読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

琥珀色の戯言

【読書感想】【映画感想】のブログです。2016年8月より、『はてなブログ』に移行しました。

「イニシエーション」の季節

社会 雑記

昨夜、仕事帰りに何気なく車でラジオを聴いていたのです。
その日のテーマは「宴会に関するあれこれ」。
時節柄、歓送迎会が多い季節ですからね。


そのなかで、こんなメールが紹介されていました(ラジオで一度聞いただけなので、ディテールは間違っているかもしれません。でも、概略はこんな感じでした)。

わたしの会社では、新入社員は、歓迎会で、みんな女装をしてカラオケで歌うことになっています。
若い男はまだ良いのですが、転職組には中年のおじさんもいて、なかなかキツイものがあります。
でも、盛り上がるし、新入社員がひとつにまとまる良い機会です。


そのメールを受けて、番組のDJ(女性)が、こうコメントしていました。

女装といえば、私も昔、ホームパーティというか、男女の仲間たちとロッジを借りてスキー旅行に行ったとき、男性の参加者に化粧をして、写真をとったりしてましたね。
けっこう楽しかった記憶があります。
男性もお化粧をすると、動きがおしとやかになってくるんですよね。
女性も、メイクをすると、背筋が伸びますからね。
まあ、新入社員へのイジメとかは、あんまり良いことじゃありませんけど、こういうのはシャレというか、みんなの団結を高めるということで、一緒に恥をかくというのも、悪くはないんじゃないかな、と。
こういうのを「イニシエーション」って言うんですよね。


Wikipediaでは「イニシエーション」を以下のように定義しています。

通過儀礼(つうかぎれい、Initiation、rite of passage)とは、出生、成人、結婚、死などの人間が成長していく過程で、次なる段階の期間に新しい意味を付与する儀礼。人生儀礼ともいう。イニシエーションの訳語としてあてられることが多い。通過儀礼を広義に取り、人生儀礼を下位概念とする分け方もある。 イニシエーションとして古来から行われているものとしては割礼や抜歯、刺青など身体的苦痛を伴うものである事が多い。 こうした事例は文化人類学の研究対象となっている。


いや、聞いていて、腹が立った、とか、そこまでの話じゃないんです。
でも、なんだかそういう話がメールで投稿されてきて、女性DJが自分の体験を嬉々として語っているのを聞いて、僕はなんだかすごくモヤモヤしてしまったのです。
率直に言えば、やっぱり、ちょっと不快ではありました。
僕自身は、そういう「うちの恒例だから」っていう理由で、宴会芸をやらされるのが大嫌いだったから。
その一方で、「そんなことは絶対やらん!」と宣言して空気を乱すほどの確信も勇気もないので、積極的にやりたい人に唯々諾々とついていったり、それができないときには、ありきたりの「マニュアル的宴会芸」をやったりしていました。


この手の「宴会での芸出し」って、職場での「通過儀礼」的な役割を果たしていて、外からみれば「こいつはこの組織のためにバカなことをやってみせるくらい服従している」ということの証明でもあるし、一緒にやった人にとっては、「ともにつらい体験を共有した仲間意識」みたいなものが、確かに生まれてはくるんですよね。
あとで、「あのときはほんとつらかったなあ」なんて、お互いに慰めあったり、後輩に「やってみると、意外に楽しいものだし、いい思い出になるよ」「俺たちだってやったんだから、お前らもやらなきゃ」って説教までしてみたり。
少なからぬ割合の人は、自分の番のとき、やりたくなかったはずなのに。


『課長・島耕作』で、島耕作の上司・中沢部長が、ハツシバの販売店の面々の前で、裸踊りをやってみせる場面があります。
いきなり「兄ちゃん、なんかやれ!」って言われて困惑する島耕作を尻目に、手ぬぐいで頬かむりをしてザルを持ち、満面の笑みで「かっぽれ」をやる中沢さん!
ああ、ジャパニーズ、サラリーマンの鏡! すごいな中沢さん!
でもまあ、ああいう「バカなことができる人」=「カッコいい」というようなイメージって、ありますよね、なんとなく。
「バカになれるか」というのは、男にとっての同性への評価のなかで、かなり大きな割合を占めているように思われます。


でもまあ、あれを読んでいた大学時代から、20年くらいは経っているのではないかと思うのですが、「セクシャルハラスメント」「パワーハラスメント」「アルコールハラスメント」まではだいぶ一般化してきたものの、「芸出しハラスメント(便宜的に、パフォーマンスハラスメント、と名付けます)」が問題になることは、ほとんど無いようです。
そういうのが好きな人たちが、会社組織の上層部にのぼっていっているから問題にならないのか、それとも、大概は新入社員のときに一回やらされて、あとは好きなヤツ以外は強要されないことが多いから、まあ我慢できているのか。
あるいは、ああいう習慣を(後輩にやらせることも含めて)ムダどころか有害だと思っている人間が、僕だけなのか。
そのくらいは、イジメじゃなくてシャレとしてもいいのだろうか。


この「パフォーマンスハラスメント」って、どうなのだろう?
「そこまで言っていては、もっと息苦しくなるだけ」なのかな……
もしかしたら、いわゆる「飲み会」そのものが減っているので、「パフハラ」が行われる機会も、必然的に減っているのでしょうか。


僕の場合は、立食パーティで、「それでは、皆様ご歓談ください」という状況も苦手なので、「宴会が嫌い」なだけなのかもしれません。
そういう意味では「芸出し」って、自由な歓談タイムが苦手な人たちが黙っていても時間を潰せる救済措置という面もあるのかな。


「これも仕事だ。というか、そのくらいのイヤなことも我慢できないようじゃ、仕事なんて勤まるわけがない」
うーん、仕事とは関係ないと思うんだけどねえ……
「酒も仕事のうち」っていう偉い人も、だいぶ減ってきたし……