琥珀色の戯言

【読書感想】【映画感想】のブログです。2016年8月より、『はてなブログ』に移行しました。

「リスクと向き合うことでしか、前に進めない」

参考リンク:プロフェッショナル 仕事の流儀「極限の宇宙 コマンダーへの道〜若田光一〜」


 一昨日、12月5日の夜、NHKのニュースを観ていたら、そのあとに『プロフェッショナル 仕事の流儀』という番組がはじまりました。
 今回の「プロフェッショナル」は、宇宙飛行士の若田光一さん。
 なんとなく観はじめたのですが、観ているうちに夢中になり、最後のほうは、息子と一緒に身を乗り出して観てしまいました。


 日本で最初の宇宙飛行士である若田さんは、宇宙空間でのロボットアームの操作に関して超一流の技能を持つなど、「なんでもできる男」だと言われているのだそうです。
 もともと知力・体力・精神力などさまざまな面で「人類最高峰の能力」を持つ人たちのなかで、そんな評価を受けるというのは、凄いことだと思います。


 若田さんは、2013年末には、日本人初の船長として、宇宙ステーションに赴任することとなり、そのための訓練の光景が、紹介されていました(2年半も前から、そのための訓練を毎日やっているんですよ、宇宙飛行士って!)
 ちなみに、スペースシャトルの打ち上げが終わることになって、どうやって行くのかと思ったら、ロシアの「ソユーズ」で行くんですね。


 宇宙飛行士に選ばれるような「すごい能力」がある一方で、黙々とトレーニングを続けている48歳の若田さんの姿に、僕は目を奪われました。
「なんでもできる男」は、けっして、「生まれつき、なんでもできた男」ではなかったのだと思います。
 日本人初の宇宙飛行士に選ばれ、自分がこの世界で生き残っていくための「武器」として、若田さんは、ロボットアームの操作に習熟ことを選んだのではないかと僕は想像しているのです。
 いろんな医学的な手技においても、日本人は、やはり、欧米人よりも、基本的に細かい手技が得意な傾向があるので。
 「よそ者」として、宇宙飛行士の世界で生きていくには、「他人ができないこと」をできるようになるしかない。
 それにしても、英語やロシア語を母国語にしている人に比べると、スタートは、はるかに不利だったはず。


 ロシアの宇宙服を着ての訓練中に、「トラブル時に最初にやること」を忘れ、他の対策を考えてしまっていた若田さんの姿も、この番組内で流れました。
 それまでは、どんな質問にも正確に答え、訓練中に、突発的に行われるトラブル対応試験にも、完璧に対応していた若田さん。
 こんな「初歩的なミス」に、若田さんはきっと悔しがるだろうな、と僕は予想していました。
 でも、若田さんは、(もちろん嬉しそうではありませんでしたが)「そのための訓練ですから、ここでミスが出てくれてよかった」と、平然としていたのです。
 僕はそれを観ていて、完璧を目指しながらも、「ミスは起こるものだ」という前提に立って「訓練」をしている宇宙飛行士たちの世界の「合理性」と「厳しさ」を思い知らされました。
 たしかに、「訓練でミスを無くすこと」が目的じゃない。 
 もちろん、「本番」では、ミスは死につながります。
 だからこそ、「訓練」では、あらゆるミスの可能性を洗い出しておくのだ、ミスが出たことを喜ぶのだ、というのが、宇宙飛行士たちの発想なのです。


 そして、番組中では、2003年のスペースシャトル「コロンビア」での事故の映像が流れました。
「宇宙に行くのは危険だ」
 そんなこと、みんな承知の上で、宇宙飛行士になったはずです。
 しかしながら、家庭を持ち、いままで一緒に訓練してきた仲間たちが、本人たちにはどうしようもない理由で砕け散ってしまった姿をみれば、平静でいることは難しい。
 あの事故をきっかけに、宇宙飛行士をやめた人もいたそうです。


 そんななか、若田さんは、宇宙に挑み続ける道を自ら選びました。

「リスクと向き合うことでしか、前に進めない」

 もちろん、ムダに命を捨てるような人ではありません。
 でも、コロンビアの事故は、宇宙においては、どんなに優れた宇宙飛行士でも、自分の力の及ばないところで生命を失う可能性がある、ということを、若田さんに突き付けたはずです。
 それでも、若田さんは、宇宙に挑むことを自分の使命だと決めて、この仕事を続けることにしたのです。


 いや、ラクしてお金を稼ぐ手段だって、このくらいの能力を持った人なら、いくらでもあるはずなんですよ。
 「自分がやらなくてもいいだろ」とか「そんな危険を冒す必要があるのか」と考える人も多いはず。


 それでも、若田さんは、「リスクと向き合いながら、前に進む」ことにしたのです。
 「リスクを回避する」ことが正義だと言われがちな、今の世の中で。

 
 息子も、詳しい話の内容はわからなかったと思うけれども、珍しく神妙に、テレビを見て、若田さんの姿を凝視していたので、なにか伝わるものがあったんじゃないかなと思っています。
 本当に、すばらしいものを見せていただきました。


 この番組を観ながら、僕は思わず妻にこう話しかけていました。
「若田さんみたいな人が、日本の総理大臣になってくれればいいのにねえ。危機管理能力もあるし、人柄も良いし」
 すると、妻は、こう答えました。
「そうだねえ。でもきっと、この人は、総理大臣の椅子になんか、まったく興味ないと思うよ」
 ああ、たしかにそうだろうなあ。世の中には、僕みたいな凡人が求めている「権力」より、よっぽど楽しいことがあるんだ。
 世の中、本当にうまくいかないものですよね。


付記:この若田光一さんの『プロフェッショナル 仕事の流儀』は、12月9日(金)午前0時15分(木曜日の深夜)から、NHK総合で再放送されるそうです。まだ未見のかたは、ぜひご覧になってみてください。