琥珀色の戯言

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宵山万華鏡 ☆☆☆


宵山万華鏡

宵山万華鏡

内容紹介
祇園祭前夜。妖しの世界と現実とが入り乱れる京の町で、次々に不思議な出来事が起こる。
登場人物たちが交錯し、全てが繋がっていく連作中篇集。森見流ファンタジーの新境地!
●祭りの雑踏で、幼い妹が姿を消した。妹は神隠しに遭ったのか、それとも…?「宵山姉妹」「宵山万華鏡」
●乙川は≪超金魚≫を育てた男。大学最後の夏、彼と宵山に出かけた俺は、宵山法度違反で屈強な男たちに囚われてしまう。襲いくる異形の者たち。彼らの崇める≪宵山様≫とは一体…?「宵山金魚」
●期間限定でサークル≪祇園祭司令部≫を結成したヘタレ学生たち。彼らは、学生生活最後の大舞台を祭の最中に演じようとしていた。「宵山劇場」
宵山の日にだけ、叔父さんは姿を消した娘に会える…。「宵山回廊」
●目が覚めると、また同じ宵山の朝。男は、この恐ろしい繰り返しから抜け出すことができるのか…?「宵山迷宮」

森見登美彦さんの最新刊。キラキラと光る表紙の装丁が素敵です。

読み終えて僕が感じたのは「けっして悪い作品じゃないんだけど、なんというか、森見さんはいま、試行錯誤しているのかなあ」ということでした。
森見さんの過去の作品でもみられる、それぞれの短編の登場人物が少しずつリンクしていく短編集なのですが、この作品では、最後にそれぞれのパーツがまとまって大団円、となるかと思いきや、結局、いろんな謎や登場人物の行く末が解決されないまま置き去りにされてしまっています。そのこと自体には、「こじんまりとうまくまとめただけの小説にはしたくない」という意思も感じるのですが、それぞれの短編も、「どこかで読んだ話」の焼き直しが多かったんですよね。おお、押井守!とか、森見さんの過去の作品のセルフカバーとか。
たぶん、京都の人や祇園祭に思い入れがある人にとっては、記憶のなかの祭りの妖しさが蘇ってきて、感情移入しやすい作品だと思うのですが、祇園祭に縁がない僕としては、「これは、地元の地理をすごくよく調べて書いているんだろうなあ」ということは伝わってきても、それが作品の面白さにはつながってこない、「中途半端なファンタジー+ホラー」っぽいんですよね。
『姉飼』とか『夜市』のような、「祭りを舞台にした、徹底的に猥雑でグロテスクなホラー小説」と比べると、上品な分だけ、やや退屈にも感じられます。
三人称で書かれていることも含め、「いままでの森見ワールド」からの脱却のプロセスとして書かれた作品ではないかと思うのですが、この作品そのものは、僕にとっては、単行本で1300円出して買うほどのものじゃないな、という印象でした。
過渡期の実験作という意味では、村上春樹さんの『アフターダーク』みたいな位置づけの作品なのかな、これは。
森見さんの大ファン以外にとっては、「文庫化待ち」で良いのではないかと思います。

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