琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

告白 ☆☆☆☆☆


映画『告白』公式サイト

「私の娘が死にました。警察は事故死と判断しましたが、娘は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです。」とある中学校。終業式後のホームルーム。1年B組、37人の13歳の前に立つ担任・森口悠子の告白で始まる衝撃の物語。09年本屋大賞に輝いたベストセラー、湊かなえ著『告白』を、「小説に強く惹かれ、難しいけれど映画にしてみたい」と、中島哲也が監督・脚本を努めて挑んだ、誰も見たことのない極限のエンターテインメント。

2010年9本目の劇場鑑賞作品。
6月5日、公開初日の初回上映、観客は50人くらいでした。
11時からお昼をまたいでの上映ということを考えると、けっこう入っていたと考えるべきなのか、初回にこのくらいだとちょっと寂しいと判断するべきなのかは微妙。

あの『本屋大賞』受賞作であり、問題作でもある『告白』を中島哲也監督が、どう映画化するのか、楽しみでもあり、不安でもありました。
嫌われ松子の一生』みたいに、登場人物が急に歌ったり躍ったりしはじめるのではないか、とか、彼らの「罪」を、思いっきり「エンターテインメント」として割り切って描いてしまうのではないか、とか。
まあ、この『告白』にも、中島哲也らしさの片鱗はうかがわれるのですが、それでも、この作品については、「中島監督らしくないと感じるほど、原作に忠実な映画」になっているのではないかと。

この映画、最初から最後まで、とにかく「不快」なんですよ。
僕はやっぱり自分の息子のことを考えてしまって、基本的には森口先生に共感するのだけれども、自分の子供が、「犯人側」になることは絶対無い、と言い切れない怖さもあるのです。人は(子供にかぎらず)小さなプライドやその場の流れみたいなもので、罪を犯してしまうことだってある。
犯人たちを徹底的に虐める同級生たち、罪を犯したはずの自分の子供のほうを「かわいそう」と言い続ける母親などを見ていると、「どちらが正しい」とかいうのではなく、すべてが間違っているようにしか思えなくて、「ちきゅうはかいばくだん」をドラえもんに出してもらいたくなりました。

こういう作品を、「観ることが可能なくらいにはポップで美しく」そして、「観客がなるべくフラットな立場でいられるように」撮った中島監督は、やっぱり凄い。
主演の松たか子さんに関しては、松さんの大ファンの僕でも、「なんだこの棒読みのセリフは……声小さいし……」と思ったのですが、

『告白』松たか子単独インタビュー(シネマトゥデイ)
↑のなかで、松さんはこんなことを仰っておられます。

Q:先生を演じられたのは初挑戦だったと思いますが、現場はどのような雰囲気でしたか?


教室でのシーンのリハーサルのとき、生徒のヤジに圧倒されてしまいました(笑)。彼らのしゃべり声が、本当に気が狂うんじゃかと思うほどすごかったんです。先生という仕事は、並大抵なものじゃないなと思いましたね。


Q:そのとき監督は、どのような指示を出されたのでしょうか?


最初は、それに対抗して大きな声でしゃべっていたのですが、監督はもっと音量を下げろという指示を出されたんですね。本当に自分の 声も聞こえない状況だったんですが、何とか森口先生のトーンを決めるために、何度も教室でのシーンをやりました。初めにあのシーンを乗り越えたおかげで、その後の撮影も乗り越えられたのかなと思います。

あの冒頭のしゃべりかたも、演出として計算されたものだったんですね。
本当に、隅々まで「行き届いた映画」だと思います。
「なんでこの人物は、こんな行動をとったのか?」について理解できないところもあるのだけれど、そういう「理解できなさ」が魅力にもなる、稀有な作品。

原作を読んだ人も、未読の人も、ぜひ観ていただきたい作品です。
「社会問題について考えさせられる」とかいうより、「人間の感情」という暗くて深くてどうしようもなくて、でもなぜか美しい沼を垣間見られる、そんな映画でした。
こんな世界で生きてかなければならないことが、怖くもなるんですけどね。

そうそう、ひとつ残念だったのが、この映画が「R-15指定」になっていることでした。
今の時代に生きている「13歳」は、この映画を観て、どう思うのか、僕にはとても興味があるのです。
「リアルだ」と頷くのだろうか?
それとも「偏見だ」と憤るのだろうか?


参考リンク:書籍版『告白』の感想

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

アクセスカウンター