琥珀色の戯言

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赤い指 ☆☆☆


赤い指 (講談社文庫)

赤い指 (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
少女の遺体が住宅街で発見された。捜査上に浮かんだ平凡な家族。一体どんな悪夢が彼等を狂わせたのか。「この家には、隠されている真実がある。それはこの家の中で、彼等自身の手によって明かされなければならない」。刑事・加賀恭一郎の謎めいた言葉の意味は?家族のあり方を問う直木賞受賞後第一作。

 もうすぐ1歳の男の子の親である僕としては、なんだかとても憂鬱になる小説でした。
 こんなこと、僕の将来に起こるわけはない、と信じたいけれど、同じような事件の当事者になった親たちは、みんなそう思っていたのだろうな、と。
 この『赤い指』に出てくるのは、「どこにでもある、あまりうまくいっていない家族」です。
 僕は子供のころ、「もっと仲良く、和気あいあいとした、それこそ『サザエさん』みたいな家に生まれてきたかったなあ」なんて考えることが多かったのですけど、大人になって、親しい人たちの子供時代の話を聞いてみると、外からみれば「絵に描いたような幸福な家族」でも、その内側には、さまざまな問題があるのだ、ということがよくわかりました。
 むしろ、「問題がない家族のほうが、少数派」なんですよね実際は。

 「家族」っていうのは、人生の大きな基盤であるのと同時に、個人として生きる上では、ものすごく脆い部分でもあります。
 僕の先輩に、すごく優秀な女性がいたのですが、彼女は結婚して男の子をひとり生んだあと、離婚してしまいました。まだ小さい子供を引き取ったため、当直や夜間呼び出しがある大きな病院で働くことができず、日勤のアルバイトなどをしながら、「今は長男と仲良くのんびりと暮している」そうです。能力だけなら、大きな病院でスゴイ仕事をしているはずの人なのに(もちろん、この場合はどちらが幸せかなんて、他人には決めようがないのですが)。
 家族の介護のために仕事をやめざるをえない人もたくさんいるし、自分の子供ならまだしも、親や兄弟が罪を犯してしまったために、人生が一変してしまう人もいます。
 「親の育て方が悪い」って言うけれど、「もっとも酷い育てられ方をした子供が、もっとも酷い罪を犯す」わけじゃない。
 この『赤い指』の舞台となる家庭は、たしかに問題だらけだけれど、このくらいの「酷さ」は、どこにでも転がっているものだし、僕だって、そんなに立派な子育てができるとは思えない。

 『さまよう刃』のときも感じたのだけれど、こういう「普通に生きている人に降りかかる、容赦ない犯罪」を描いているときの東野さんの冷徹さには、怖ろしい気分になります。
 そして、ごく普通に生きているはずの人も、どこかがズレているし、「絶対的な正しさ」なんて、どこにもないのかもしれません。

 加賀恭一郎の「親不孝の真相」が、「いい話」なのかと言われると、僕は、そんな理由であんなに頑なになるというのは、やっぱり「異常」だと思うんですよ。
 でも、人って「家族」のこととなると、みんな傍からみると「異常」になってしまうのではないかなあ。

 ミステリとしては「そのどんでん返しは、あまりにも強引というか、そんなことを続けるのは無理なんじゃない?」と言いたくなりますが、「家族」について、ものすごく考えさせられる小説です。

 でもさ、「仕事のために家庭を顧みない」っていうのは問題なんだけど、ずっと自分を犠牲にしながら「子供のため」って言い続けている親が、子供を幸せにするってわけでもないんだよね、実際は。

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