琥珀色の戯言

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ゴッホ 日本の夢に懸けた芸術家 ☆☆☆☆


内容紹介
2010年没後120年というゴッホ写実主義に親しみ、印象派に刺激を受け、アルルの地で完成していくゴッホ芸術とゴッホ自身の魅力を、ゴッホ研究の第一人者が解説。名画も多数登場!

内容(「BOOK」データベースより)
ゴッホ研究の第一者である著者が、初めて初心者向けに書き下ろした濃密な入門書登場!必ず押さえておきたいゴッホの代表作をカラーで紹介し、その絵の魅力と描かれた背景、そして彼自身と彼を支えた人々の想いを、ゴッホの多くの資料を繙きながら詳しくかつ簡潔に解説。さまざまな伝説が一人歩きするゴッホだが、本当は何を見て、何を感じ、何を表現しようとしていたのか…。彼の気持ちもじっくり味わえる永久保存版の1冊。


現在、東京では『ゴッホ展』が行われており、ゴッホに関する話題も、ちらほらと見かけるようになりました。
来年早々には、福岡にも『ゴッホ展』が来るそうで、僕も楽しみにしています。

しかしながら、僕のゴッホについての知識って、『ひまわり』『星月夜』『生前は全く評価されず、売れた絵はたったの1枚だけ』『耳切り事件』というくらいのものなんですよね。
日本での画家としての知名度は、ダ=ヴィンチ、ピカソと並ぶ「トップ3」に入ると思われるゴッホ
この文庫では、彼の生涯と代表作が、コンパクト+わかりやすくまとめられています。

なかでも僕の印象に残ったのは、著者が「ゴッホという画家が語り継がれている理由」として、「ゴッホが作品だけでなく、数多くの手紙を遺したこと」を挙げていたことでした。
有名な芸術家の「伝記」はたくさんあるのですが、ゴッホは手紙で自分の「肉声」を遺しています。
それは、「有名になった芸術家が、多くの観客の姿をイメージして書いた文章」ではなくて、自分の道に逡巡し、経済的にも逼迫していた「売れない芸術家」が、援助してくれる身内や知人に対してあてた「私信」なのですが、むしろ「私信」だからこそ、そこにはゴッホの「本音」がこめられているように思われるのです。

ゴッホの研究者である著者は、「あとがき」で、こんなふうに書いています。

 ファン・ゴッホを他のどの画家とも違う特別な存在にしているのは、その才能でもなければ、「耳切り事件」や自殺でもない。彼以上に才能のある画家など山ほどいるし、自殺した画家も少なくはない。ファン・ゴッホを特別な存在にしているもの、それは彼の手紙である。
 現存するファン・ゴッホの手紙は弟テオ宛が600通以上、画家ファン・ラッパルト、ベルナール、妹ウィルなどに宛てたものも合わせると、800通近くになる。また、ファン・ゴッホに宛てた手紙で現存するものも合わせると全部で900通にのぼる。重要なのは数だけではない。ひとつひとつの手紙は長く、内容も濃密だ。人生に起こった出来事、作品についての考えなどが詳細に綴られている。
 もしファン・ゴッホの手紙が一通も現存しなかったとしよう。わたしたちはこの画家が何を考えてひまわりや農民や星空を描き、日本について何を思い、家族や友人、知人たちとどう付き合ったかといったことについて、何も知ることができない。ある自画像が日本の僧侶として描かれていることもまったく知られないまま、ただ奇妙な顔をした自画像として的外れな解釈をされていたかもしれない。
 ただ、美術史家の扱う資料として重要だと言うのではない。およそ一人の画家、いや一人の人間についてこれほど濃密な情報がえられる資料が残っていること自体、ほとんど奇跡に近い。かりに数千年後、「芸術」などという言葉は消え、「絵画」でさえ完全に過去のものになっていても、ファン・ゴッホの手紙が残れば、数千年前に「芸術家」、「画家」という人種がいて、それがどのような人間だったのか、どのような「生き方」だったのかを未来の人間は実感することができるだろう。

その「ゴッホの手紙」を25年もかけて整理し、1914年に「書簡全集」を刊行したのは、ゴッホをずっと経済的に援助し続けた弟・テオの妻・ヨーでした。
テオも、ゴッホの死の半年後、ゴッホのあとを追うように亡くなってしまい、生前のゴッホに「迷惑をかけられっぱなしだった」はずのヨーが、長い年月をかけてこんな仕事を成し遂げたのは、なんだか不思議な巡りあわせです。
ヨーは、ゴッホを恨んでいてもいいくらいなのに。

この文庫が素晴らしいのは、ゴッホの主要な作品が、ちゃんとカラーで紹介されていることです。
もちろん、本格的な画集のような迫力はありませんし、あくまでも「作品紹介」なのでしょうが、それでも、大きくて重い画集を買うほどのファンではない僕にとっては、このくらいのサイズで、ゴッホの作品群が網羅されているのはすごく魅力がありました。
僕が死ぬまでに一度は現物を見てみたい絵に、ゴッホの『星月夜』があるのですが、もちろん、この文庫には、『星月夜』も掲載されています。

これから『ゴッホ展』に行く人で、「実はゴッホのこと、よく知らないんだけど……」という方には、とくにオススメです。
あと、「画集を買うほど好きじゃないけど、絵に興味がある」という人にも。

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