琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

デンデラ ☆☆☆☆


デンデラ (新潮文庫)

デンデラ (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
斎藤カユは見知らぬ場所で目醒めた。姥捨ての風習に従い、雪深い『お山』から極楽浄土へ旅立つつもりだったのだが。そこはデンデラ。『村』に棄てられた五十人以上の女により、三十年の歳月をかけて秘かに作りあげられた共同体だった。やがて老婆たちは、猛り狂った巨大な雌羆との対決を迫られる―。生と死が絡み合い、螺旋を描く。あなたが未だ見たことのないアナザーワールド

この文庫のオビには、こんな宣伝が書かれています。

 映画化原作 6月25日全国ロードショー

ふーん、映画化されるのかこれ、と、何の疑問も持たずに読み始めたのですが、読んでいくうちに、「えっ?」という気分になってきました。
これ、本当に「映画化」できるの?
いや、映像的には可能だとは思うのだけど、倫理的にというか、老婆たちの惨殺シーン連続である、この作品の映像化を、どんな人が映画館に観に行くのだろうかというか……
中途半端にやれば、「原作の世界観を台無しにする、ヌルい映画」になるでしょうし、このまま映像化すれば「トラウマ映画」になること確定。
6月25日公開ということは、あと1カ月ちょっとですから、ほとんど完成しているのでしょうけど……


「解説」で、法月綸太郎さんは、この作品のあらすじを、こんなふうにまとめておられます。

 50人の老婆が羆と戦い、どんどん死んでいく話である。

佐藤友哉さんは、世代的にも、高橋よしひろ先生の『銀牙 -流れ星 銀-』を読んでいたと思います。

「羆対猟師」あるいは、「羆対猟犬」であれば、それは「骨太な戦いのドラマ」になりうるのでしょうが、年齢からすれば、はるかに元気に設定されているとはいえ、巨大な羆と老婆軍団の対決となると、ほとんど一方的な勝負というか、まさに「虐殺」に近いものです。
物語は、そんな「羆と老婆軍団」の闘いを、リアルに描き(こういう話をリアルに描こうとすると、かえってマンガみたいになるんですね……)、それとともに、自分たちを捨てた「村」に対する複雑な感情を抱く老婆たちの葛藤も伝わってきます。

「違う場所に生まれたかった……。それだけだの」日高ノコビは呟きました。「違う場所に生まれてさえいれば『お山参り』をすることもなかった。裕福にいつまでも暮らせた。幸福にいつまでも暮らせた。生まれたことも育ったことも、営みも関係も、すべてを大切にしたまま死ねた。だが、ここじゃ無理だ。『村』は暴力で動き、『デンデラ』は人を騙して動く。それなのに関係だけはちゃんとある。頭がおかしくなる」

これを読みながら、僕は、この老婆の哀しみを感じるのと同時に、はたして、「違う場所」が、この世界のどこかに存在するのだろうか?とも考えてしまいました。
人間の世界には、どんな場所でも、「関係だけはちゃんとある」のだから。


残虐シーンに耐性のある方は、老婆軍団対羆、デンデラ対村の闘いのゆくえを、ぜひ、たしかめてみてください。
さわやかな感動とは極北にある作品ですが、「ああ、なんか凄いの読んだな……」という気分にはなれる小説です。

アクセスカウンター