッド・ブラッシーが猪木に噛み付こうとしている絵すらエロい。

そして、この4人のなかで、僕の先入観ともっとも異なった人が、川内康範さんでした。
森進一に「俺の書いた歌詩を勝手に変えやがって!」と噛み付きまくっていた頑固で偏屈なおじいさん、というイメージしかなかった川内さんが、戦争中にどうにか生き延びたくて病気が治らないフリを続けて除隊されたことを告白し、その罪滅ぼしの気持ちもあって、戦後は遺骨収集に個人として積極的に携わったことを率直に語っておられるんですよね。
川内さんは『月光仮面』の原作者としても有名なのですが、『月光仮面』について、こんなふうに語っておられます。

川内康範月光仮面月光菩薩に由来しているんだけど、月光菩薩は本来、脇仏なんだよね。脇役で人を助ける。月光仮面もけっして主役じゃない。裏方なんだな。だから「正義の味方」なんだよ。けっして正義そのものではない。この世に真の正義があるとすれば、それは神か仏だよな。月光仮面は神でも仏でもない、まさに人間なんだよ。

正義の「味方」という言葉に、こんなに深い洞察が込められていたとは、僕は考えたこともありませんでした。
人間は、どうあがいても「正義そのもの」にはなれない。
川内さんには、テレビではじめて裏方さんたちの名前をテロップで流すようにしたというエピソードもあって、僕はこのインタビューを読みながら、「偏屈じじいだとばかり思いこんでいてすみませんでした」と謝りたくなりました。

最後に、「生きること、表現することのせつなさ」が伝わってくる「ダダカン」こと糸井貫二さん。
僕もこの人の写真、どこかで見たことがあるんですよね。
竹熊さんが実際にダダカン本人にまでたどり着いたのもすごかった。

こういう「サブカルチャーの証人」たちに、ここまで切り込んでいった竹熊さんの仕事は本当に素晴らしいものですし、「太平洋戦争を体験して、戦後をつくっていった人たち」について、あらためて考えなおすきっかけにもなるインタビュー集だと思います。

ここで紹介されている4人なんて、名前も知らないよ、という人にこそ、ぜひ読んでもらいたい本。

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