琥珀色の戯言

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傍聞き ☆☆☆☆


傍聞き (双葉文庫)

傍聞き (双葉文庫)

内容紹介
娘の不可解な行動に悩む女性刑事が、我が子の意図に心動かされる「傍聞き」。元受刑者の揺れる気持ちが切ない「迷い箱」。女性の自宅を鎮火中に、消防士のとった行為が意想外な「899」。患者の搬送を避ける救急隊員の事情が胸に迫る「迷走」。巧妙な伏線と人間ドラマを見事に融合させた4編。表題作で08年日本推理作家協会賞短編部門受賞!

 最近ちょっとミステリづいていて、『このミス』の上位作品などを中心に、けっこう立て続けに読んでいます。
 しかし、長編ミステリというのは(とくに翻訳ものは)、けっこう集中して読むことが要求されがちです。
 人の名前がこんがらがったりしやすいし。
 この文庫、用事で1時間半くらい新幹線で移動する際に「ああ、このくらいなら薄いし、短編集だし、読みやすそう!」と思って買いました。
 実際は、けっこう読みごたえがあって、簡単に斜め読みできるような作品ではなかったんですけどね。

 救急隊員、刑事、消防隊員など、「公務」に携わる人々を中心に描いた短編がほとんどなのですが、彼らのプロ意識と、ひとりの「人間」としての葛藤が描かれていて、医療という仕事をやっている僕にも、身につまされる話ばかりだったんですよね。

 ミステリって、読み慣れてくると、「善意に見せかけた悪意」を、ついつい探してしまうのですが、この短編集は、そういう「ミステリに悪酔いしてしまった読者たち」を見事に裏切ってくれます。
それも、「裏切ってくれて、よかった」という安堵とともに。

「この20年で最高の傑作!」
「百万部売っても売り足りない!」

そんなオビのアオリ文句はさすがに「言い過ぎ」だとは思いますし、個々の作品のキャラクターの魅力がいまひとつのようにも感じられるのですけど(これは「短編」だから致し方ない面はあります)。

読んでいて、なんだかホッとする短編集ですので、分厚いミステリや叙述トリックに疲れた皆様に、おすすめしたい一冊です。

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