弟とは6つ年が離れている。
僕がまだ小学生だったとき、家族である水族館に出かけた。
弟とふたりで館内をまわっていたのだが、僕がトイレから出てきたら、弟が泣いていた。
その前には、顔を真っ赤にした、係員のおじさんがいた。
「この子、君の弟かね。この子、話しかけたら、いきなり私の足を勢いよく踏んできて……何を考えているんだ!」
「本当に、そんなことをしたの?」
弟は、ずっと泣いていて、返事をしない。
おじさんには、そんなウソをつく理由はないはずだ。
そして、その当時の弟は、人見知りからか、「そういうこと」をやっていたような気もする。
しかし、僕はその現場を見ていない。
泣いているのは、僕の弟だ。
兄として、どうするべきか?
おじさんの言葉に従い、弟に注意するべきか?
それとも、「兄として」理由はどうあれ、弟を泣かしたこのおじさんに抗議をし、弟に「頼りになる兄」であることを印象付けるべきか……
結局、僕はそのとき何もできなかった。
怒っている係員のおじさんに抗議することも、謝ることもせず、ただ、弟の手を引いて、両親が待つ車に戻った。
帰りの車のなかでは、父親が、その話を聞いて、「お前はお兄ちゃんなのに、なんで黙って帰ってきたんだ!」と、ずっと怒っていた。
母親は、「まあまあ」と、ひたすら父親をなだめていた。
あのときもっと正しい対応をしていれば、何かが変わったのではないか?
でも、どうすればよかったのか、僕はいまだに、よくわからないのだ。
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