琥珀色の戯言

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ゴールデンスランバー ☆☆☆


映画『ゴールデンスランバー』公式サイト

あらすじ: 凱旋(がいせん)パレード中に首相が暗殺された仙台、宅配ドライバーの青柳(堺雅人)は、久々に再会した旧友の謎の言葉を聞いた直後、警官から突然銃を向けられる。訳もわからず逃げ出した彼は、身に覚えのない証拠と見えない力によって無実の首相暗殺犯に仕立てられていく。絶体絶命の中、青柳は大学時代の仲間たちに助けられながら逃亡を続けるが……。

月曜日の20時からのレイトショーで観賞。
館内に入ったら、観客は1組のカップルだけで、ねっとりと密着していたのに気押されつ着席。
開始直後にもうひとり入ってきたので、合計観客数は4人でした。
封切りから少し経っているし、月曜日とはいえ、旬の人気俳優・堺雅人さんと竹内結子さんの共演のわりには、ちょっと寂しかったなあ。
このあいだ2人が共演していた『ジェネラル・ルージュの凱旋』は、けっこう良い作品だったのに。
(ちなみに『ジェネラル・ルージュの』まで書くと、ついつい『伝言』になってしまって困ります。ユーミン世代、なんだろうなあ僕も。

これまで中村義洋監督が撮ってきた伊坂幸太郎原作の映画は、『アヒルと鴨のコインロッカー』(これはすごい傑作!)、『フィッシュストーリー』(劇中曲が好き!)と、デキが良いものばかりでした。今回の『ゴールデンスランバー』も、「原作はあんまり好きじゃないんだけど、中村義洋監督なら、面白い映画にしていくれるんじゃないかな、堺雅人さんも竹内結子さんも好きだし、と、けっこう期待していたのです。
基本的には、退屈せずに139分間観ることができる「佳作」なんだけど、うーん、これ、僕にとっては、あんまり感情移入できない映画だなあ……

冒頭の青柳が森田に誘われて罠にかけられるシーンなんて、「おいおい、お前に『逃げろ!』とか『生きろ!』なんて言われてもねえ……」とドン引きだったし、通り魔「キルオ」が、いつも良いタイミングで現れるところなんか、あまりの御都合主義的な展開にガッカリ。そもそも、僕はこの「キルオ」ってキャラクターは、「作者にとって便利」であることと引き換えに、『ゴールデンスランバー』を、単なる「茶番」にしてしまっている元凶なんじゃないかと思うんですよ。状況的にやむをえないとはいえ、こんなヤツに助けられる主人公には、やっぱり共感しにくい。
香川照之演じる悪の警官も、あまりにステレオタイプで「香川さん、仕事いっぱいあるんだから、もっと選びましょうよ、自分を安売りしちゃダメですよ……」と言いたくなるくらい。
そもそも、この『ゴールデンスランバー』が評価され、売れてしまったことで、伊坂さんは現在の「監視社会を警告する路線」に走ってしまったのではないかなあ。
伊坂さんの不安は理解できるのだけれど、正直、いまの伊坂さんが描いている「権力=悪」っていうのは、あまりにも被害妄想的にすら感じられて、好きになれません。
僕が『アヒルと鴨のコインロッカー』とか『死神の精度』といった、比較的早い時期の作品のイメージを持ちすぎているせいかもしれないけど……

すみません、ちょっと脱線しすぎました。
あんまり難しく考えずに、「堺雅人の逃亡劇」として観れば、面白いとは思うんですよ。
観ていると、「大学時代の仲間たちは、いま、何やってるかな」なんて感傷的な気分になれますし、髪を短くした竹内結子さんの大学時代の姿は、すごくチャーミングです。
伊坂さんらしく、伏線もキチンと回収されていて、お見事!(しかし、あまりに見事に回収されすぎて、それがまたなんとなく居心地悪かったりもするわけです。贅沢だと自分でも思う)

とくに、伊東四朗さん演じる、青柳のお父さんの姿は、この映画のなかでも白眉でした。
「視聴者のニーズ」という暴力で、いったいどれだけたくさんの人たちが、傷つけられてきたのだろうか……

上映時間の関係で、原作よりさらに「御都合主義」にせざるをえない面もあったのでしょうが、「ハッピーエンド」と言っていいのかどうか悩ましい幕切れとともに、僕にとっては、「つまらなくはないんだけど、感情移入しきれない映画」ではありました。
原作が大好きな人は、たぶん、好きになれる映画だと思うのだけれど。



参考リンク(1):書籍『ゴールデンスランバー』の感想(琥珀色の戯言)

参考リンク(2):映画『アヒルと鴨のコインロッカー』感想(琥珀色の戯言)

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