琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

宇宙兄弟 ☆☆☆☆



あらすじ: 子ども時代に、宇宙飛行士になることを誓い合った兄弟ムッタとヒビト。時は過ぎて2025年、弟ヒビト(岡田将生)が夢をかなえて宇宙飛行士となった一方、兄ムッタ(小栗旬)は会社を解雇され意気消沈していた。互いに違った道を進んでいた兄弟だったが、弟からの連絡をきっかけに兄はかつての夢を実現させるべく再び宇宙飛行士という目標に向かって進み始める。

参考リンク:映画『宇宙兄弟』公式サイト


2012年17本目の劇場鑑賞作品。
水曜日のレイトショーで、観客は10人くらいでした。


実は、僕は原作漫画を2巻までしか読んだことがないのです。
よって、原作との比較はできないのですが、まあなんというか、観ていて、いろいろ言いたいところはあったんですよね。
「コンセプトカーの設計」だって、立派な仕事じゃないか、とか、こんなに大人になるまでベタベタしている兄弟、いないだろ、とか、兄弟が一緒に宇宙飛行士として同じ船にのるというのは、あの仕事のリスクを考えると、現実にはまずありえないだろうな、とか。


でも、不思議なものですね。
テーマが「宇宙」となると、このくらい「ありえない夢」でもいいのかな、という気もしてくるのです。
人間が宇宙に行くというのは、そんなに簡単なことではないのだから、せめて、映画の中でくらいは、こんな夢をみてもいいんじゃないか。
そして、多くの人が、宇宙に興味を持ってくれるといいなあ、って。


僕は高校時代に立花隆さんの『宇宙からの帰還』を読んで以来、宇宙というより、宇宙飛行士という人々に興味を抱いてきました。
彼らはまちがいなく「世界最高のエリート」なのです。
彼らに求められているのがどんな能力なのか、彼らは、どんなトレーニングを積み、どういう考え方をしているのか……

この映画のなかでも、「宇宙飛行士選抜試験」のシーンが出てきます。
個人的には、もっとこの試験のシーンを掘り下げて描いてほしかったのですが、興味のある方は、↓を読んでいただければと思います。


参考リンク(2):読書感想『ドキュメント宇宙飛行士選抜試験』(琥珀色の戯言)

ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験 (光文社新書)

ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験 (光文社新書)


宇宙飛行士というのは、「頭がいい」とか「体力がある」だけではなくて、「人とうまくやっていける能力」がすごく大事なんですよね。


あと、僕はこの映画を観ながら、スペースシャトル・チャレンジャーの事故で亡くなった宇宙飛行士たちのことを思い出さずにはいられませんでした。
そんな「人類最高のエリート」であるはずの飛行士たちが、長年目指してきた宇宙を目前にして、散ってしまったあの事故。
どんなすごい人でも、スペースシャトルのシートに座ってしまえば、ある程度は自分の運命を他人に任せるしかないのです。
それでも、彼らは宇宙を目指した。
そして、「彼らの死を乗り越えて」多くの飛行士たちが、宇宙に飛び立ちました。


たぶん、宇宙に行くのは、ものすごく楽しみで、ものすごく怖いはずです。
宇宙飛行士になってしまえば、さまざまなプレッシャーとつきあっていかなくてはなりません。
日本人初の「母親宇宙飛行士」となった山崎直子さんが宇宙飛行士に選ばれたのが1999年で、宇宙に行くことができたのは、2010年。
10年という長い時間がかかったのには、スペースシャトルの事故の影響などもあり、山崎さんに限ったことではありませんでした。
山崎さんは、宇宙に行くまでを振り返って「宇宙に行くのは怖くないですか?と聞かれますが、このまま宇宙に行けないことのほうが怖かった」と述懐されています。
厳しい訓練を受けながらの10年、か……


そういう「宇宙へ行くことの厳しさ」も断片的には触れられているのですが、この映画の大部分は、「宇宙ってすばらしい!」「夢を追う人生って素敵!」というメッセージにあふれています。
それが「非現実的」だと言ってしまうのは簡単だけれど、こんな時代だからこそ、そういう「フィクション」が必要なのかもしれないな、と思いながら観ていました。
たしかに、いまの世の中では、本気で宇宙に行きたいなんて思っている人間のほうが、現実をみていない「異端」なんですよね……


最後のほうは、あまりに駆け足で、「あれだけの長さの原作をこの時間にまとめるのはキツかったのだろうなあ」なんて考えずにはいられなかったのですが、宇宙の映像、NASAでのロケ(本物の「英雄」も出演しています。驚きました)も見ごたえがある、よくできた映画だと思います。


……正直、「夢をあきらめかけた大人」には、ちょっと感動したあと、ドドーンと自己嫌悪が押し寄せてくる映画でもあったのですけど……

アクセスカウンター