琥珀色の戯言

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松嶋×町山 未公開映画を観る本 ☆☆☆☆☆


松嶋×町山 未公開映画を観る本

松嶋×町山 未公開映画を観る本

内容紹介
過激でアブない危未公開映画を大公開!
TOKYO MXでオンエア中(金曜23:30~24:30)の「松嶋×町山 未公開映画を観るTV」がついに単行本化! NO.1映画評論家にして人気コラムニストの町山智浩とお笑い界の“迷言女王”ことオセロの松嶋尚美が過激でアブない未公開映画をおもしろまじめなトークで大公開!! 町山氏セレクトによる未公開のドキュメンタリー映画を松嶋さんとの軽妙なトークで浮き彫りに。さらに、映画から見えるとんでもない“世界の現実”を説き明かす! 町山氏の書き下ろし解説&ふたりの特別対談付き。

僕がこの「松嶋×町山 未公開映画を観るTV」という番組の存在を知ったのは、つい最近でした。
TOKYO MXでの放送ということで、いずれにしても僕の居住地ではリアルタイムで観ることはできなかったのですが、この本を読んでいると、ああ、観たかったなあ、と。
この「松嶋×町山 未公開映画を観るTV」、2011年4月で新作の放送は中止となり、いまは過去の回の再放送が定期的に流されているそうです。

この番組、映画評論家の町山智浩さんとオセロの松嶋さんが、町山さんがチョイスした「日本では未公開のドキュメンタリー映画」を観ながら、その内容についてのトークを繰り広げるらしいのですが、僕はこの書籍化されたものを読んだだけで、すごく勉強にもなりましたし、いろいろと考えさせられました。
1時間×25本分の番組、あるいは、それ以上の時間をかけて、ドキュメンタリー本編をみられれば、それがいちばん良いのでしょうけど、実際は、それほどの時間を割くのは難しい。
そういう意味では、この本ならば、2時間で、25本の作品の凝縮されたエッセンスを知ることができるわけで、非常に効率的ではあります。
まあ、「あらすじで読む日本文学」みたいなもので、この本を読んだだけで、それぞれのドキュメンタリー映画を「わかったつもり」になるのは、失礼なことであり、あまり意味がないのかもしれませんけど。

それにしても、世界は広いというか、多くの国民が「異常」だと思い込んでいる日本という国の「健全性」と「暢気さ」を、この本を読んでいると感じずにはいられません。

『フロウ〜水が大企業に独占される!〜』という映画の回より。

町山智浩日本にいると飲み水には苦労しないですよね。でも、世界を見ると、そんな国は決して多くないんです。世界中で11億人もがきれいな飲料水がないことに困っていて、毎年200万人が水不足や汚い水による感染で死んでいる。そのほとんどが5歳以下の子供。


松嶋:かわいそうやね。何とかならんの? 水道つくってあげるとか。


町山:ところが逆に、水不足につけ込んで商売する連中がいるんです。フランスのスエズヴェオリア、ドイツのRWEなどの多国籍企業なんですが、彼らは「水男爵」って呼ばれています。


松嶋:男爵、かっこいいやん。


町山:名前だけはね。何もしなくてもお金が儲かるから、貴族みたいだってことです。


松嶋:ある意味、ええとこに目つけたな。男爵たち。


町山:そう。彼ら、わずか5、6社の大企業が、全世界の水を独占しつつある。


(中略)


町山:ボリビアではもともと日本と同じように水道局が水を管理してたんですけど、アメリカのベクテルという会社が水道事業を完全に独占しちゃった。


松嶋:えー、でもそれ、アメリカの会社でしょ。


町山:そう。儲かるのは外国の会社。しかも、企業が水源を押さえたために、井戸からも水が出なく、川も上流で押さえて、下流に行かないようにする。そこで、水が欲しければ我々の会社から買え!って、すごい高い金額で売りつけた。1か月の水道代が3000円くらいになっちゃった。ボリビアは貧しい国で、年収2万円くらいで暮らしている人が多いの。


松嶋:水飲めないやん!


町山:貧乏な人たちはしょうがないから汚い水を飲んで、子供が死んで、悲惨なことになったんです。


松嶋:”人間の体は70%が水でできています”って、いうよね。そこを押さえられたら、生きることに困るやんか。水、大事やのに。


町山:だから空気と同じだから、絶対に営利団体の商売の道具にさせちゃいけないの。


松嶋:じゃあ、なんでボリビアは水道をアメリカの会社に任せたの?


町山:ボリビアは貧乏だから、世界銀行からお金を借りてるの。世界銀行というのは、貧乏な国に水道とか道路をつくるための資金を援助というか貸してあげるわけ。ところが、世界銀行ボリビアに、水道を民間企業に任せなければ金を貸さないぞと言ったんです。


松嶋:何それ?


町山:世界銀行は、水道に関しては、世界水会議の方針に従ってる。それは、世界各国が集まって世界の水不足対策を協議する「水の国連」ですけど、その水会議の役員は、さっき言った水男爵たちによって占められてるんです。


松嶋:グルやー。


町山:グルですよ。世界銀行で日本やアメリカから集めた大金は、貧しい国が水道をつくるために貸し出されるけど、その水道をやってるのは先進国の水男爵。お金は彼らのところに入るだけ。

なんて酷い話なんだ……
この本では、こういう「世界の裏面の事実」が描かれたドキュメンタリーが、たくさん紹介されています(けっこうバカバカしいものもありますけど)。
水が豊富な日本に生まれてよかった!なんて思ってしまう話なのですが、これが日本にとって他人事ではないというのを、椎名誠さんが『水惑星の旅』という本に書かれていました。


以下は、『水惑星の旅』からの引用です。

 今、日本各地の山(森)がかつてないほどの規模で売れている。林業がふるわなくなったいま、日本の山はその持ち主にとっては「巨大なやっかいもの」になりつつある。そういう山を買い取る動きが活発化しているのだ。相手はダミー会社を使っているので明確にはわからないが、背後に外国の企業が存在しているケースが多いという(『奪われる日本の森』平野秀樹、安田喜憲著、新潮社)。

 この本に書かれている内容は衝撃的だった。山林を買っていく企業の狙いはさまざなで、そこから伐採される木材もそのひとつだが、究極の目的は「水脈」というのだ。日本にはいたるところに「名水」がある。本章の冒頭書いたように山間部にはたくさんの川の源流があり、梅雨や台風が定期的にやってきて、水源が枯渇するということはまずない。質のいい水が安定供給されている「宝の山」に外資が目をつけているのだ。硬水が多いヨーロッパ各国にとって、「軟水」だらけの日本の水は文字通り「宝の源」であり、ウォータービジネスの最高の狙い目だ。国家的な水不足に悩んでいる中国はアジアの大河の源流がほとんど集まっているチベットから巨大な水路を作って中国の川に導き入れる工事を急ピッチで進めるいっぽう、日本の山の水脈にも手をのばしている。

ところが、いまの日本には、「このような外国からの水資源収奪を防ぐ法律が存在しない」のです。
いまに、「日本人が、目の前を流れている日本の水を飲めなくなる」日が来るかもしれない。
にもかかわらず、多くの日本人は、そんな危険があることすら、認識していません。
ボリビアの話は、本当に「他人事」ではないいのです。


「水」で暴利をむさぼるなんて、人間のやることか!と考えずにはいられません。
でも、そういうことをやる人がいるというのが、「世界の現実」なのです。


『ウォルマート〜世界最大のスーパー、その闇〜』の回より。

町山:とにかく安いんです。この間、ウォルマートで子供の自転車を買ったのね。いくらだったと思う?


松嶋:まあ、安いって言ってるってことは、7800円。


町山:19ドル。


松嶋:1900円?


町山:1900円!


松嶋:えーーー!安ーい! ちゃんと動くの?


町山:ちゃんと動く。ちゃんとブレーキも付いてる。


松嶋:たまらんね。


町山:たまらんでしょ? だから、みんな買いに行くわけ。でも激安というのは一見、貧しい市民の味方に見えるけど、その裏に恐ろしい副作用があるってことを描いたのが、この映画です。


松嶋:そーやねんな。


町山:まずウォルマートができると、その町の小売店は全部潰れます。大量に安く買い付けしてバカ安で売るから、小売店は価格競争に負けちゃう。小売店が潰れると、そこで働いていた人たちの仕事がなくなる。ウォルマート以外に職場がないから、ウォルマートは彼らを最低賃金で雇うことができる。どんなにお給料が安くてもほかに働くところがないから文句が言えない。


松嶋:しかも、その安い賃金で、結局ウォルマートでお買い物やろ。


町山:だってほかのお店は全部潰れてるし、給料が安いからウォルマートでしか買えないし。


松嶋:そこだけで回ってんねんな、お金が。

ひとつの「激安巨大スーパー」がやってきただけで、激変する田舎町の人々の生活。
ウォルマートの場合はある種の「極端な例」なのだとしても、これと同じようなことが、いまの日本でも起こっているんですよね。
「だって安いから」という理由で、みんなが激安スーパーを利用していくと、いつのまにか、みんなの生活が苦しくなっていく。
これじゃあ、ウォルマートのために生きているようなものです。


このほかにも、「返せそうもない人にあえてお金を貸して儲けるカード会社」なんていう話がありました。
なかなか返せない人のほうが、延滞利息もつくし、儲かるらしいのです。
そして、最後はその債権を「取り立て屋」みたいな連中に売ってしまう。


「世界(とくにアメリカ)の暗部」が凝縮されている本なので、この一冊を読むだけでも、かなり勉強になるし、「油断しちゃダメだな」という気分になります。アメリカというのは、実に「極端な国」ですね。

 そして、ドキュメンタリーといえば、やたらと緊迫した雰囲気の「誰かひとりの人間の話」ばかりになってしまう日本は、「こんなふうに社会問題を浮き彫りにするという自浄作用」に乏しいのかもしれないな、と考えさせられました。

 番組を観たことが一度もなかった僕も十分楽しめた、オススメの一冊です。


水惑星の旅 (新潮選書)

水惑星の旅 (新潮選書)

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