琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

日本男児 ☆☆☆


日本男児

日本男児

内容紹介
「意思あるところ道はできる」
「努力は裏切らない」

長友佑都を支えた二つの言葉である。

現在、世界一のサッカークラブ・インテルに所属する長友佑都
なぜ、ユニバーシアード代表、北京五輪代表、W杯日本代表、そしてチェゼーナからインテルへと駆け上がることができたのか。
決して恵まれた身体でない彼が、世界のピッチに立つためにしてきたこと。
そこにあるのは、人並み外れた意思の強さと、想像を絶する努力だった。

ゆるぎない意志と不断の努力。
この二つがあれば、どんな困難にも打ち勝ち、夢をつかむことが出来る。
それを証明してみせた長友佑都選手。

複雑な家庭環境に育った少年時代。
ぐれかけた人生を変えてくれた恩師・井上先生のこと。
誰よりも努力をした東福岡高校時代。
身体の不調に悩んだ大学時代。
FC東京監督との約束。
そして、チェゼーナインテルでのプレッシャーとプレイをする喜び。
これからの目標。

日本を元気する“今一番熱い男”の現在とこれからが分かる必読の一冊!

多くの人に読んでいただけるよう、難しい漢字にはルビをつけてあります。

なお、
本人の強い希望により、東日本大震災で被災した方々へ、本人の印税の全額を寄付させていただきます。


いやほんと、世の中には「信じる才能」「努力する才能」がある人というのがいるんだなあ、と思い知らされる本でした。

この『日本男児』という気合の入りまくったタイトルを見たとき、「ああ、なんか『努力・友情・勝利!』という週刊少年ジャンプの漫画みたいな自伝だったらイヤだなあ」と思って、すぐには手を出しかねていたのです。
でも、読んでみると、「確かにそういう本なんだけれど、思ったほどイヤミじゃないというか、世の中にこんなに熱い人がいるということを、頼もしく感じられる本」でした。


前半では、広い庭のある裕福な家庭に育ち、サッカー大好きだった長友少年が、両親の離婚によって傷ついたこと。そして、中学校入学時に、地元のサッカークラブのセレクションに落ちて、「不良ばかりが集まる学校」のサッカー部に行かざるをえなくなり、やる気を失ってしまったこと、などが率直に書かれています。


しかしながら、長友少年は、中学校時代に「恩師」と出会い、自分の「ストロングポイント」を磨いていきます。
あんなに足が速くて運動量が多い長友選手なのですが、あの「脚力」は、先天的なものではなくて、中学時代に自ら、「足が遅くてスタミナが無いのが弱点」と自覚し、ひたすら走るトレーニングをしたことによってつくりあげられたものです。


中学2年生のときのマラソン大会、学年で「100人中50番台」だった長友少年は、恩師の「佑都、お前な、上を目指したいと考えてるんやろ? だったら、走れるようにならなアカン。スタミナをつけなければ、上には行かれへんぞ!!」という指摘に「やるしかない」と腹をくくります。

 次の日から、ハードなトレーニングが始まった。
 400メートル10本、3キロ2本……。チーム練習で1日15キロ以上は走った。
「何分以内で走るんや」とインターバルもどんどん短くなった。
 あまりにキツイ練習のため、疲労骨折をしてしまった選手もいたし、「成長期の子どもをそんなに走らせたら危険だ」という声もあった。しかし、先生も僕らもそんな声に耳を貸すことはなかった。
 とにかく熱い集団だったから、やると決めたらやるしかない。
 僕も燃えた。チーム練習以外にも自主トレーニングとして、走った。走って走って走りまくった。とにかく走ることしか、考えていなかった。
「上へ行く。そのためには、走れるようにならなアカン」という決意が固まると、負けず嫌いのスイッチが入る。スタミナがない、足が遅い……そんなネガティブな言い訳はもう頭の中からは消えていた。
「絶対に負けたくない」
 目の前の選手をいかに追い越すか。誰かの背中を見て走るのはゴメンだ。先走る気持ちが一歩、さらに一歩と脚を前へ出す力に変わる。苦しい、息が上がる、胸が痛い。でも、ここで踏ん張れば、こいつを抜ける。目標へと近づくことが出来る。

この努力の結果、夏の終わりから走り始めて、冬の駅伝大会では区間賞、校内マラソン大会では、学年1位!
すごい……なんかもう、本当に「マンガの世界」です。
足って、努力でこんなに速くなるものなんですね……
僕は正直、感心するのと同時に、「このくらいの努力ができる人間じゃないと、『世界』には行けないんだなあ……」と圧倒されてしまいました。
誰でも同じことができるわけじゃないし、怪我のリスクもあっただろうし、とか、つい考えてしまいます。


その後の長友選手のサッカー選手としての人生は、椎間板ヘルニアなどもあり、けっして順風満帆なものではありませんでした。
名門・東福岡高校卒業後もすぐにJリーグにスカウトされたわけではなく、明治大学に入学したあとには、怪我でベンチ入りできず、観客席から太鼓を叩いたりもしています。
(あの「長友太鼓伝説」は、当時長友選手が選手として評価されていなかったわけじゃなくて、怪我をしていた為にベンチ入りできなかった時期の話、というのが真相だったんですね。まあそりゃそうだよね)

「世界一のサイドバック」になるという目標を実現するために、僕にはやるべきことがたくさんある……という思いは、イタリアへ来る前から抱いていた。しかし、イタリアでプレーを始めたことで、具体的な課題をどんどん見つけることが出来る。
 レベルの高い環境に身を置いても、「自分にはなにが足りないか」を感じないと、成長は出来ない。そして、足りないなにかを明確に分析し、具体的なテーマへと変えていく力も必要だと思う。
 Jリーグで東京ヴェルディのフッキと対戦したとき、彼の強さに驚いた。ドンとぶつかっても身体の軸がブレない。身体を当てるタイミングの問題なのか? いろいろと考えた。「お尻の筋肉の違いなんだ」と気づき、僕もそこを鍛えた。
 具体性を持たせるために、課題を細分化する。ひとつひとつの課題は小さくなるが、数は増える。「こんなにたくさんあるのか」と思い、やる気がうせるという人もいるかもしれないけれど、僕は嬉しい気持ちになる。
「これをひとつひとつ乗り越えたら、僕は成長出来る」
 小さな課題をクリアーしながら得られる達成感が、次のチャレンジへと僕を向かわせる。


 目の前に大きな壁、困難が立ちはだかったとしても、考え方は同じ。問題点を見極め、やるべきことを見つけ出し、ひとつひとつ解決していく。
 壁は成長のチャンスであり、きっかけ。だから僕は壁が好きだし、壁に出会いたいと、挑戦を続けている。

この本を読んでいると、長友選手の「自分の課題を認識し、クリアしていく為の努力」に、圧倒されてしまいます。
長友選手が、大学から東京FC、日本代表、チェゼーナ、そしてインテルと驚異的なステップアップを成し遂げられたのは、もともと圧倒的な能力を持っていたというよりは、「日本代表では日本代表としての自分の課題」そして、「インテルでは、インテルの選手としての自分の課題」をきっちりと認識し、それをクリアしてきたから、なのです。

 外国人は強く自己主張する。あからさまなミスをしても自分の失敗を認めない選手も多い。プロサッカーの世界は、生存競争が激しい仕事場だからなおさらだ。練習中からケンカみたいな言い合いはしょっちゅうあるし、激しい当たりでぶつかっていくのも当然のこと。練習のミニゲームでも本番さながらの迫力でボールをうばいあう。
 みんな闘志むき出しでピッチに立っている。少しでも弱さを見せたら、自分のポジションはなくなる。上へのし上がっていくことも可能なら、下へ落ちていくスピードも速い。それが欧州のサッカーシーンだ。
 だから、チャンスだと思ったら、誰もが迷わずシュートを打つ。パスのほうが効果的だと思ってもシュートを打つ。自分の活躍を欲しているためだ。
 Jリーグとは比べ物にならない貪欲さに満ちている。
 でも、貪欲さでも、負けず嫌いな気持ちでも、僕は彼ら外国人選手に劣っているとは思わない。だから、遠慮なんてないし、アピールもためらわない。イタリアへ来たからといって、自分を変える必要はなかった。
 僕には誰にも負けない向上心がある。
 そのことをチームメイトに示すことで、彼らは僕を信頼し、信用してくれた。言いあっても気まずくはならない。ピッチの中のことを外にまで引きずらないから、強い主張を気持ち良くぶつけあえる。
 チームメイトに何かを要求するには、自分がしっかりとプレーしなくてはいけない。中途半端なことをやっている選手の主張は文句でしかないから、誰も受け入れてはいくれない。
「あいつは頑張っている。だから言っていることも当然だ」
 リスペクトしあう関係が築けているから、僕も主張できる。

長友選手が、インテルというビッグクラブの選手たちと「仲良くやっている」姿を見て、僕は「長友選手の明るい性格」や「コミュニケーション能力の高さ」が羨ましくなったのですが、この本を読むと、長友選手がチームメイトから愛されている理由は、彼の「人柄の良さ」だけではないということがよくわかります。
長友選手は、キャラクターとして「愛されている」のではなくて、仲間として、実力やサッカーに対する姿勢が「認められている」のだなあ、と。

そして、そういう長友選手の「性格」「可能性」も含めて評価し、獲得したというインテルのスカウティング能力にも驚かされます。世界のビッグクラブを支えているのは「お金の力」だけじゃない。


個人的には、長谷部選手の『心を整える』のほうが、「普通の人間にとって、参考になる面」が多い本だと思います。
長友選手は、「努力する才能」が図抜けている人で、真似できる人は、そうそういないだろうから。

でも、「新しい環境でステップアップするためには、どうすればいいのか?」と悩んでいる人にとっては、すごく参考になる本だと思うんですよ。
というか、ここまでやらなきゃダメなんだよ、っていう。

長友選手は、本当に「世界一のサイドバック」になれるんじゃないかな、そう思える一冊です。
ちょっと元気が出るのと同時に、ついダメな自分と比べてしまって、落ち込む本ではありますが……

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