琥珀色の戯言

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研修医を潰すための5つの方法

参考リンク:研修医の潰しかたを考えよう(レジデント初期研修用資料)

↑のエントリを読んで、僕もあれこれ考えていたのですが、「自分自身が傷つかない方法で研修医を潰す」というのは、けっこう難しいですね。

 そんななかで、即座に潰す、というのではなくても、「ダメな医者にする」とか「ドロップアウトさせる」ための方法を、いくつか考えてみました。

(1) 無視する、放置する
(2) いきなり全責任を負わせる
(3) 孤立させる
(4) ひたすら責めつづけ、否定しつづける
(5) 疲労を蓄積させ、体力的な限界に至らせる


 ざっと思い浮かぶのは、このくらいでしょうか。
 もちろんこれらは、どれかひとつだけではなく、合わせ技で使います。
(1)は、右も左もわからないところで、放置されると、とにかく不安になるはずです。そこで、
(2)「お前はもう医者なんだから、全部お前の責任だ。俺の指示をいちいち仰ぐな!」と一喝すれば、過大なストレスに耐えきれず、ドロップアウトする可能性は高いはず。


(3)は、このエントリでの「部長」の手法です。だいたい、同世代の研修医というのは、きつい病院であればあるほど、密接に結びついていくようになります。自分もきついけど、みんなきつい、そしてこの病院で鍛えられて、みんなで立派な医者になろう!実は、多少きつい環境でも「同じような境遇の仲間がいて、良い関係が築ければ、人間、なんとか耐えられるものです。若くて未来に希望を持っていればなおさら。もう中堅になってしまった僕には「よくこんなキツイ環境で研修やっていられるなあ、もっとラクでお金もらえる研修病院もあるのに」と思うようなところでも、意外とみんな頑張れてしまう。まあ、それが良いことなのかどうかわからないのですが、傍からみていると、みんなけっこう「良い医者」になっているようにも見えます。もちろん、もとから腕に憶えがあるような人しか、そういう病院での研修を選択しないというバイアスもあるんですが。


(4)これはやられるとつらいですね。僕の研修医時代にも、こういう指導医がひとりいました。ただし、大きな研修病院だと、指導医は数か月単位で変わっていくので、たいがいの研修医は、なんとかやり過ごすことができるのです。そして、研修病院っていうのは、それなりの数の医者がいますから、あまりにも指導医が厳しすぎる場合には、さりげなく研修医をサポートしてくれたりもします。


(5)なんのかんの言っても、これはけっこう堪えるみたいです。研修医というのは、これまで学生でしたから、「休日に問答無用で病院に行かなければならないような生活」は、すごくストレスです。しかも、病院によっては、体力も睡眠時間も削られ、身体が耐えられなくなってしまう。どんな優秀な頭脳も、身体があればこそ、です。女性の場合、とくに、体力的な面で「ついていけなくなる」ことがあるようです。スタッフからすれば、「女の子だから夜中は呼び出さない」ってわけにもいかず、なかなか難しいところ。医者になるには知識が必要だが、医者をやっていくには、まず体力。僕はこれに気づくのが遅かった。


 さて、「研修医を潰すための5つの戦略」について御紹介しましたが、僕もこれまで15年くらい、いろんな研修医をみてきて、自分自身でも研修医や指導医をやってきました。
 でも、完全にドロップアウトしてしまった研修医というのは、そんなに大勢はいません。
 こいつはできるなあ!と思うような人もいれば、「この先、だいじょうぶかな?」という人もいる。僕自身も「ダメ研修医」でしたし。
 にもかかわらず、もともと精神的な問題を抱えていたり、年齢的・体力的なハンディキャップを持っている人を除くと、「環境からのプレッシャーだけで、ドロップアウトさせられてしまった人」というのは、あまり記憶にありません。
 けっこう、それなりになんとかなってしまうものでもあるのです。


 その一方で、「すばらしい医者をつくるには、どうすればいいか?」と言われると、それもまた悩ましい。
 ここでは、「5つの邪悪な戦略」を考えてみたのですが、実は、これとは真逆のことをやればいいのかというと、そうでもないのです。
(1)なら「過保護にしすぎる」、(2)なら「仕事に責任を持たせない」、(3)まったくひとりにさせない、(4)やることなすこと全部肯定、(5)肉体的にハードな状況を経験させない
……これを徹底すると、「すぐにドロップアウト」ということはないかもしれませんが、おそらく、医者として(というよりも人間として)大きな問題を抱えることになるはずです。
何ごとも「適度であること」が重要なのだけれど、その匙加減というのがまた難しい。そもそも研修医ひとりひとりの適性も異なります。
 負荷を強めにかけたほうが成長する人もいるし、ある程度の負荷には耐えられても、突然ポキリと折れてしまう人もいる。


 僕は以前、医学教育の専門家から、こんな話を聞きました。

 ハーバード大学で医学教育に従事しているスタッフに「良い医者になるには、どんな資質が必要だと思いますか?」と尋ねたら「うーん、僕にも正直、『これ!』という絶対的な資質というのは、よくわからないんだよ。でも、ひとつだけ言えることがある。良い医者になる連中は、みんな“Nice People”なんだ。これは、まちがいないよ」という答えが返ってきたそうです。

“Nice People“という、ありふれた褒め言葉。
 日本語で言えば「いいやつ」というところでしょうか。
 でも、簡単なようでいて、「どうしたら『いいやつ』になれるのか?」って、けっこう難しい。
 これって、子育てにも通じることだよなあ、とあらためて考えさせられました。