琥珀色の戯言

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オーダーメイド殺人クラブ ☆☆☆


オーダーメイド殺人クラブ

オーダーメイド殺人クラブ

内容紹介
中学二年のふたりが計画する「悲劇」の行方
親の無理解、友人との関係に閉塞感を抱く「リア充」少女の小林アン。普通の中学生とは違う「特別な存在」となるために、同級生の「昆虫系」男子、徳川に自分が被害者となる殺人事件を依頼する。


参考リンク:オーダーメイド殺人クラブ発刊記念特別対談 辻村深月×大槻ケンヂ|集英社 WEB文芸 RENZABURO レンザブロー


今日、第145回直木賞の発表なのですが、今回は候補作をひとつも読んでおらず、ちょっと気になっていたこれを読んでみました。

読んでみて、うーん……ちょっと後悔。
なんて「中2病」な小説なんだ……
もっとも、辻村さんは、この作品で「中2病」を真っ向から描いてみようとしているのでしょうし、それはよくわかるんですよ。
そして、こういう「みっともない自意識」や「他人と違うと言いながら、読んでいるのは澁澤龍彦、聴いているのは筋肉少女帯(この物語の主人公・アンは筋肉少女帯を聴いてはいませんが、著者の辻村さんは筋少の大ファンだというのが、参考リンクの対談に出てきます)」という、「ステレオタイプな『他人と違う』人間」という痛々しさが伝わってくるのは、かなり「いい仕事」なのではないかと思います。

でもなあ、正直、読んでいて楽しくないのはしょうがないとしても、なんかこう、「切実さ」を感じない作品であったのも事実。
アンがようやく思いついた「斬新な事件の計画」が、「ありきたり」にしか思えなかったのも興醒めでした。それがまた「中2病」らしいといえばらしいのだけど……

 まだ自分が何もしていないことが、もどかしかった。
 鬼才って呼ばれたりするような絵を描いたわけじゃないし、小説や詩が書けるわけじゃないし、勉強がすっごくできるわけじゃない。だけど、本当にわかってくれる大人は私の頭の中を全部見透かして、私が人と違うことを見抜いてくれてもいいはずだ。これから、何かを(それが何かはまだわからないけど)成し遂げる私。人と違う、私。
 だけど、そんな大人が現れない以上、特別になるためには命でも投下するしかないのだ。それが空っぽな、まだ何も成していない私たちにできる今の時点の精一杯。
 千葉県のマンションから飛び降りた彼女たちが特別だったとは思わない。むしろ、普通の子がすごくがんばった結果なのだろう。
 だけど、もったいない。遺書も残さず、主張もなく、演出もせず死んでしまうなんて無駄死にだ。

「あの頃」を思い出してみると、そういう「気分」は、わからなくもない。
でも、「こんな『リア充』女に、何がわかる!」と、僕の中学校時代の記憶は反発してしまう。

 サッカーコートの中で、ジャージ姿の徳川は走っていた。目の前で展開されるボールの動きを不器用に顔だけ動かして追っている。ボールを運ぶのは、津島とか、笠原とか、クラスの目立つ男子だけだ。
 ボールの動きに合わせて流れる人の動きを、徳川がただ追いかける。自分がパスをもらうことや、立ち位置を考えずに、ただ「参加してます」ってポーズだけ必死で作るように、闇雲に走っている。
 画用紙にバラ撒いた砂鉄が、ボールを磁石代わりに揺らされるのを見るようだった。磁力に従って周辺に集まる砂鉄は、まさに集団でしか意志をもたない虫のようだ。
 味方の足元にボールが来ると、パスにちょうどいい場所にいた徳川が、隠れるように、わざわざ敵の背後に回りこんだ。
 だけど、そんなことしなくても、ボールを運ぶ目立つ男子たちは、徳川を始めから数に入れてない。昔から、何度も見てきた光景だった。それが、昆虫系の体育への参加の仕方だ。

はい、僕、昆虫系…………

こういう描写に、僕はけっこうダメージを受けてしまって、「なんでこんな小説読んでるんだろ……」とか、この年になっても感じてしまうわけです。
もし自分が中高生くらいのときに読んでいたら、「どうせ、『昆虫系男子』は、カッコ良く死ぬこと(あるいは、殺すこと)すら、許されないんだろうな」とか僻んでしまいそう。

イケメンだったら、事件のあとさんざん逃げ回っても本を書けば大ベストセラーだし、「王子」なんて呼ばれたりするのに、不細工だったら、「ああ、将来を悲観してやったんだな」って、勝手に「理解」されてしまうのだから。

最後に帳尻を合わせてしまうのは、辻村さんらしいという気はしますし、「イタいものを、イタいまま描く」という目的は達せられている小説ではないかと思います。

でもまあ、ステレオタイプの「中2病女」(というか、本物の「中2」なんですが)の独白を延々と読まされるのは、僕には正直つらかった。

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