琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

マン・オン・ワイヤー ☆☆☆☆


内容紹介
アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞をはじめ、全世界の映画賞50冠以上に輝く!
夢を追いかける人全てに、生きる勇気と元気を与えてくれる、今年最高の感動ドキュメンタリー。

1974年8月7日朝、ニューヨークのワールド・トレード・センター。そのツインタワーを綱渡りで渡ろうとしたフランスの大道芸人がいた。
彼の名はフィリップ・プティ。高さ411m・地上110階という巨大な2つの建物の間にワイヤー(綱)を渡してその上を歩くのだ。命綱はない。彼は、なぜこんな危険をおかすのか?
実は、このフィリップ・プティ、ツインタワーが建設されることを知った6年も前から「あのタワーの間で綱渡りをしたい。」という夢を持っていたのだ。しかし、ツインタワーの警備は厳重だ。その上、距離にして42mも離れた両タワーの間に200kgの鋼鉄のワイヤーを渡さなくてはならない。
計画を成功させるため、ヘリコプターからの空撮、新聞記者を装っての侵入、あるいはビルの中にスパイを送り込む…その様子はまるで銀行強盗さながらでもあった。
また、仲間の裏切りなど予想外のアクシデントもプティたちの行く手を阻む。果たして、彼らは綱渡りを成功させることができるのだろうか?
驚愕と感動の傑作ドキュメンタリー!

Disc1:本編+予告編(日本版/イギリス版)
Disc2:特典映像集・アニメ『綱渡りの男』(The man who walk to between the towers)
声:ジェイク・ギレンホール(「ブローク・バック・マウンテン」)〈10分〉・プティ来日ゲリラパフォーマンス〈28分〉・プティ来日記者会見〈5分〉

ワールド・トレード・センターのツインタワーの屋上を綱渡りした男」フィリップ・プティ
彼の名前は知らなくても、高層ビルの間を綱渡りする映像を観れば、「ああ、そういえば、そんな無謀なヤツがいたな……」と思い出す人も多いのではないでしょうか。
高所恐怖症の僕は、その綱渡りの光景だけで絶句してしまい、あまりの現実味のなさに、この映画の予告編を観ながら、「ああ、この人だったら、『カイジ』の鉄骨渡りも、あっさりクリアしてしまうんだろうな」などと思ったくらいです。

僕がこのドキュメンタリーを観て意外に感じたのは、「関係者の証言をもとに、事実を淡々と追っている」ことでした。
こんなクレイジーな綱渡りのドキュメント、もし日本で作られたとしたら、まず、「フィリップ・プティは、なぜ、こんな無謀で危険なことをしたのか?」という理由が追究されるのではないでしょうか。
実は僕がこの映画を観てみたかったのも、「この人は、なんでこんなことをしようとしたのか?」が知りたかったんですよね。

しかしながら、この作品では、「ワールド・トレード・センター」のツインタワーで綱渡りをするために、フィリップ・プティと彼の仲間たちは、どんな下準備をして、当日はどういう行動をとったのか?」が丁寧に描かれており、「お涙頂戴的な、理由の説明」は全くありません。NHKの『プロジェクトX』みたいなんですよ。もちろん、ワールド・トレード・センターでの綱渡りなんて、誰も「許可」してはくれないでしょうから、「銀行強盗のように」やるしかなかったわけですが、あの綱渡りは、「冒険」というより「ミッション」と呼ぶべきかもしれません。

「理由」を知りたい、と思いながら観ていた僕がいちばん驚かされたのは、この歴史的な綱渡りを成し遂げたあと、あらゆる人に「なんでこんな綱渡りをやろうと思ったのか?」と尋ねられたというフィリップ・プティのこんな言葉でした。

みんなは、なぜこんなことをしたのか? とばかり聞いてくるけど、理由なんてない。だからこそすばらしいんだ。

僕たちは、誰かの「理解できない、想像できない行動」について、いつも、「なぜそんなことをするのか?」知りたがるけれど、実際のところ、「理由」なんてどこにもなくて、ただ、「なんとなくやりたいからやる」あるいは、「自分でもなぜだかわからなけど、それをやらずにはいられない」という場合が、けっこう多いのではないかな、と、僕はこれを観て感じたのです。
そういうのを「言葉」で説明しようとするのは不可能なのではないかと。

フィリップ・プティは、この歴史的な綱渡りの成功によって、多くのものを得るのと同時に、多くのものを失います。
「感動ドキュメンタリー」というより、人間の根源的な「業」みたいなものを感じさせてくれる作品。
正直、「お涙頂戴的な演出」が無いと、前半は「ちょっと退屈だな……」とも思ったのですけど、そういう「ドキュメンタリーの国による違い」なども含めて、とても面白かったです。
90分と観やすい長さでもありますし、興味を持たれた方は、ぜひ一度観てください。

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