琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

動員の革命 ☆☆☆☆


あなたは、この革命を体感しているか? ソーシャルメディアはかつてない「動員」の力を発揮している。「アラブの春」、震災復興からビジネス、報道の世界まで、インターネットの枠を越えて現実社会を動かすエンジンとなっている。ソーシャルメディアでジャーナリズムの可能性を模索してきた著者が「情報」の未来を語る。恐れず理解し、使いこなせ!


 この新書のなかで、著者は、ソーシャルメディア時代の大きな変化を、こんなふうに総括しておられます。

 ソーシャルメディア革命とは、「動員」の革命なのです。


 とにかく人を集めるのに長けたツールです。人を集めて行動させる。まさにデモに代表されるように、人が集まることで圧力となり、社会が変わります。そのソーシャルメディアの革命性が最大限発揮されたのが、「アラブの春」でした。
 もちろん、イスラム世界などでも激しい命のやりとりを伴う大きな事件の話だけではありません。日本やアメリカ、比較的平和な先進国でも、同じように人の感情に訴えかけて背中を押すという機能が有効に働いています。
 もっと細かい話、例えば、最近のイベントでは「ツィッターやフェイスブックで、たまたま知ったから来ました」という参加者が増えています。人が行動するきっかけになっています。アーティストの中にも、ツィッター、フェイスブック上でファンと交流した結果、「ライブのお客さんが増えた」と言う人もいます。それも含めて「動員の革命」なのです。

 ソーシャルメディアを利用することにより、たしかに「(集客力のある人は、さらに)人を集めやすくなった」のは事実でしょう。
 イベントを行うのにかかる費用や期間、そして、そのイベントに参加することに対する心理的な壁も低くなりました。
 この新書の「はじめに」で、著者が田原総一郎さんらと福島で行ったイベントについて書かれていたのですが、現地での観客は、10人足らず(って、現地はけっこう閑散としていたのではないかと思われます)でも、動画サイトでは1200人以上がリアルタイムで観ていて、のべ視聴者数は9000人にものぼったそうです。

 また、積極的にブログで「被害情報」を発信している長野県栄村が、もっと被害の大きな町よりも多くの寄付を集めている、という事例を紹介されています。


 ソーシャルメディアによって、人々が社会的な「運動」に参加する敷居は、かなり低くなっているのは間違いないでしょう。
 これまでは、「マスコミに見つけてもらって、伝えてもらうしか方法がなかった」のに、自分でソーシャルメディアを利用して世界に伝えるための道ができたのです。
 ただし、それは「外界に自らアピールする技術や熱意がない者は、淘汰されてしまう、より激しい競争の時代のはじまり」でもあるのです。


 「成功例」ばかりがもてはやされているけれど、現実には「誰も観ない動画配信」がゴマンとあります。
 ネット上のブログやtwitterのアカウントの多くが「閑古鳥状態」であるのと同じように。


 そして、「社会運動と自分との障壁が低くなったことには、「ちょっとした善意」が、反映されやすいというメリットとともに、悪意も伝わりやすくなるというデメリットもあります。
 「動員する側」にとっては、良い時代になっている一方で、「動員される側」にとっては、軽い気持ちで、大きな運動に巻き込まれてしまう可能性もあります。
「そんなはずじゃなかったのに」「軽い気持ちで書いただけなのに」
 ソーシャルメディアの時代では、そんな言い訳が認めてもらえる可能性は通用しません。


 薬害エイズ事件で国の不正を告発した若者たちの一部は、「社会運動」に目覚め、いわゆる「プロ市民」となっていきました。
 『ゴーマニズム宣言』で彼らを思想的に「指導」した小林よしのりさんが、後に、そんな若者たちに対して、「日常に帰れ」と言って嘆いていたのが忘れられません。


 僕の場合、どうしても、「動員される側」として、この新書を読んでしまうのです。
 ソーシャルメディアの「手軽さ」は、大きな武器だけれど、リスクにもなりえます。


 あと、どうしても、いまの時点では、ソーシャルメディアで動員される人は、「若者やヘビーネットユーザー中心」になりがちではあるんですよね。
 これからは、40〜50歳代、そして、定年でリタイアした団塊世代ソーシャルメディアとの関わりが重要になってくるのではないかと、僕は考えています。

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