琥珀色の戯言

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この世でいちばん大事な「水」の話

外資の水源地買収抑止へ、事前届け出制…埼玉(YOMIURI ONLINE)

水源地周辺の土地が中国など外国資本に買収されるケースが全国で相次いでいることから、埼玉県は近く、土地取引の事前届け出制を柱とする水源地域保全条例案を県議会に提出する。

 成立すれば、都道府県としては全国初となる。外資による水源地域の買収事例が相次いで発覚した北海道も、同様の条例策定に向けて動いている。

 国土交通省林野庁によると、中国など外資による森林買収は全国に広がりつつあり、2010年までの5年間で、北海道や長野県など5道県で計40件、約620ヘクタールの取引が確認された。

 埼玉県内では、外資による買収は確認されていないものの、東京都内で水道水として利用される荒川などの源流が森林地帯に多く存在する。秩父市などでは7事業者がミネラルウオーターを生産しているほか、寄居町などの山あいには全国的に名高い湧水もあり、県は、外資が土地買収を進める可能性があるとみて警戒してきた。


これをYahoo!ニュースのトップに見つけて、僕はちょっと安心しました。
これだけ読むと、なんだかすごく地味なニュースなのですが、ようやく日本でも、埼玉県が「対策」をとり、それをYahoo!のスタッフが、こうして大きく採り上げてくれたということに。


先日、椎名誠さんの『水惑星の旅』という本を読んで、僕はこの「外資による水源地買収問題」に衝撃を受けました。
参考リンク:『水惑星の旅』感想(琥珀色の戯言)


「島国で、多くの河川を有する」日本という国には、自然災害が多いという問題がある一方で、「水」に関しては、非常に恵まれた国なのです。
世界各国の多くの国を通って海にそそぐ大河川では、「その水はどこの国のものなのか?」が、大きな問題となります。
上流にある国が河川を汚染したり、大きなダムをつくったりすれば、下流にある国はその影響を免れることができません。
でも、「この水は、うちの国を流れている川から得たものだ」と言われると、下流にある国としては、なかなか主張しにくい面もあります。


最近まで、日本は、そういう「水戦争」とは無縁でいられたのですが、椎名さんは、「日本の山林の水源地を買っていく外国資本」のことを、『水惑星の旅』で、採り上げておられます。

 今、日本各地の山(森)がかつてないほどの規模で売れている。林業がふるわなくなったいま、日本の山はその持ち主にとっては「巨大なやっかいもの」になりつつある。そういう山を買い取る動きが活発化しているのだ。相手はダミー会社を使っているので明確にはわからないが、背後に外国の企業が存在しているケースが多いという(『奪われる日本の森』平野秀樹、安田喜憲著、新潮社)。

 この本に書かれている内容は衝撃的だった。山林を買っていく企業の狙いはさまざなで、そこから伐採される木材もそのひとつだが、究極の目的は「水脈」というのだ。日本にはいたるところに「名水」がある。本章の冒頭書いたように山間部にはたくさんの川の源流があり、梅雨や台風が定期的にやってきて、水源が枯渇するということはまずない。質のいい水が安定供給されている「宝の山」に外資が目をつけているのだ。硬水が多いヨーロッパ各国にとって、「軟水」だらけの日本の水は文字通り「宝の源」であり、ウォータービジネスの最高の狙い目だ。国家的な水不足に悩んでいる中国はアジアの大河の源流がほとんど集まっているチベットから巨大な水路を作って中国の川に導き入れる工事を急ピッチで進めるいっぽう、日本の山の水脈にも手をのばしている。

ところが、これまでの日本には、「外国からの水資源収奪を防ぐ法律が存在しなかった」のです。
もちろん、コストの問題などもあり、「日本の川の水が、すべて外国人のものとなる」というのは、いまのところ現実的ではないと思われますが、本当に世界の水が枯渇していけば、「日本人が、日本国内を流れている綺麗な水を口にするのが難しい時代」がやってくる可能性もあるんですよね。
「水なんて、タダ同然で使えるのが当然」だと考えている人は、世界のなかでは、「少数派」なのです。
そんな日本人が、こぞってエビアンなどの外国のミネラルウォーターを買って飲んでいるというのも、諸外国からすれば、不思議な話かもしれません。
「水道から、タダ同然で普通に飲める水が出るのに」と。


いまは、原発の問題などで、「水の安全性」にも警鐘が鳴らされ、「日本にとっての最大の資源」への安心も揺らぎつつあるのですが……


「水」は、生命にとって必要不可欠なものであるのですが、あまりに身近すぎて、その重要性は(とくに日本人には)軽視されがちです。


 「水」を他国や企業に支配されてしまったら、どうなるのか?
『松嶋×町山 未公開映画を観る本』で、『フロウ〜水が大企業に独占される!〜』という映画が紹介されています。

町山智浩日本にいると飲み水には苦労しないですよね。でも、世界を見ると、そんな国は決して多くないんです。世界中で11億人もがきれいな飲料水がないことに困っていて、毎年200万人が水不足や汚い水による感染で死んでいる。そのほとんどが5歳以下の子供。


松嶋尚美かわいそうやね。何とかならんの? 水道つくってあげるとか。


町山:ところが逆に、水不足につけ込んで商売する連中がいるんです。フランスのスエズヴェオリア、ドイツのRWEなどのタコ国籍企業なんですが、彼らは「水男爵」って呼ばれています。


松嶋:男爵、かっこいいやん。


町山:名前だけはね。何もしなくてもお金が儲かるから、貴族みたいだってことです。


松嶋:ある意味、ええとこに目つけたな。男爵たち。


町山:そう。彼ら、わずか5、6社の大企業が、全世界の水を独占しつつある。


(中略)


町山:ボリビアではもともと日本と同じように水道局が水を管理してたんですけど、アメリカのベクテルという会社が水道事業を完全に独占しちゃった。


松嶋:えー、でもそれ、アメリカの会社でしょ。


町山:そう。儲かるのは外国の会社。しかも、企業が水源を押さえたために、井戸からも水が出なく、川も上流で押さえて、下流に行かないようにする。そこで、水が欲しければ我々の会社から買え!って、すごい高い金額で売りつけた。1か月の水道代が3000円くらいになっちゃった。ボリビアは貧しい国で、年収2万円くらいで暮らしている人が多いの。


松嶋:水飲めないやん!


町山:貧乏な人たちはしょうがないから汚い水を飲んで、子供が死んで、悲惨なことになったんです。


松嶋:”人間の体は70%が水でできています”って、いうよね。そこを押さえられたら、生きることに困るやんか。水、大事やのに。


町山:だから空気と同じだから、絶対に営利団体の商売の道具にさせちゃいけないの。


松嶋:じゃあ、なんでボリビアは水道をアメリカの会社に任せたの?


町山:ボリビアは貧乏だから、世界銀行からお金を借りてるの。世界銀行というのは、貧乏な国に水道とか道路をつくるための資金を援助というか貸してあげるわけ。ところが、世界銀行ボリビアに、水道を民間企業に任せなければ金を貸さないぞと言ったんです。


松嶋:何それ?


町山:世界銀行は、水道に関しては、世界水会議の方針に従ってる。それは、世界各国が集まって世界の水不足対策を協議する「水の国連」ですけど、その水会議の役員は、さっき言った水男爵たちによって占められてるんです。


松嶋:グルやー。


町山:グルですよ。世界銀行で日本やアメリカから集めた大金は、貧しい国が水道をつくるために貸し出されるけど、その水道をやってるのは先進国の水男爵。お金は彼らのところに入るだけ。


 もちろん、日本がすぐにボリビアのようになるとは考え難いし、日本だけがよければそれでいいのか?とも思います。
 それでも、ボリビアのように「水攻め」にされる未来を、子孫に残すわけにはいきません。
 「水なんて、あるのがあたりまえ」なのは、日本でも、そんなに長い期間ではないのです。
 玉川上水ができるまでの苦労を、教科書で読んだ人も少なくないはず。

 どうか、この「死活問題」を、ひとりでも多くの人が知ってくれますように。


水惑星の旅 (新潮選書)

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松嶋×町山 未公開映画を観る本

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