琥珀色の戯言

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トウキョウソナタ ☆☆☆☆


トウキョウソナタ [DVD]

トウキョウソナタ [DVD]

【ストーリー】
ボクんち、不協和音。

お父さんも、お母さんも、お兄ちゃんも、そしてボクも――みんなナイショの秘密をもっている。
舞台はトウキョウ。線路沿いの小さなマイホームで暮らす四人家族のものがたり。
リストラされたことを家族に言えないお父さん。ドーナツを作っても食べてもらえないお母さん。
アメリカ軍に入隊するお兄ちゃん。こっそりピアノを習っている小学六年生のボク。
何もおかしいものなんてなかったはずなのに、気づいたら家族みんながバラバラになっていた。
いったい、ボクの家で何が起こっているのだろう?


内容(「キネマ旬報社」データベースより)
鬼才・黒沢清監督が、香川照之小泉今日子ほか共演で手掛けた家族ドラマ。リストラされた父、ドーナツを作っても食べてもらえない母、米軍に入隊する兄、こっそりピアノを習う弟。ちぐはぐな4人家族が、紆余曲折を経て一筋の光明を見出すまでを紡ぐ。

良質の「現代の家族像」を描いた映画、だと思います。
ただ、このDVDを観終えて、僕が最初に考えたのは、「ああ、この男の子はかわいそうだな」ということでした。
彼の「才能」は崩壊してしまった「家族の絆」を再生するための大きなキッカケにはなったけれども、これからのこの家族は、この男の子にずっと「希望」を投影し続けることになるはず。それは、彼ら、とくにこの男の子にとって、ものすごいプレッシャーになると思うんですよ。家族のなかの「最も小さき者」に寄りかかるような、そんなイビツな状態が、本当に「再生」につながるのだろうか?

名優・香川照之さんが演じる「プライドを捨てられずに行き詰っていく男」を観ていると、僕はなんだか絶望的な気分になってしまいました。僕自身も、しょっちゅう「なんだったら、こんな職場いつでも辞めてやる!」みたいなことを考えて溜飲を下げる日々なのですが、そういうことを想像することすら怖くなるような暗黒の未来予想図。旧友・黒須(津田寛治)さんとその家族の描写がまた、せつないというかえげつないというか……
小泉今日子さんも、あらためて「女優」になってしまったなあ、と感慨深かったです。
ただ、役所広司さんが出てくるシーンは、僕には不要というか蛇足に感じられました。役所さんは素晴らしい俳優なんだけど、「何をやっても役所広司」になってしまうところがあって、この作品の世界から、「役所映画の世界」に迷い込んでしまったような気分になったので。
「船頭多くして、船、丘に上る」とは、こういうことなのかな、と。

いかにも「いわゆる『映画通』の人たちが絶賛しそうな映画」ではあり、実際にそうなのですが、僕は正直、この映画の「あまりにもうまくできすぎている感じ」がちょっと苦手です。最近の夫婦・家族モノとしては、『ぐるりのこと』の「荒削りな感じ」のほうが好き。こういう「わかりあえない家族モノ」のなかでは白眉だと思いつつも、「こういう小説や映画はもう飽きてきた」のも事実なのです。

でも、僕がこの映画の素晴らしさを頭では理解しながらも感情的に受け入れにくいのは、僕も同じような生活をしてきて、たいした才能もないのに「家族の期待」を背負わされた(と思い込んでいた)からかもしれません。

僕がこの映画でいちばん心に残ったのは、小泉さんが演じているお母さんが、「ドーナツ作ったんだけど、食べない?」と家族に声をかけるのだけど、家族みんなに「いらない」と言われてしまうシーンでした。
僕もああいうときに「いらない!」って、「とくに理由もない反抗心」で、親からのコミュニケーションの糸を断ち切る子どもだったから、なんだかとてもお母さんとドーナツに申し訳なくて。
ようやく、「せっかく作ったドーナツを食べてもらえないお母さんの悲しみ」がわかるようになったときには、もう、母親はいない。

僕の両親は「幸せ」だったのだろうか?
そして僕は「幸せ」になれるのだろうか?
そもそも、「家族」というのは、人間を幸せにできるシステムなのだろうか?

でもね、結局のところ、「なんとかやっていくしかない」のだよね。
とりあえず、勢いにまかせて辞表を叩きつけるのは止めようと思います。
「平凡な家庭生活」に飽きている人や「こんな仕事はもう辞めてやる!」と苛立っている勤め人の皆様は、ぜひ一度観てください。

しかしこれ、「この男の子に才能がなかったら、この家族、どうなってたのかな?」と想像するとすごく怖い作品ですね……

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