琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

2011年「ひとり本屋大賞」発表!

本屋大賞(公式サイト)

 明日、「本屋大賞」発表ですね。
 毎年やっている僕が「本屋大賞」のノミネート作を独断と偏見でランク付けするというこの企画。今年もなんとか間に合いました。
 というわけで、id:fujiponによる「2011年ひとり本屋大賞」の発表です。こいつセンスないなあ、と苦笑されるなり、実際の結果とのギャップを比較するなりしてお楽しみいただければ幸いです。

 昨年の「2010年ひとり本屋大賞」はこちら。



第10位 ストーリー・セラー(感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20110405#p1

ストーリー・セラー

ストーリー・セラー

 有川さんは、「自分のファンを喜ばせるポイント」「読者を感動させるツボ」を熟知している作家だと思います。
 でも、最近の有川さんの作品は、「上手くなりすぎて、効率よくツボを押すだけの小説」になってしまっているような気がしてなりません。
 なんか物足りないというか、「こんなもんでいいんでしょ?」って、言われているような感じがするんですよ。
 これが、本当に「書きたい作品」なのだろうか?

書店員さんには有川さんのファンが本当に多いんだなあ、と思いました。


第9位 錨を上げよ(感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20110410#p1

錨を上げよ(上) (100周年書き下ろし)

錨を上げよ(上) (100周年書き下ろし)

錨を上げよ(下) (100周年書き下ろし)

錨を上げよ(下) (100周年書き下ろし)

この『錨を上げよ』何がすごいって、1200ページにわたって、主人公・作田又三というチンピラが酔っぱらってクダを巻いているような自分語りが延々と続くことです。
彼の前半生のクライマックスは「密漁」!
『錨を上げよ』って、なんか大きなことを始める「たとえ」だと思うじゃないですか。
でも、そのまんま。
どんなに辛抱して読み進めても、『錨』しか上がりません。

これがノミネートされるって、「トンデモ本屋大賞」じゃないの?
「怪作」ではあるんですけど……


第8位 ふがいない僕は空を見た (感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20110219#p1

ふがいない僕は空を見た

ふがいない僕は空を見た

僕は基本的に「恋愛小説」が苦手だし、なかでも、「中高生をセックス猿扱いしている『大人』の小説」が大嫌いなんです。
自分が学生時代に全くモテなかったというトラウマのせいなのかもしれませんが、こういうのが「女による女のための小説」として大絶賛されているのでしょうか。
「女による女のための小説」って、レディコミの小説化+わかりやすい「産院での出産の物語」とかでいいの?

冒頭の

 たとえば、高校のクラスメートのように、学校や予備校帰りに、どちらかの自宅や県道沿いのモーテル、あるいは屋外の人目のつかない場所などにしけこみ、欲望の赴くまま、セックスの二、三発もきめ、腰まわりにだるさを残したまま、それぞれの自宅に帰り、何食わぬ顔でニュースを見ながら家族とともに夕食を食べる、なんていうのが、このあたりに住むうすらぼんやりしたガキの典型的で健康的なセックスライフとするならば、おれはある時点で、その道を大きく外れてしまったような気がする。

というのを読んで、僕は気分が悪くなりました。
どこのエロ本ライターのオッサンだよこれ書いたの。

すみません、この小説はぼくにとっては「良し悪し」以前に、「生理的に受けつけない」作品でした。
高校生はこんなにバカじゃない、と、やっぱり思わずにはいられません。



第7位 キケン (感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20110409#p1

キケン

キケン

『ストーリー・セラー』のほうは、「なんでこの作品がノミネートされたの?」と聞きたくなったのですが、この『キケン』のほうは、エンターテインメント色が強く、楽しんで書かれているのが伝わってくる佳作です。
でもまあ、率直なところ、この『キケン』も、「つまんなくはないんだけど、コメディにしては爆発力に欠け、『青春小説』としてはリアリティに欠け…という印象だったんですけどね。
これマンガにしたほうが面白いんじゃないかなあ、という気はするし、要するに、最後のアレをやりたくて書かれているんだろうなあ、と考えてしまったのも事実。

ある意味「斬新なミステリ」ではあると思うのですが、僕はなんかこうスッキリしなかったんですよねこれ。


第6位 シューマンの指 (感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20101024#p1

シューマンの指 (100周年書き下ろし)

シューマンの指 (100周年書き下ろし)

この『シューマンの指』、最近流行りの「音楽を題材にした小説」なのですが、「シューマン」というドイツの作曲家・音楽評論家をタイトルに持つこの作品は、これまで僕が読んできた「音楽小説」に比べると、はるかに「シューマンの作品論」としての比重が高いものでした。
シューマン好き、あるいはクラシック音楽フリークにはたまらないのかもしれないけれど、その予備知識も興味もない僕は「修人の指にいったい何が起きたのか――」のほうがずっと気になっていたので、なんだか延々と作者の「シューマンに関する蘊蓄」を読まされているようで、「シューマン論」の部分は流し読みしてしまいました。
でも、この小説は、そういう「細部」にこだわる人じゃないと楽しめないのかもしれません。

この小説に関しては、「音楽」とか「シューマン」に興味がないと十分には愉しめないのだろうな、というもどかしさがありました。
本当に血がついているような装丁は印象的で、妻に「鼻血出たの?」とか言われたなあ。


第5位 叫びと祈り(感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20110408#p1

叫びと祈り (ミステリ・フロンティア)

叫びと祈り (ミステリ・フロンティア)

各所でかなり評判になっている、この『叫びと祈り』なのですが、最近の潮流とはちょっと毛色の違う、「異文化交流ミステリ」という感じで、僕も感心しながら読みました。
よその国では、こんな理由で人が殺されることもあるんだな、って。
いやまあ、逆に、外国からすれば、「ネットで無視された」という理由で都会の真ん中で無差別殺人をやる人がいることのほうが、はるかに「理解不能」なのかもしれませんが。

うーん、これが5位か(自分でつけた順番なのですが。
興味深い作品ではありますけど、文章のまわりくどさや叙述トリック濫発など、けっこう「厚さのわりに、読むのが大変な作品」でもありました。


第4位 謎解きはディナーのあとで(感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20110115#p1

謎解きはディナーのあとで

謎解きはディナーのあとで

設定からは、筒井康隆御大の『富豪刑事』(ちょっと前に深田恭子主演でテレビドラマ化されていましたね)を思い出したのですが、『富豪刑事』は、「主人公が大金持ちであること」を利用したストーリーになっていたのですが、この『謎解きはディナーのあとで』では、主人公が「お嬢様」であることが「執事がいることの理由」にしかなっていません。
せっかくの設定が、ちょっともったいないような気がしました。

最近の「本格ミステリ」って、解決編を読んでも「そんな複雑なの読者にわかるわけないだろ!」とツッコミたくなるような大掛かりものがほとんどで(「叙述トリック」っていうのもありますしね)、こちらは、「参加」することがほとんど不可能になってしまっているのです。
でも、この『謎解きはディナーのあとで』の「謎解き」は、読み終えたあと、「なんでこのくらいのトリックを見抜けなかったんだろう、ちょっと悔しいな」という気分になることができました。
そういう意味では、実に「ゲームバランスがとれた作品」なのかもしれません。
本格ミステリ」がどんどん専門化、細分化していく一方で、「もっとシンプルで読みやすい謎解き」へのニーズって、意外とあるのではないかなあ。

「失礼ながら、本屋大賞に投票した書店員さんたちの目は節穴でございますか?」
とか思いながら読んだのですけど、実は今回の10作のなかでは、けっこう面白かったという結果に……
先日書店で中学生くらいの男子が、この本を友達に「これが面白かったんだよ!」って話しているのを目にして、「実は、いま求められているのは、こういう本なのかもしれないな」とも思うようになりました。
 

第3位 ペンギン・ハイウェイ(感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20110302#p1

ペンギン・ハイウェイ

ペンギン・ハイウェイ

冒頭の印象は、「なんとなく、『海辺のカフカ』+『地球が静止する日』みたいだな」という感じだったんですよ、この『ペンギン・ハイウェイ』。
ちょっと小生意気な少年と彼の仲間たち、そして、歯科医院の「お姉さん」、突然現れては消える「ペンギン」。
読んでいて、森見さんは、この意味不明な物語をどこに着地させるのだろう?と思ってしまいました。
最後まで読み終えて、「森見さん、こんなのも書けるんだ、すごいなあ、うまいなあ」と脱帽してしまったんですけどね。

こんな作品も書けてしまう森見さんは本当にすごい。
とはいえ、大人にとっては、ちょっと読むのがかったるい気はするし、これで森見さんが「本屋大賞」というのも、違和感があるような……


第2位 神様のカルテ2(感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20110327#p1

神様のカルテ 2

神様のカルテ 2

身近な人の病気とか、「アンチテーゼ」のはずの進藤先生があっさりと「感化」されちゃうところとかは、正直、「ちょっと安易じゃないか」とは思うのですが、クライマックスの情景の美しさにはちょっとホロリとしましたし(そういうのをすべての患者さんに望まれたらどうするんだ、とも考えたけど)、医者の「生きがい」とか「人生」とは何なのか?というようなことについて、けっこううまく描かれている小説です。
「殉死」みたいなのをあまりに美化されても、つらいところではありますが……
僕の妻は、宮崎あおいじゃないしねえ。

今回のノミネート作のなかで、「天敵」だった『神様のカルテ』が、まさかの2位……
僕は「1」よりずっと「2」のほうが好きですが、その一方で、これが2位になってしまうところに今年の「本屋大賞」のレベルが……


第1位 悪の教典(感想:http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20101224#p1

悪の教典 上

悪の教典 上

悪の教典 下

悪の教典 下

この作品、蓮実聖司が行っている「悪行」の数々のわりには、読んでいてそんなに不快にはならないんですよね。
むしろ、大藪春彦の『蘇る金狼』を読んでいるような、「くわーなんて悪いヤツなんだ、でも、ここまで突き抜けていると、なんか爽やかですらあるな、どうせフィクションだし」という快感に身をゆだねてしまいます。
上巻はむしろ「教師であること」を利用した悪事が多くて、「こんな教師が本当にいたら怖いな(たぶんいないだろうけど)」という「ホラー小説的な怖さ」があるのですが、下巻になると、怖いというよりは、「いねーよこんなヤツ!」とツッコミながらも、凄惨な物語の緊張感に引っ張られていく感じがしました。
内容的には、面白がってはいけない話なんでしょうけど、この物語がどういう結末を迎えるのかが気になって、読み終わるまでは眠れなくなってしまったのです。

僕は、もしかしたら、前半部の「世間にわからないように、有能な教師の仮面をかぶって、ささやかに邪魔者を排除し、悪行を積み重ねていく蓮実聖司」を、貴志さんは描きたかったのではないか、と思うのです。後半は、「読者サービス」みたいなもので。
そもそも「計算高い人間」「効率を追究する人間」がやることとしては矛盾していますし。
ただ、その「とにかく無茶苦茶やっている」後半部が滅法面白いのも事実です。
貴志さんらしく、ちゃんと相手も最善手を打とうとしているし、起こることに「運」とか「偶然」の要素を極力排して、残虐な場面を描き切っています。
あまりに残虐すぎて、読んでいるほうの感情がマヒしてしまうくらい。

この作品を読んでいて、すごく僕の印象に残った文章があります。

 人間の心には、論理、感情、直感、感覚という、四つの機能がある。そのうち、論理と感情は合理的機能、直感と感覚は非合理的機能と呼ばれている。合理的機能には、刺激と反応の間に明確な因果関係があり、非合理的機能は、次にどういう動きをするか予測がつかない。
 つまり、感情の動きには、論理と同様に、法則性があるということだ。人間の感情は、他人から認められたい、とか、求められたい、というような基本的な欲求が、その根底をなしており、軽んじられたり攻撃されたと思えば、防衛反応がはたらいて攻撃的になる。その逆に、相手の好意を感じたときは、こちらも好意的になる……。
 要するに、まったく感情というものが欠落している人間がいたとしても、きわめて高い論理的能力を持ち合わせていれば、感情を模倣(エミュレート)することは可能だということだ。
 まず、人の感情のパターンを収集する必要があった。そして、それがどういう場面で、どういう反応をするかを予測し、結果を見て、その都度、間違いを修正する。そうして、それらと同じように反応する疑似的な感情を心の中で育てていけば、最終的に、それは、本物の感情とほとんど見分けがつかないものになる。

 「感情を全く持たない人間」っていうのは、やっぱりいないと思うんですよ。
 でも、「自分の感情が、よくわからなくなること」は、誰にでもあるはずです。
 この作品のなかでは、蓮実の「特殊能力」のように描かれていますが、こういう「この場面は笑うべきなんだろうな」とか「泣いておいたほうがいい状況なんだな」というような「感情の補正」を、僕はけっこう日常的に行っています。
 「感情が全くない人間」は怖いけれど、「感情をやたらと周囲にぶつける人間」も怖い。
 そういう人は、感情をぶつけることによって周囲をコントロールしようとしている場合がありますし、逆に「感情的な人間である自分を演じている」可能性もありそうですが。
 「感情」っていうのは、けっして「自然なもの」とは限らない。
 僕はこれを読んで、「ああ、そういう『感情への違和感』って、自分だけのものじゃなかったんだな」と少し安心しました。

いまの世情も含めて、これが1位っていうのもなんだかなあ、とは思うのですが、今回の10作品を「面白さ」でランキングすると、やっぱりこの作品かな、と。
でも、貴志さんの作品では、2年前に本屋大賞にノミネートされながらも惨敗(と言うのは失礼かもしれませんが)してしまった『新世界より』のほうが、ずっと凄い作品だったと思います。



【2011年「ひとり本屋大賞」の総括】
2010年の「本屋大賞」が超ハイレベルだったこともあるのでしょうが、今年の印象は、ひとこと「低レベル」。
出版された小説(というか、「本屋大賞」って、本来、小説限定の賞ではないはずなのですが)の全体的なレベルが低かったのか、それとも、選考委員の好みの問題なのか?
今年に関しては、その両方の要因があったのかもしれません。
いままでの「本屋大賞好みの作家」から、かなり顔ぶれが変わったのは「新しい作家・作品を発掘する」という「本屋大賞」の初心に帰った結果だとも言えるのでしょうが、その一方で、「誰がこれに投票したんだ?」というような作品があったのも事実。
読みやすさが武器の『謎解きはディナーのあとで』から、誰がこれ読むんだ?という『錨を上げよ』まで、かなりバリエーションがあるラインナップではあるんですけどね。


ちなみに、作品の好みを別にした、僕の順位予想。

1位:謎解きはディナーのあとで
2位:神様のカルテ2
3位:ペンギン・ハイウェイ

今回の順位予想はけっこう自信あります。
今回はなんでもいいや、という投げやりな気分になりつつも、明日の発表を待とうと思います。

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