琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

ぐるりのこと。 ☆☆☆☆


ぐるりのこと。 [DVD]

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内容紹介
「めんどうくさいけど、いとおしい。」
「いろいろあるけど、一緒にいたい。」

“決して離れない”1組の夫婦の10年を描いた、珠玉のラブストーリー

とても静かで、「どこにでもある物語」なのですが、だからこそ素晴らしい作品。
この映画で木村多江さんは日本アカデミー賞の主演女優賞を受賞されたのですが、木村さんの演技の素晴らしさはもちろん、夫役のリリー・フランキーさんも、すごくいい存在感を醸し出しているんですよね。
一般的な「演技」の感覚からすれば、リリーさんのセリフはなんかボソボソしゃべっているし、「カメラの前で演技することへの照れ」みたいなものが伝わってくるので、明らかに「浮いていて」最初のころはけっこう違和感があったんですよ。
でも、観ているうちに、「実際の夫婦の会話って、こんな感じだよなあ」と、すごく納得できました。
たぶん、リリーさんは狙ってやっているんじゃないのだと思いますが、これはもう、キャスティングの妙なのだろうな、と。

この映画、僕が20代前半くらいのときに観たら、たぶん、よくわからなかったのではないかな。
「どこにでもいる、さえない男と女が昔のことにグダグダこだわり、別れる勇気もないままダラダラと日常を続けていく物語」だとしか思えなかったような気がします。

そういう意味では、まさに「大人向け」の作品。
外からみれば、「どこにでもいる、ごくふつうの夫婦」であっても、いろんな紆余曲折があるものだし、「幸せ」なんて、ちょっとした偶然で壊れてしまうもの。
もしうちの息子が急に死んでしまったりしたら、僕たちはそれでもお互いを責めずに支えあっていけるだろうか?
どちらかが心を病んで、相手を傷つける言動を繰り返すようになっても、それを「許す」ことができるだろうか?

僕はこの映画を観ながら、結婚式の「誓いの言葉」を思い出さずにはいられなかったのです。

その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?

これを新しい夫婦が神様の前で「誓う」のは、これを続けていくのが、本当に難しいことだから、なんですよね、きっと。

どうしていいか、わかんない……

もっと……もっと……もっとうまくやりたかったの……

でも……うまくできなくて……

もうできないかもしれない……

翔子(木村多江)のこんな述懐を聴きながら、僕も一緒に少し泣きました。
僕も「もっと、うまくやりたかった」し、「もっとうまくやれるつもり」だったから。
たぶん、みんなそうなんだと思う。
でも、だからといって、他人と比べることによって救われるわけじゃない。

とにかく地味で、ちょっと長いような気がするし、途中で眠くなるかもしれませんが、それでも、ぜひ多くの人、とくに僕や主人公たちと同じ30代〜40代の皆様に観ていただきたい作品です。
「隣に誰かがいることの喜び」と「隣に誰かがいても消せない寂しさ」。
「うまくやれない」けど、みんな、なんとか生きている。
それって、本当はすごいことなのかもしれませんね。

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