琥珀色の戯言

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南極料理人 ☆☆☆☆


映画『南極料理人』オフィシャルサイト(注:音が出ます!)

あらすじ: 西村(堺雅人)は南極の昭和基地からも遠く離れた陸の孤島、南極ドームふじ基地に料理人として派遣される。妻(西田尚美)と娘を置いての単身赴任生活で、彼は8人の男性南極越冬隊員たちの胃袋を満たすという大役を任される。基地では雪氷学者(生瀬勝久)をはじめ、雪氷サポート隊員(高良健吾)らが彼の料理を心待ちにしており……。

参考リンク:『南極料理人』堺雅人インタビュー(Yahoo映画)

 土曜日のレイトショーで鑑賞。そんなに派手な宣伝もされていないし、もしかして観客が僕一人ってことはないよね……とか考えていたのですが、館内には50〜60人くらいとかなりの盛況でした。堺雅人さんの人気もあるのでしょうが、地方の映画館でもこういう比較的地味な佳作に人が集まるというのはすばらしいことですよね。
 僕はもっとアカデミック、あるいは真面目なヒューマンドラマみたいになっているのかな、と想像していたのですが、笑いを交えながら、「全寮制男子校に入れられたオッサンたち」の悲哀とやけっぱちの盛り上がり、そして、男だらけの世界の気楽さと寂しさが伝わってくる、なかなか味のある作品でした。
 南極観測隊の物語ですから、犬が置き去りにされるようなドラマチックな展開があるのかと思いきや、全然そんなことはなく、描かれていたのは、「絶対に外に出られない世界に取り残され、家族とも離れ離れで1年以上生きていかなければならない男たちが、静かに追い詰められていく姿」だったのです。
 そういう極限状態で、人間の精神を支えるのは、やっぱり「食べること」なのだなあ、と、しみじみ感じてしまう映画でした。 
 主人公の西村淳隊員は、堺雅人が演じていることもあり、飄々とした人物として描かれていて、原作ではもっと豪快じ押しが強そうな人だったけどなあ、と思いながら観ていたのですが、出てくる料理の大部分は豪快で、まさに「男の料理」という感じ。でも、一歩外が「ウイルスすら生きられない世界」であるからこそ、この料理の力強さが大事なんですよね、きっと。あのエビフライは、さすがに「もったいないなあ」と思いましたけど(ただし、参考リンクでのインタビューによると「ものすごくおいしかった」そうです)。
 南極という「極限」の状態で、「食べる」という行為をクローズアップすることによって、普段自分が「生きるために食べる」という「根源的な食べる理由」に対して、いかに無頓着なのかということを考えさせられる作品です。
 そして、画面を通して見る、隊員たちの食べる姿からは、言葉以上の「個性」が伝わってきて、「僕がふだん食事している姿は、周りの人にはどう見えているのだろう?」と怖くもなりました。
 劇中に、自分の研究に熱中するあまり、「俺たちは南極にメシ食うために来てるんじゃない!」という言葉を吐く隊員がいるのだけれど、それでもメシを食わないと生きていけないのが人間なんですよね。だからこそ、「メシを食うためだけの人生」に多くの人は満足できないのかもしれないけれど(僕もそうです)。

 いま最も勢いのある俳優のひとりである堺雅人さん主演で、境さんばかりが目立つ映画かと思いきや、堺さんが一歩引いているように見えるほど、生瀬勝久さんや西田尚美さんなどの実力派がしっかり自分の色を出しています。

 堺さんというのは、けっこう自分と自分の作品を客観的にみている人みたいです。
(以下は、「参考リンク」の堺雅人さんのインタビューから)

Q:出来上がった映画をご覧になっていかがでしたか?

僕はこじんまりとした……というか、もっとあっさりした作品になるのかと思っていたんです。でも、自分が思っていたよりもずっと見ごたえがある作品になっていましたね。一つ一つのエピソードをすごく丁寧に描いていたので、何気ない会話が続いて、何か大事件が起こるというわけではないのに、観終わってからどっしりとした読後感のような気持ちを味わえました。原作とはまた違う楽しみ方ができるので、原作ファンの方も新鮮な気持ちで楽しんでもらえると思います。

たしかに、「思っていたよりもずっと見ごたえがある作品」でした。

僕は、原作の圧倒的な「豪快さ」も大好きなので、こちらもぜひご一読をおすすめしておきます。

面白南極料理人 (新潮文庫)

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