琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

政府は必ず嘘をつく ☆☆☆☆☆

内容紹介
3・11以降、原発事故・放射能問題からTPPまで、政府や東電、大手マスコミの報道は隠ぺいされたり、偏った見方が蔓延るなど、国民に真実が知らされない中で、洪水のように情報が発信されている。
アメリカでは9・11の同時多発テロ以降、大惨事につけ込んで実施される過激な市場原理主義ショック・ドクトリン」によって貧困格差が拡大し続けている。

何が本当なのかが信じられなくなった今、どうすれば私たちは真実を手にできるのか。

著者は日本国内の状況を追いながら、並行して貧困大国化するアメリカに何度も足を運び取材した。

アメリカで目にした惨状、日本に帰るたびに抱く違和感は、やがて1本の線としてつながる。

それは、3・11後の日本の状況が、9・11後に格差が拡大していったアメリカの姿に酷似し始めているということだ。

そして、その背景にあるものは、中東の春やTPPなどと、同一線上にあるものだった。

「情報が操作され、市場化の名の下に国民が虐げられているアメリカの惨状を見るにつれ、このままでは日本が二の舞になる」と警告。

今こそ、自らが考え、行動し、真実を見抜く目を持つことの意義を問いかける。


陰謀論」を煽るような新書なのかなあ、『貧困大陸アメリカ』の著者も、そこまで堕ちたか……などと不安になりつつ読んだのですが、これは本当に良書だと思います。
東日本大震災、いや、NY同時多発テロ以降からはじまっていた「世界の変化」について、すごく真摯にまとめられています。
この本の良さは、著者が「日本のメディア」の呪縛から離れているだけではなく、日本のメディアを「マスゴミ」よばわりする人たちが多くハマっている罠、「欧米のメディアの盲目的な礼賛」にも陥っていないことです。
堤さんは、『貧困大陸アメリカ』では「(本当は多数派であるはずの)貧者からみたアメリカ」を描き、この新書では、「リビアやシリア、アルゼンチンにとって真実のアメリカ像」を紹介しています。


リビアについての記述に、僕は衝撃を受けました。

 反米・反イスラエルを掲げ、数々のテロに関与し“アラブの狂犬”と呼ばれたカダフィ大佐カダフィ大佐殺害を伝える日本や欧米の報道には、「独裁者がついに死亡」「民主革命である<アラブの春>がリビアにも拡大」というような見出しが踊り、歓喜するリビア国民の写真が掲載された。
「あなたたち日本人は、リビアのことを何もわかっていない。西側のマスコミしか見ないからです」
 チリ出身で東京在住のヴェロニカ・ランソデールは、リビアについての間違ったイメージが日本に広がっていることに警鐘を鳴らす。
「私はリビアにたくさん友人がいるけれど、彼らは高学歴・高福祉の国であるリビアを誇りに思っています。アフリカ大陸で最も生活水準が高いリビアでは、教育も医療も無料で、女性も尊重されている。日本の人たちは、そういうことを知っていますか? 国民は、電気代の請求書など見たことがありません。42年間も政権を維持できたことには、ちゃんと理由があるんです」

すみません、僕はリビアがそんな国であることを、全然知りませんでした。
アフリアにあって、独裁者がいる困った国で、国民はみんな困窮しているものだとばかり思っていました。
僕が接したリビアに関する日本の報道では、「独裁者カダフィ大佐は豪邸に住み、専属看護師と仲良くやって贅沢三昧!」みたいな話ばかりでしたし。

 カダフィは全ての国民にとって、家を持つことは人権だと考えており、新婚夫婦には米ドル換算で約5万ドルもの住宅購入補助金を、失業者には無料住宅を提供し、豪邸を禁止した。車を購入する時は、政府が半額を支払う。電気代はかからず、税金はゼロ。教育、医療は質の高いサービスが無料で受けられる。もし、国内で必要条件に合うものが見つからなければ、政府が外国へ行けるよう手配してくれる。
 大家族の食料費は固定相場、全てのローンは無利子でガソリンは格安。農業を始めたい国民には土地、家、家畜、種子まで全て国が無料で支給、薬剤師になりたい場合も必要経費は無料だ。42年間、カダフィが権力の座に就く前に10%以下だった識字率は、今は90%を超えている。これらの政策を可能にしていたのは、アフリカ最大の埋蔵量を誇る石油資源だった。

リビアって、「独裁者に苦しめられている国」じゃなくて、パラダイスなんじゃない?
もちろん、「オイルマネー」が、リビアを支えていたことは間違いなく、カダフィ大佐も年をとって「権力の腐敗」がみられてきたのかもしれません。
でも、「42年間も権力を握っている独裁者がいる」からといって、こんな国がNATOから空爆される理由があるのでしょうか?
2011年7月には、首都トリポリの「緑の広場」で、NATOの爆撃に抗議する人々、170万人(これは、トリポリの人口の95%、リビアの全国民の3分の1にあたるそうです)が集まったそうですが、これは西側のメディアでは報道されることはありませんでした。
市民の暴動を初めから衛星中継で記録していたロシア軍の高官は、「カダフィによる非武装抗議者に対する空爆は断じて行われていない」と断言し、アメリカ国防総省ですら、そうした攻撃は確認されていないと認めているそうです。


あるフランス人ジャーナリストは、こう証言しています。

 カダフィ大佐が殺害された時、群衆が半政府軍を歓声を上げて迎えたという報道は事実ではない。あの時、トリポリの民衆はNATO空爆に怯えて、家の外にすら出なかった。現場では、NATO軍の爆撃と外国人傭兵からなる反政府グループが民間人を標的にし、部族間の対立を煽っていた。私がユーゴやチェチェン、アフがニスタンで見たのと同じ光景だ。リビアは今後、ソマリアのような混沌に陥るだろう」


さて、「独裁者がいる楽園」と、「独裁者がいないだけの地獄」と、どっちがいいですか?


欧米のマスメディアが「統制」されているのは、理解できるんですよ。
ある意味、「戦争」って、そういうものだから。
でも、日本のマスメディアは、なぜこういうときに「欧米のメディアの情報を垂れ流しにする」だけなのだろう?
そんなメディアが、「日本国内のことには嘘をつかない」わけがない。


この新書には、こんなことも書かれています。

 前述したIAEA同様、よく誤解されている国際機関のひとつにIMFがある。1944年に、通貨と為替相場の安定を目的として世界銀行と共に設立された国際機関だ。
 かつて私が国連婦人開発基金にいた頃、一緒に働いていたアルゼンチン出身のローラ・ガルシアが、私にこう言った。
「西側の報道ばかり見ている人の多くは、IMFのことを、まるで弱い国を救う赤十字のような機関だと錯覚しているわ。IMF世界銀行、WTO(世界貿易機関)の目的は、地球規模の自由貿易推進で、ゲームのルールはアメリカ中心の西側に有利なようにできているのだ。


(中略)


 レゲエ・ミュージック発祥の地であり「カリブの楽園」の別名を持つジャマイカ。だがふたを開けてみると、浮かび上がるのは政府が多額の借金を抱え、グローバル資本やIMFの管理体制に苦しめられる貧困国の姿だ。
 ローラの言うように、IMFの救済プロセスは債務国にとって非常に不利な仕組みになっている。高金利融資を引き換えにIMFが債務国に課す「経済構造調整プログラム」は、「通貨の切り下げ」「政府の公的支出の削減」「貿易規制の撤廃」によって、その国の構造を根本から変えてしまう。
 1997年にオイルショック危機から脱出するために、IMF世界銀行から借り入れをしたジャマイカに対し、IMFは融資条件として関税などの貿易規制の撤廃を要求した。その結果、米国産を中心とした安価な外国産農産物が大量に流入、国内農家はいきなり、巨額の補助金で国に守られたアメリカの大規模農業と競争させられることになる。苦しくなったジャマイカ農家が政府に融資を申請したが、無駄だった。そこにはすでに、IMFが決めた23%という法外な金利が設定されていたからだ。
 さらに、IMFが国内に設定した、国内法が適用されない「経済特区」には、新規公開株に群がる投資家のごとく海外のグローバル企業が押し寄せた。「国内雇用を増やす」という美辞麗句を信じたジャマイカ国民は、特区に上陸した米系グローバル資本の工場で劣悪な環境の下、最低賃金以下で働かされることになった。


(中略)


 1990年代のアジア危機で、IMF介入を受け入れた韓国、インドネシア、タイといった国々は、金融機関をはじめ国内の主要セクターが民営化され、総数2400万人の失業者と共に2000万人が貧困層に転落したからだ。同地域から中産階級を消滅させたのは、危機そのものではなく、IMFによる介入だった。
 韓国では企業による大量解雇を禁じる「労働者保護法」がIMFに撤廃させられ、国民の6割以上いた中流層がわずか3年で4割以下に激減した。

ちなみに、「IMFがジャマイカに突きつけた規制撤廃政策は、アメリカが長年日本に要求してきたことと全く同じ内容」なのだそうです。
そして、TPPもまた「同じ内容」。


日本の産業の競争力は、ジャマイカよりは高いかもしれませんが、少なくとも、アメリカのグローバル企業と「自由競争」(しかも、相手は自国に不都合なことは「参入障壁だ!」と訴え放題で、これまでの例では、アメリカの企業が負けた例はありません)していくことが、日本に、いや、大部分の日本国民にプラスになるとは思えません。

「人々に、繁栄と自由と民主主義をもたらすと言われてきた<グローバル化>でしたが」


「ええ。<グローバル化>が途方もない豊かさをもたらすというのは本当でした。その繁栄を謳歌したのが、1%と呼ばれる、ほんの一握りの人だけだったということを除いては」


ウォール街デモが反発しているのは、<企業株主の利益が正義>だという、その価値観に対してですね」


「そうです。アメリカはグローバリゼーションと<コーポラティズム>の二つによって、国家が内部崩壊したモデルですから。多国籍企業は市場にとって最も邪魔な国家の規制を、自由貿易という旗を掲げながら、国家間の枠組みで次々に緩めていった。アメリカは、同じことを自国に対してもやったのです」


 かつてポートランド在住のシティバンク元副社長ブルース・ブレンが、私に語った言葉が浮かぶ。
多国籍企業にとって、カネで手に入らないものなど何もない。目に見えるものも、見えないものも。民間も公共も。ひとつの国家でさえも」


TPPはアメリカの陰謀だ」と言っている人たちがいます。
しかしながら、実は「アメリカ国民対日本国民」というのは誤った構図で、日本でもアメリカでも「大企業の利益とそれを享受する人々対99%の『一般市民』」なんですよね。
にもかかわらず、マスメディアの多くは、スポンサーである大企業の顔色をうかがって、TPPのリスクを積極的に伝えようとはしていません。
日本とアメリカの「ふつうの人々」は、大企業の横暴に対して、生活を守るために共闘できるはずなのに。


この新書のなかで、著者は「東電とメディア、政治の癒着」についても言及されています。
本当に「誰のための政治」なのか……


でも、「希望」がまったく失われたわけではないのです。

 1980年代の終わり、にIMF傘下にいたアルゼンチンは、国営企業、石油を含む天然資源、銀行、道路、動物園や公共トイレなどを、外国投資家に大安売りで売却した。その結果、2001年12月の銀行閉鎖とともに1万社が倒産し、経済が崩壊したのだった。

まさに「食いものにされ、どん底に落ちた」アルゼンチンだったのですが、2003年5月に、ネストル・キスチネル大統領が就任したことをきっかけに、「驚異的な復興」をとげたのです。
大統領は<IMFがもたらした新自由主義の呪縛>からの脱却を最優先事項とし、2003年末までにマイナスからプラス8%の経済成長をみせ、2011年までに90%成長しました。
そして、貧困撲滅にも尽力し、2001年に50%だった貧困率は、2011年の時点で15%以下にまで減少しました。


アルゼンチン人のローラ・ガルシアさんは、こう語っています。

IMF管理下にいた頃、アルゼンチンの人々の暮らしは本当に酷かった。新自由主義政策がどんどん導入されて、みんなどんどん貧しくなって、病院にかかれなくなったり、食べ物がなくて水を飲んで我慢することもあった。でも一番つらかったのは、そういう状況を変えられないというあきらめ、無力感が国民の間にあったこと。
 でも2003年に、最後に残っていた望みをかけて政治を動かした。そうやって選んだリーダーに救われたの。アメリカ型グローバリズムから抜け出すためにアルゼンチンのリーダーが徹底的に追求したことは、『国とは何か』『国民を幸福にする持続可能な成長とは何か』の二つ。変わりたいと望んだ国民も、全力でそれを支えたのよ」
 2007年、クリスティナ・フェルナンデス大統領は一般教書演説でこう述べている。
「海外の債権者たちは、しきりに『負債を返済するためには、IMFと協定を結ばなければだめだ』と言ってくるが、アルゼンチンはこう答える。『わが国は主権国家だ。負債はお返ししたいが、金輪際、IMFと協定を結ぶつもりはない』と」

日本ではほとんど「報道」されることはありませんが、世界各地で、こんな「既成事実」が存在しているのです。
日本のマスコミや政治家は、これを知らないのでしょうか?
TPPを推進する前に「先例」に学ぼうとしなかったのでしょうか?


アルゼンチンが成し遂げたこと、そして、世界に示したこと。
日本が世界に学ぼうとするのであれば、アルゼンチンと同じいばらの道を歩む前に「予防」するべきです。


僕にとっては、「いままで知らなかった、世界の現実」を教えてくれる一冊でした。
ひとりでも多くの人に、ぜひ読んでいただきたい。

アクセスカウンター