琥珀色の戯言

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MY LIFE OUT SIDE OF THE RING〜わが人生の転落 ☆☆☆☆


MY LIFE OUT SIDE THE RING?わが人生の転落

MY LIFE OUT SIDE THE RING?わが人生の転落

出版社/著者からの内容紹介
超人、リアル・アメリカン、ハリウッド......彼を形容する言葉はどこまでも華々しい。WWF、WCW、WWEと米国で長らくトップレスラーとして君臨したハルク・ホーガン。日本のプロレスファンにもなじみが深いホーガンが、自らの人生を赤裸々に告白したのが本書だ。
これまでにも自伝を出しているホーガンだが、本書ではレスラー人生の「裏側」にまで言及。入門テストでヒロ・マツダに脚を折られたマークス(プロレスマニア)時代、プロレスが「ワーク(=仕事)」だと知らなかったデビュー戦、相棒のブルータス・ビーフケーキとステロイドを打ちまくった若き日々、試合を終えたレスラー仲間と週4日はマリファナをキメたAWA時代、マクマホン・シニアの妨害を若きビンスと手を組み乗り越え獲得したWWFヘビー級王座、唇と歯ぐきの間に隠したカミソリの欠片で額をすばやく切る「ジュース(=流血)」の方法、観客のブーイングでパニックに陥ったザ・ロックを導いた02年レッスルマニアの真実......。ちなみに80年代の新日本プロレスへの遠征について「いまで言えばブラッド・ピット並みの待遇を受けていたのだ」、「日本人ファンは親切に接してくれたので、俺は日本が大好きになった」と絶賛しているのは嬉しい限り。当時、日本人の"彼女"がいたことまで告白している。

さらには、ホーガン一家が出演したリアリティーショー「ホーガン・ノウズ・ベスト」のトラブルだらけの舞台裏、妻の不倫と巨額離婚裁判、同乗者を重体に巻き込んでしまった息子ニックの交通事故など地獄の日々を乗り越え出会ったスピリチュアルな日々と、これまで決して語られることのなかったホーガンのジェットコースターのような人生がすべて描かれている。

まさに天国と地獄。困難に立ち向こうことの厳しさと、それでも前に進もうとする人間の強さを教えてくれる一冊。巻頭には、本邦初公開の秘蔵写真、自身の幼少期から、ホーガン一家、そして新恋人との2ショットなどが収録されている。

「超人」ハルク・ホーガンの自伝。
僕のホーガンが成功するまでのイメージというのは、梶原一騎原作の『プロレス・スーパースター列伝』で語られていたものなんですよね。
その中では、「アメリカではパッとしないレスラーだったホーガンが、新日本プロレス仕込みのスタイルでアメリカに戻り、大成功をおさめる」という筋書きだったのですが、この本を読んでみると、日本に来る前からビンス・マクマホンに期待され、かなりの人気を得ていたらしいことがわかります。

 この本には、「プロレスラーとしての資質」を考えるうえで、非常に興味深いことがたくさん書かれています。
 プロレスの大ファンで、ミュージシャンとしてそこそこ稼いでいたテリー・ジーン・ボレアという若者が、プロレスラーになることを決心したきっかけは、こんな「発見」でした。

 プロレス・ファンの読者ならば、ランディ・オートンを必ず知っているだろう。承知のように、彼の父親の”カウボーイ”ボブ・オートンは、フロリダでは超大物のレスラーとして名が通っていた。リングの上のボブは、とにかくアグレッシブな選手だった。
 ある日、幸運にもリングサイドの席で、ボブの試合を見たことがある。いままさに彼がもう反撃に出ようとしていた時だ。俺は、ボブの唇の動きを読み取ってしまった。
「俺を殴れ」
 すると突然、対戦相手がボブに飛びかかり、パンチを浴びせた。わが目を疑う光景だった。ボブが次に口を開くまでの間、俺の視線は彼の口元に釘づけになってしまった。しばらくして彼が「もう1発」とささやくと、相手は間髪いれずに1発ぶん殴った。
 その時まで、プロレスが”仕事(ワーク)”だとは、だれも教えてくれなかった。ましてや、試合の結末すら事前に決められていることさえ知らなかった。パンチをかまして、ロープに振った相手が戻ってくるのを待った挙句、カウンターの反撃を食らうなんて、子ども心にも不思議に思ったものだ。
 その謎が解けた瞬間だった。会場で、動かぬ証拠をはっきりと見てしまったんだ。
「もう1発だ。もっとやれ」
 ボブがそう促すと、相手は本当に殴り続けたし、単なる偶然じゃないこともすぐ理解できた。相手に好きなだけ攻めさせてから、一転して猛反撃するという動きをあえて演出することで、ボブは試合をスリリングに見せていたのもわかった。彼の手のひらで転がされた観客のボルテージは最高潮に達していた。
 俺はこの瞬間、「自分もレスラーになれる!」と思った。目の前でどれだけ過激な闘いを繰り広げようが、マジで潰し合っているんじゃないと悟ったからだ。そして、自分もいつかリングに上がり、ボブたちに引けを摂らない試合をやってみせる、とひそかに決意した。

 「プロレスは八百長だ」という大人たちの言葉に傷つき、その”仕事(ワーク)”が、当事者たちによって明らかにされるまでは、「多少の『お約束』的な筋書きはあるのかもしれないが、最終的な勝負は、ガチンコ、なんだよね……」と信じていた僕にとっては、”仕事(ワーク)”ならば、自分にもできるはず”というホーガンの言葉は、かなり意外なものでした。普通のプロレスファン、しかも若者であれば、「真剣勝負」でないことに「失望」するはずだと思っていたから。
 
 ハルク・ホーガンという人は、ミュージシャンとしての経験もあり、「観客に自分をどう見せるか」を計算することに非常に長けていたのです。
 「格闘技」としてのプロレスに過剰な幻想を抱かず、プロレスが「ショービジネス」であるということを理解し、自ら「最高のプロレスラー」を演じ続けてきた人だとも言えるのでしょう。
 この本ではその試合のことはほとんど触れられていませんが、IGWP決勝でアントニオ猪木をKOしてしまったときは、そりゃあ、ホーガン自身も焦っただろうなあ。
 あれは完全に「演技ミス」だったわけだから。
 もっとも、だからこそ、あの試合は僕たちにとっても「信じられない結末」であり、忘れられない光景でもあるのですけど。

 ちなみに、ホーガンが一時期真日本プロレスを主戦場にしていたのは、『ロッキー3』に強行出演したために、マクマホン・ジュニアとの間に亀裂が入り、WWFを退団したことが理由だったそうです。
 どうしてずっと日本にいるんだろう?アメリカでは人気が無いのか、日本がよっぽど好きなのか?と当時は疑問だったのだけれど、そういう事情があったんですね。
 もっとも、ホーガンの「日本好き」は、「演出」だけではないみたいです。アメリカで最初に出たということで、この本には日本でのエピソードは少ないのですが(個人的には、新日本プロレスでのことや猪木とのことをもうちょっと読みたかった)、ホーガンは、日本について、こんなことを書いています。

 ともかく、日本への遠征は本当に楽しかったし、話のネタは尽きない。しかも俺は行く先々で日本人ファンにの熱烈な歓声を浴びた。大げさな話でも何でもなく、いまで言えばブラッド・ピット並みの待遇を受けていたのだ。身長2メートル級の俺は、日本ではずば抜けて目立ち、頭一つ飛び出たようなかたちで日本のファンに取り囲まれた。たいていの場合、日本人ファンは親切に接してくれたので、俺は日本が大好きになった。日本のファンは目が肥えていて、レスラーを心からリスペクトしてくれる。これは、アメリカでは一度も経験しなかったことだ。

 アメリカで出版された本でこう書かれているのですから、これはおそらく、ホーガンの「本心」なのだと思います。
 当時の「日本人プロレスファン」のひとりとしては、ちょっと誇らしい気分になりました。
 シリーズごとに「おなじみの、そして未知の外国人レスラー」が襲来してきて、それをファンも楽しみにしていた当時のプロレスは、いまから考えてみると、本当に「いい時代」だったのではないかという気がします。


 しかし、「プロレスラーとしての空前絶後の大成功」のあとに、「超人」を待ち受けていたのは、過酷なプライベートの問題の嵐でした。
 妻や家族との不和、リアリティーショー(ドキュメンタリー風の家族に密着したバラエティ番組)「ホーガン・ノウズ・ベスト」のトラブルだらけの舞台裏、巨額離婚裁判、同乗者を重体に巻き込んでしまった息子ニックの交通事故、そして、『ザ・シークレット』という一冊の本に出会ってからの、スピリチュアルで救われた日々……
 正直、後半の「転落」以降の部分は、家庭を持つ男として身につまされる部分は多いのです。

 ずっと長い間、無関心だった自分に愕然とした。俺は、MSG(マジソン・スクエア・ガーデン)のリングで圧倒的な存在感を示し、大観衆でギッシリ埋め尽くされた会場の雰囲気を察知し、観客全員を手のひらで転がすことができた。なのに、リング外での人生では自分の存在感を示すどころか、家庭が崩れかけ、家族がどんなに傷ついていたか、ちっとも気づいていなかったのだ。

 その一方で、「これは、あくまでもハルク・ホーガン側の意見だからなあ……とくに夫婦間のいざこざなんて、相手からみれば、全く別の見えかたをしているかもしれない」とも感じます。
 スピリチュアルを熱心に語るハルク・ホーガンというのにも、やっぱり抵抗がありますし……
 この本に書かれているような状況であれば、何かに救いを求めたくなる心境というのは、よくわかるのだけれども。
 僕は、このプライベートな問題について語った後半はあまり面白くなくて、それなら「アックスボンバー誕生秘話」とかを書いてほしかった。
 それにしても、アメリカでハルク・ホーガンが、こんなことになっているとは、全く知りませんでした。

『レスラー』は、プロレス業界の実情を忠実に描いていると世間一般では評されている。だが、本当はもっとドラマチックだとニックに教えてやった。俺の目からすると、『レスラー』は地味なテレビ映画に見えてしまうのだ。
 ミッキー・ロークが試合中に額を切る場面では、かつてカミソリで自分の額を切り、“血(ジュース)”を流していた思い出がよみがえった。ミッキー・ロークは、俺たちレスラーがリングの内外で繰り広げた武勇伝をリサーチしたようだが、さほど多くは知らなかったんじゃないだろうか。

 あれを「地味なテレビ映画」にしか思えないという、プロレス業界の真実というのは、どのくらい激しいものなのだろう?
 そのなかで、トップとして君臨してきた、ハルク・ホーガンは、まさに「ザ・プロレスラー」なのでしょうね。


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