- 作者: 有川浩,大矢正和
- 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2009/12/16
- メディア: 文庫
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内容(「BOOK」データベースより)
小劇団「シアターフラッグ」―ファンも多いが、解散の危機が迫っていた…そう、お金がないのだ!!その負債額なんと300万円!悩んだ主宰の春川巧は兄の司に泣きつく。司は巧にお金を貸す代わりに「2年間で劇団の収益からこの300万を返せ。できない場合は劇団を潰せ」と厳しい条件を出した。新星プロ声優・羽田千歳が加わり一癖も二癖もある劇団員は十名に。そして鉄血宰相・春川司も迎え入れ、新たな「シアターフラッグ」は旗揚げされるのだが…。
有川浩さんの文庫書きおろしなんて、「メディアワークス文庫」も力が入ってるなあ、でも、単行本でも十分稼げる人なのだから、こうしていきなり新レーベルの文庫で出すのは、駄作だからなのでは……などといろいろ勘ぐりながら購入。
結果的には、エンターテインメントとして必要かつ十分に楽しめる良作だったんですけどね。
良くいえば「王道」、悪くいえば「ありきたり」な「熱血ラブコメ群像劇」なのですが、有川さんは、以前、NHKの『トップランナー』に出演されていたとき、「ベタで何が悪い?」「読者が求めるものを書くのが自分の仕事」というような話をされていたんですよね。
この作品の舞台「シアター・フラッグ」の舞台を、有川さんはこんなふうに描いています。
春川巧の脚本は分かりやすすぎる、といつも批判されていた。
軽い。うすっぺらい。深みがない。
客が単純に笑って帰れる芝居があってもいいじゃないか。
分かりやすくて何が悪い。誰にでも分かる芝居で何が悪い。そう思ってはいたものの、まともに批判が耳に入るといつも揺らいだ。
おもしろかった。けど軽いから減点。
公演のアンケートでこんな感想が返ってくると泣きたくなった。シアターフラッグの持ち味は軽快さだ。軽さによるおもしろさを楽しんでおきながら、軽いことが悪いと言うのならどうすればいいのか。
軽快という価値観は最後の最後でどうしても瑕疵になるしかないのか。だとすれば自分は永遠にキズモノしか作れない。仲間をキズモノづくりに付き合わせることしかできない。
僕はこれを読んで、ああ、有川さんは、「シアター・フラッグ」に自分自身とその作品を投影しているんだな、と感じました。
「わかりやすすぎる、軽い、薄っぺらい、ベタだ」というような批判は、有川さん自身がこれまでにさんざん「読書家」や「評論家」にさんざん浴びせられてきたものだったから。
いや、僕自身も、有川さんの作品について、そういうイメージを持っているのも事実です。
「アート」の名の下に、「わかりにくい作品」ばかりが「評価」されるのは、おかしいんじゃない?
この作品には、そんな有川さんの「心の声」が隠されているように僕には思われるのです。
僕も舞台を観に行くのが好きなので、「劇団」しかも「貧乏劇団」を有川さんが採り上げられたのは興味深かったです。ただ、ちょっと残念だったのは、この劇団が上演している舞台『掃きだめトレジャー』が、全然面白くなさそうだったこと。以前、『王の男』という映画に対して、松本人志さんが「作品の内容はともかく、劇中で王に気に入られる『ものすごく面白い芸人』の芸があまりにつまらないので興ざめだった」と仰っていたのですが、僕もそういうのが気になる性質なんです。
この脚本で楽しめるのは、羽田千歳が出ているだけでうれしい!というコアなファンだけなのでは……
個人的には「劇団とお金」について、もう少し突っ込んで書いてほしかったのですが、あまり生々しくしないのも、有川さんらしい匙加減なのでしょう。
「熱血ラブコメ群像劇」に抵抗がない人にとっては、安心して楽しめる作品。
これまでコンサートや映画には行くけど、舞台はちょっと敷居が高い、と思っていた人が、舞台に興味を持つきっかけにもなるんじゃないかな。
ところで、これ、続編があるんですよね。
じゃないと、「旅の仲間」でおしまいの『ロード・オブ・ザ・リング』みたいだものなあ。