琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

鈴木成一 装丁を語る。 ☆☆☆☆☆


装丁を語る。

装丁を語る。

内容紹介
読者を惹きつけ、一瞬でその本の魅力を伝えてしまう――

そんな装丁を生み出す鈴木成一の発想法とは。

これまで手がけた約8000冊から120冊を厳選し、
それぞれの本の個性を引き立てる「演出」方法を自ら解説。

ブックデザインの第一人者による初の単著。
オールカラー、240ページ。

「内容を厳密に、かつ抑制して暗示する」
それが鈴木成一の装丁だ。
ときおりそれは、作家自身を驚かせる。
そんな装丁家は他に誰もいない。
――村上龍

僕はそんなに本の「装丁」に関するこだわりはないほうだと自分では思っています。
少なくとも、「装丁が面白いから買って読んでみよう」ということはほとんどありません。
むしろ、「こんな凝った装丁の本は、中身に自信がないのでは……」なんて裏読みしてしまうくらい。

そんな僕でも、鈴木成一さんの名前は知っています。あと僕が知っているブックデザイナーといえば、祖父江慎さんくらい。
正直、僕は鈴木成一さんの装丁ってあんまり好きじゃなくて、「本のタイトルがわかりにくくて、書店で探しにくいなあ」なんて感じることが多いのですけど、鈴木さんの「装丁へのこだわり」と「どういう意図で、このデザインになったのか」という「解説」は、すごく面白かったです。
僕はこれまで、ブックデザイナーって、もっと「作品の中身はさておき、デザイナーとしての自分のスタイルやこだわりをアピールしていく」ような人たちなのだと思っていたのですが、鈴木さんは、ちゃんとその本を読んで、その本の「扉」として人の目をひきつけるものをつくりつづけていたのです。
こんなにこだわりながら仕事をして、まだ50歳にもならないのに、8000冊もの装丁をこなしているなんて、ちょっと信じられません。

それにしても、ブックデザイナーというのは、「自分が好きなジャンルの本や、得意なデザインだけを装丁していればいい仕事」じゃないんですね。
鈴木さんのデザインといえば、「現代アートが表紙に使われている、カッコいい本」というイメージがあったのですが、

えんぴつで奥の細道

えんぴつで奥の細道

↑のようなベストセラーの、ちょっと泥臭くもある装丁もされていれば、
ナイン・ストーリーズ

ナイン・ストーリーズ

↑のような、シンプル極まりない装丁も鈴木さんの仕事。

 サリンジャー側からの条件は、意味のあるビジュアルはNG。方針が決まらずギリギリになって、ならば用紙や加工で勝負!の仕様を版元に打診するも、編集から低予算で……と、ことごとく却下される。結果的に、コンセプトもなにも、時間もなければ予算もなく、おまけに意味までなくしてほしいというシバリだらけで追い込まれて、瀬戸際で居直りました。用紙はすべて定番の色上質にオフセット1色刷りという潔さ。完璧です。

僕のこの『ナイン・ストーリーズ』を持っているのですが、あの表紙にこんな紆余曲折が隠されているとは思いませんでした。
あの装丁は「最初から計算しつくされた潔さ」だと思っていたのに!

そういえば、この『鈴木成一 装丁を語る。』という本の装丁も、非常にシンプルなものになっています。
残念ながら、鈴木さんは、この自身初の単著について、解説はされていませんが(……って書いたあと、ひょっとしたらカバー裏とかに隠されているのでは、と探していましたが、やっぱり無いみたいです)。

そして、この本のなかには、デザインのコンセプトだけでなく、鈴木さんが手がけてこられたさまざまな本の装丁に関するエピソードも紹介されています。

私の男

私の男

桜庭一樹さんの直木賞受賞作となったこの本の装丁について。

 ただ、このマルレーネ・デュマスという作家はかなり政治色の濃い作家でして……「断られるだろうな」と思って、でも試しに日本の窓口となっているギャラリー小柳に頼んでみたらOKが出たわけです。でもこの本が出たあと、直木賞を受賞したこともあってなのか、いろんな人がデュマスに「使わせてほしい」って頼んだらしいんですが、一切断ったようですね。理由はわからないですけど。たまたま私が言いだしっぺで、ビギナーズラックだったみたいです。ちなみにちょっと前、文庫化されましたが、そのときもやっぱり「もう駄目」っていう……その意味でも貴重な装丁です。

この『私の男』の、白い女性と黒い男が絡み合っている絵、すごくインパクトがあったんですよね。
もう、こんな本をレジに持っていってもいいのだろうか……っていうくらいの背徳感。
ところが、文庫化されたときには表紙が替わっていたので、ちょっと残念だな、と思っていたのです。

私の男 (文春文庫)

私の男 (文春文庫)

それには、こんな「理由」があったんですね。
しかし、その「一度きり」が、この桜庭さんの直木賞受賞作になったというのは、ある種の運命的なものも感じます。

巻末の「おわりに」より。

 結局、装丁というのは、作家として自己表現するのではなくて、本の個性をいかに表現してあげるか、ということなんですね。そしてその本にとってどういう見え方が一番ふさわしいかは、原稿を読むことでしかわからないんです。その本がどういうメッセージを発しているのかを、ど素人の目線で読みながら、引っ掛かってくるものを探るわけです。そしてそれをできるだけ丁寧に演出してあげる。やっぱり読者も同じところに引っかかってくるはずだと思いますから。
 はじめに言ったように、やっぱり編集者と一緒に作っていくものなので、彼ら彼女らの直接の反応が重要なんですね。読者の反応って見えにくいですから、まず目の前の編集者を喜ばせる。そうすれば、その先にいる読者にもつながっていく。そうやって25年間やってきたように思います。

「本好き」「書店で本を眺めているだけでも幸せ」という皆様に、ぜひ手元に置いていただきたい本です。

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