琥珀色の戯言

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公式16連射ブック 高橋名人のゲームは1日1時間 ☆☆☆☆☆


公式16連射ブック 高橋名人のゲームは1日1時間 (ファミ通ブックス)

公式16連射ブック 高橋名人のゲームは1日1時間 (ファミ通ブックス)

内容紹介
生涯ゲーム名人宣言! 高橋名人のすべてがまるごとわかる本
ゲーム名人ってどんな仕事なの? 日本で唯一「ゲーム名人」の肩書きを持つ高橋名人が自らの過去を振り返る、まるごと名人読本。名人ファンだけでなく、ゲーム業界に興味がある人にもササるエピソードが満載!

内容(「BOOK」データベースより)
思わず発した「ゲームは1日1時間!」が引き起こした大問題から25000人を超えいまだに増加し続けるマイミク伝説まで、高橋名人のすべてがわかる。

カラーページが多いとはいえ、この160ページの本が定価1600円+税、というのは、ちょっと高い気はしますし、楽しめる読者を選ぶ本だとは思います。
やっぱり、あの「16連射」「ゲームは1日1時間」をリアルタイムで体験した人でないと、感情移入は難しいでしょうしね。

それでも、いまでは多くの人が子供の親になっている「ファミコン少年」世代にとっては、ものすごく面白くて懐かしいのと同時に、力づけられるというか、「ああ、いろいろあったけど、いままで生きてこられて良かったんじゃないかな」って、感じさせてくれる本です。

僕は『スターフォース』『スターソルジャー』の「ハドソンのゲームキャラバン、そして高橋名人の全盛期」には、あまり「高橋名人」が好きじゃなかったのです。
当時はもう中学生だったので、「名人」というのが、いかにも「子供騙しの広告塔」に見えたし、高橋名人って、気の良いだけが取り柄の、連射が速いだけのオッサンだし。

しかしながら、最近になって、昔のファミコン全盛期に子供だった人たちが「メディアの担い手」となり、「高橋名人」があらためてメディアに露出するようになりました。
そして、髪の毛はスキンヘッドになってしまったけれど、相変わらずの元気の良さで立て板に水のマシンガントークを繰り広げる高橋名人の姿を観ると、なんだかすごく嬉しくなってしまう自分が不思議なのです。そんなに好きじゃなかったはずなのに。

あの1985年、86年の『スターフォース』『スターソルジャー』の「全盛期」を過ぎ、雨後の筍のごとく乱立していた「名人」たちが自然消滅していったなか、高橋名人は「過去の人」だと見なされながらも、けっして、「名人」であることをやめなかった。
もちろんその理由は、高橋利幸というハドソンの社員が、営業・宣伝の一環として「名人」をやっていたから、でもあるのでしょう。
でも、いまの高橋名人を見ていると、僕たちが「高橋名人って、昔いたよなあ、今、何やってるんだろうなあ……」なんて、ごくたまに「昔話のネタとして」思い出すくらいだった20年くらいの間も、この人は、ずっとあの頃の高橋名人だったんじゃないかという気がするのです。
それって実は、「数年間のブームをつくったこと」以上に、すごいことなんじゃないかなあ。

この本では、「高橋名人ハドソンに入った頃の話」(当時シャープX1が家にあり、マイコン少年だった僕にとっては、ものすごく懐かしい時代です)や「ゲームは1日1時間」という言葉が誕生したきっかけやその波紋、さらに、映画『GAME KING 高橋名人VS毛利名人 激突! 大決戦』の舞台裏のエピソードなどが、高橋名人や当時の関係者から語られています。あの頃の僕が聞いていたら、その「大人の事情」みたいなものに憤っていたんじゃないかと思うようなエピソードもあるのですが、今となっては、みんな良い思い出ですし、「ゲームとゲーム業界が劇的に進化していった時代」に10代を過ごせたのは、すごく幸せだったな、と感じます。モテなくても、テストの成績がそんなに良くなくても、体育の時間が憂鬱でも、ゲームは、いつも僕の傍にあったのだから。

あの『1999年のゲーム・キッズ』の渡辺浩弐さん(渡辺さんが、前述の映画『GAME KING』のシナリオを書かれていたんですね、初めて知りました)が、インタビューのなかで、高橋名人について、こんなふうに仰っておられたのが、僕にはすごく印象に残りました。

 映画になっているのは一部分で、裸になって温泉に飛び込んだりとか、ホントくだらないことをいっぱいやらされてるんですよ。でも文句ひとつ言わずに、移動のときなんかスタッフに混ざって荷物を持ってくれたりもするわけですよね。そういう、何というか、もう絵に描いたような人格者ですよ。しかも非常にピュアだし。ただ、あまりにも純粋でピュアだから、ちょっと”イタイ人”みたいな感じの捉えかたもできちゃうというか、僕はマイケル・ジャクソンが好きだったんですけど、晩年の彼は笑いものになっていたじゃないですか。でも死んじゃうとね、あれで良かったのかなと思って、ちょっと胸が痛いんですよね。みんなマイケル・ジャクソンでプッと笑っちゃう状況のなかで、でもあれだけの作品を作ったすごい人が、最終的に薬漬けになって死んじゃったみたいな。高橋名人もですね、「ゲームの名人なんておかしいよね」とか、「50歳でゲームの名人だって、ププッ」みたいな、そういう風に彼の功績を斜に構えて捉えるのではなくてですね、それを彼は恥ずかしがらずにいて、いまだにしっかりやっているっていうね。そのスタンスに、ちょっとリスペクトを取り直す必要があるのかな、と思いますね。

いま、高橋名人が「恥ずかしがらずにいて、いまだにしっかりやっていること」に、当時の名人の年齢をはるかに超えてしまった「ファミコン少年」たちは、「まだ『名人』やってるのかよ!」ってツッコミながら、ものすごく励まされているのではないかなあ。僕ももちろん、その一人です。あの時代の「当事者」として、プライドを持って語り続けている人が、「現役」でいてくれる。
寄る年波には勝てず、もう16連射はできないとしても、高橋名人は、ずっと、僕たちの「名人」です。

ひとりでも多くの「あの頃のファミコン少年」に読んでもらいたい本。

参考リンク:『高橋名人公式ブログ 16連射のつぶやき』

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