琥珀色の戯言

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生きる意味って何だろう? 旭山動物園園長が語る命のメッセージ ☆☆☆☆


内容(「BOOK」データベースより)
雪の中で寄り添ったカバの夫婦。オランウータンのお母さんの子育て。キリンのお父さんの話、ゾウのアサコの死の話…。旭山動物園にいる動物たちは「命の絆」を知っています。一生懸命に生きる動物たちは「命」と「死」の意味、生きる知恵を私たちに教えてくれます。日常生活ではなかなか伝わらなくなってしまった「命」。動物たちと接する中で考え、思った“命のメッセージ”の話が満載。

僕も去年行ってきた旭山動物園。動物たちの「生態」を見せるためのさまざまな展示には、すごく惹きつけられました。
正直、平日の夕方だというのに、どこもすごい人だかりだったのには、驚きもしましたし、疲れもしたのですけど。

この本は、「日本一の動物園」の小菅園長が動物たちと触れ合うことから学んだ、さまざまな「命のメッセージ」が紹介されています。
とくに「動物たちの子育てから学ぶこと」は、人間の育児においても、役立つのではないかと。
人間も「動物」ですから。

ただ、その一方で、

 人間も、命をもらった目的はほかの動物たちと同じです。恋だとか愛だとか、惚れたはれたとかいうけれど、実はあれは、命が「お前の肉体はせいぜい数十年しかもたないのだから、若いうちに新しい命の入れ物を作っておけよ」というメッセージを全身に送っている証拠。命の衝動なのです。子供を作って育てたら「命」は安心します。動物園の動物も、野生の動物も、虫も人間も細菌もみな同じ。だから、本当は何も考えることはありません。ちゃんと命をつなぐことができれば、あとは死んでいけばいいのです。

というのを読むと、「そういう『自分の子孫を残すこと至上主義』から解放されてこそ、『人間』じゃないのか?」という気持ちにも、僕はなるんですよね。
小菅さんの言葉には、素直に響いてくるものもあれば、「あまりに動物寄りになりすぎてしまった、頭の固い昔気質のおじいちゃん」みたいに感じるものもあって、僕にとってはすべて賛同できるものではありませんでした。
もちろん、「そういう読み方だって、あっていい」のだと思いますが。

この本のなかで、僕がとくに印象に残ったところを御紹介しておきます。

 あるテレビ番組で永平寺の宮崎禅師が語っておられるのを見て、びっくりしたことがあります。それは、「悟りとは何か」と問われて、僕が考えていたことと同じことを禅師が答えていたからです。
 僕はそれまで、悟りというのは、生まれてきたときと同じように平気で死んでいけることだと思っていました。でも、ゾウのアサコを見ていて、それは違うのだということ気づいたのです。死を受け入れるというのは大変なことです。僕はきっとあがくと思う。でも、動物はあがきません。多くの動物たちに生への未練はない。本当に見事に死んでいきます。アサコもそうでした。トラが死んだときも、解剖してみると、腎臓がほとんど溶けてしまっていました。どうしてこんなに苦しいのに、平然として生きていられるのでしょう? そうなのです。悟りというのは、平気で死んでいけることではなく、平気で生きていけることだと気づいたのです。
 禅師の答えも同じでした。

 カバにも子育てを教わりました。カバのオス同士の闘争では、どれだけ大きな口を開けるかが勝負になります。だから、子供は父親を相手にその練習をする。もちろん父親は、大きな口を開けて子供をガブッと咬んだりはしません。子供より少しだけ大きく開けるだけで、いい練習相手になって咬まれてやる。でも、いくら子供とはいえ、歯は強いから、咬まれれば痛いし傷もつきます。父親は血だらけです。でも、それに耐えている。一方、カバの子供は父親を相手にさんざん闘った後に、母親の許にいばって帰ります。母親はそれを「頑張ったね」と迎えてやる。オスはオスで、メスに向かって「どうだい。オレ、頑張っただろう?」という顔をするんですね。
 母親が子育てしているとき、父親は何もしていないように見えるかもしれませんが、実はそういうところで、口を血だらけにしながら、子供に対する実験台になっているんです。
 一方で親離れの時期が来て、親が子供に「もう独り立ちしなさい」と伝えた後は、父親はもう子供として付き合うことはしません。もし子供が父親に生意気なことをしたら、ガーンと撥ね返して終わりです。

 あまりに「前時代的」な意見も多い本ではあるのですが、そのなかには、まちがいなく「普遍的なもの」が含まれていると思います。
 少なくとも、「頭でっかちな教育評論家の意見」よりは、はるかに心を揺さぶれるものがある。
 親にとっては、「子育て」の良いヒントになる本です。
 男の子の父親として、カバに大いに学ばなくては、と痛感しました。
 私はカバになりたい。

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