- 作者: ロベルト佃
- 出版社/メーカー: 日本文芸社
- 発売日: 2011/05/25
- メディア: 新書
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内容紹介
中村俊輔、長谷部誠、長友佑都、岡崎慎司、阿部勇樹ら、日本を代表する多くのサッカー選手たちの代理人を務めているのが著者である。
長友のインテル移籍をはじめとする日本人選手の海外移籍交渉を数多くまとめてきた著者が、これまで語ってこなかった海外移籍交渉の舞台裏や、どのような選手が世界で通用するのかといった、選手の可能性を見抜く「プロの目」について明かす。
また、代理人だからこそ知っている世界のサッカーの意外な現状、日本サッカーの未来までを論じ、「サッカー代理人」とはいかなる仕事なのかを、初めて明かした1冊である。
内容(「BOOK」データベースより)
「サッカー代理人」とはいかなる仕事なのか。選手たちのどこを見て、どのように売り込み、また、どのように交渉をまとめ上げていくのだろうか。数々の海外移籍を実現してきた著者が、「サッカー代理人」のすべてを語る。
僕にとっての「代理人」のイメージは、スコット・ボラスさんのイメージがかなり強いのです。
ボラスさんは、西武の松坂大輔投手がレッドソックスに移籍したとき、ギリギリまで交渉を続け、最後は「それなら移籍はやめる」という態度までちらつかせて、好条件での移籍を獲得しました。
そのことが大きなニュースになった際、代理人というのは、お金の交渉だけではなく、家族も含めた選手の日常生活のサポートも行う仕事なのだ、ということも報道されていました。
この『サッカー代理人』の著者であるロベルト佃さんは、中村俊輔選手、長友選手をはじめとする、多くの日本人サッカー選手の海外移籍を手がけてきた代理人です。
彼は1995年に通訳として来日し、横浜マリノスで仕事をしていましたが、2001年に選手たちのサポートを志して独立し、代理人としての仕事を始めました。
著者は、なんと15歳から同時通訳として国際会議などで活躍していたそうで、「通訳っていうのは、本当に頭のいい人の職業なのだなあ」と感心してしまいました。
僕は、代理人というのは「選手をとにかく高く売る」ことを優先していると思い込んでいたのですが、少なくとも著者の場合は、「その場で稼げる金額よりも、選手の総合的なキャリアを重視している」ようです。
また、アルゼンチン生まれで日系3世の著者は、「世界のサッカー事情」にも通じているのですが、現代のサッカー界は、日本人が持っているイメージとは、かなり変化してきています。
海外のサッカーリーグといえば、スペインリーグ、プレミアリーグ(イングランド)、そして、セリエA(イタリア)が「3大リーグ」と呼ばれていて、なかでもセリエAは、日本でも三浦知良選手が歴史的な海外移籍を果たしたリーグであることからも、「世界トップクラスのリーグ」というイメージがあります。
ところが、著者によると、
イタリアのセリエAは、スペインリーグ、イングランド、プレミアリーグと肩を並べる、世界3大リーグの1つだった。しかし、現在は、ワンランク下のリーグに落ちぶれてしまっている。ミラン、インテル、ユベントスの3大クラブ以外は、経営状態が徐々にシビアになってきている。選手の年俸も下がり、給料の遅延などの影響も出ている。
サッカーの世界にも「その国の経済力」は大きな影響をもたらしていますし、「国民性」の違いもあるようです。
金銭的な約束に対してしっかりしているという意味では、ドイツなど北ヨーロッパの人々と日本人のメンタリティーは似ていると言える。日本人が、北ヨーロッパでビジネスをしてもめることはあまりないと思う。
特にドイツとイギリスは、しっかりと約束を守り、一度決めたことは、いちいち確認しなくても必ず実行してくれる。
今まで選手を出してきた中で、イギリスとドイツに関しては、一度も、1日も支払いが遅れたことはない。日本を含めれば、この3カ国に関しては、お金のトラブルが起こるのは皆無と言っていいだろう。
一方、ラテンの国々は異質だ。最初に約束して、決めておいたことがあとで変わってくることがよくある。
例えば、消費税はクラブ側が支払う、と決めておいたとしても、あろで次のような話が出てくることがよくある。
「消費税についての話はした覚えがないが…」
毎回、必ずどこかで、少しずつ問題が発生してくるのだ。
ラテンの国のクラブの場合は、約束を決めてもあまり意味がないと思うことがよくある。
また、南欧のクラブは金払いが悪い。特にギリシャ、トルコの一部クラブは金払いが悪いことでサッカー界では有名になっている。イタリアとスペインに関しても、一部支払いの滞納をすることがある。
そんな滞納を催促する際は、私は、代理人ではなく、借金の取り立て人なのかと思うときがある。
「支払いが遅れていますよ」と連絡すると、「大丈夫、大丈夫、みんなに遅れているから」との返事で、「そういう問題ではないだろう」とうんざりさせられてしまうものだ。
お金の督促までやらなければならないとは……
まあ、これも選手にとっては、「サッカーに集中できる環境をつくる」ために必要なことなのかもしれません。
佃さんは、長谷部選手、香川選手をはじめとして、ドイツで成功している日本人プレイヤーの多いことには、ドイツと日本の「国民性の近さ」が大きいのではないかと分析しておられます。少なくとも、運営がしっかりしていて、プレー以外のところでストレスを感じることが少ないという意味では、「日本人に向いた移籍先」なのでしょう。
最近ブンデスリーガに移籍する日本人が増えているのには、そういう「相性」もあるようです。
この本を読んでいると、代理人というのは、選手たちをすごく大事にしていますし、代理人自身にも「交渉の才能」だけではなく、「選手を見る目」がないとやっていけないということがよくわかります。
佃さんは、「選手の能力を見るときのポイント」をこのように紹介しています。
選手のどこを見るかポイントの一例を挙げると、ポジション別で違うが、ディフェンスなら守備の能力だけではなく、ボールを奪ったあとに、いかにすばやくリスタートできているか。フォワードなら前線の突破の動きだけではなく、シュートに持っていく前の過程で角度をつくれているか。ほかにも、自分の一連のプレーが終了したあとに、どんな動きをするのかをチェックする。
例えば、パスを出したあとに足を止めてしまう選手がいるが、いくら上手くてもそこで止まってしまうと、その選手は次のプレーに絡めなくなってしまうので、パスを出したあとのサポート、第三の動きは重要だ。また、サイドの選手に関しては運動量を見る。現代サッカーは、運動量がなければサイドを務めることはできない。それは、サイドバックもサイドハーフも同じだ。
そして、その実力をコンスタントに発揮できるか、プレーに好不調の波が少ないかをチェックする。
練習では飛び抜けて上手いが、プレッシャーに弱く、試合になると実力を出し切れないという選手もいる。逆に、技術はそれほど高くないのに、本番になると実力を発揮する選手もいる。そういったあたりは、練習から見ることでチェックする。
また、持っている能力を発揮するのにも、体調によって、80パーセントの力、60パーセントの力、40パーセントの力と波がある選手よりも、常に70パーセントのパフォーマンスをできる選手のほうがベターだ。
季節によっても変動があり、夏に体調が落ちる選手もいる。こういったところは、長期にわたって選手を注意深く見ていかないと判断できない。
好不調の波が大きいかどうかは、海外で戦うことを念頭に置いた場合、もっとも重要視する視点のひとつだ。
不慣れな土地、新しい土地で通用するためには、環境の変化に左右されず安定したパフォーマンスができるという資質がとても重要だからだ。
岡崎慎司選手については、こんな点での「評価」をしています。
また岡崎のメンタル面の特徴を言えば、自己犠牲の精神が強いということだ。「自分のために」頑張っている選手は、最後のところで踏ん張りがきかない。「もう、いいや」とあきらめてしまうこともある。
しかし、「チームのために」頑張っている選手は、自分が頑張らないとまわりに迷惑がかかると思い、とことん踏ん張れるものなのだ。まさに、岡崎は、そういう自分の限界以上のところまで頑張れるタイプの選手なのだ。
そうやって限界を超えながらプレーしてきたからこそ、岡崎も自分の能力を伸ばせてこられたのだと思う。実際、岡崎がここまで伸びるなんて予測していたサッカー関係者は、ほとんどいなかっただろう。
「自分のため」と口にする人は多いけれど、極限の状況での「最後のひと踏ん張り」ができるかどうかには、こういう「チームのため」に働ける選手かどうか、というのが大きいんですね。
そうやって「限界を超える」ことが、選手生命にとって、プラスになるのかどうか、心配にもなってしまうのですが……
「代理人の仕事」だけでなく、「世界のサッカー界の現状」そして、「プロは、選手たちをどういう視点でみているのか」がわかりやすく書いてある、なかなか興味深い本でした。
「現在進行形の話」だけに、生々しい「裏話」的なエピソードが少ないのは、ちょっと残念でしたけど。