琥珀色の戯言

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ハーバード白熱日本史教室 ☆☆☆☆


ハーバード白熱日本史教室 (新潮新書)

ハーバード白熱日本史教室 (新潮新書)

内容(「BOOK」データベースより)
少壮の日本人女性研究者が、ハーバード大学で日本史を大人気講座に変貌させた。歴史の授業に映画作りや「タイムトラベル」などの斬新な手法を導入。著者の熱に感化され、学生たちはいつしか「レディ・サムライ」の世界にのめり込んでいく―。「日本史は書き換えられなければならない」という強い使命感のもと東部の有名大学に乗り込み、「思い出に残る教授」賞にも選ばれた著者が記す「若き歴史学者のアメリカ」。

若くて綺麗な女性で、元々はカナダの大学で数学を勉強していたのに、ちょっとしたきっかけと努力で、ハーバードの日本史の人気講師に!
ああ、なんか僕としてはコンプレックスのツボを押されるというより、ツボが破れて突き抜けてしまい、痛みすら感じなくなってしまうような人の本だなあ、なんて思いながら読みました。
率直に言うと、著者の北川さんに関しては、勉強がものすごくできて、スポーツも得意、ピアノも大学でミニコンサートをやるくらい上手なんて、凄すぎるよなあ、世の中には才能の神様に愛された人って、いるんだよなあ、なんてやさぐれた気持ちを抱かずにはいられなかったんですよ。
能力が高いだけじゃなくて、自分の「若さ」とか「美しさ」「女性であること」をうまく利用する術を心得ているし、学生たちに対してのサービス精神も忘れない。
「Lady Samurai」っていう、Samuraiだけで語られてしまう、日本史を逆転される発想も、(アメリカという国で教えることを考えると)お見事!

 今からお話する「Lady Samurai」では、武士道を批判するのではなく、まずは武士道の陰に隠れてきた武士階級の女性の生き方にスポットライトを当ててみます。その上で、彼女たちの生き方と死の意味を考えます。最終的には、フェミニストのように男女同権的な立場をとるのではなく、どのようにサムライとLady Samuraiが日本の歴史をつくっていったのか、サムライで完結した日本史を超える日本史概論、専門用語でいうと「大きな物語(grand narrative)」を描き出すことが目的です。

たぶん、日本で同じような研究をしている人もたくさんいると思うのですが、それをハーバード大学を舞台にして講義するというのが、まさに「ビジネスセンス」なのだと思います。


この新書を読んでいると、北川さんは「歴史が好きで好きでたまらない」という人ではないような気がするんですよ。
他人に影響を与えられるような人間になりたい、という前提があって、彼女に与えられた最良の「武器」が、日本史、あるいは「京都」だったというだけで。
日本史が好きで、その道をずっと目指して研究している人間からは、「なんであんな人が……」と嫌われているかもしれません。


しかしながら、北川さんは「アメリカで日本史、あるいは京都についての講義を担当する」という意味を、ちゃんと「察している」のですよね。

 現在、インターネットで日本の様子をリアルタイムで見たり、ちょっとした海外旅行先として日本を選ぶことは容易になりました。そんな時代に、自分で読めば分かる教科書をわざわざ読み上げて外国の歴史を教えることは、本当に時代遅れだと思います。大学生が自分で歴史を体感しながら学ぶ「KYOTO」クラスのようなやり方は、一つの立派な歴史叙述の方法ではないでしょうか。

歴史学者たちの「正しい歴史認識」を刷り込むのではなく、「当時者として、歴史に参加していることに、興味を持ってもらう」。
それが、北川さんの講義のスタイルです。
極端な話、日本の歴史の知識はすぐに忘れてしまっても、「自分の講義に参加することによって、物事を考える姿勢や、独創性が育てばいい」と割り切っているのではないかと、僕には感じられました。
「学者」としては、いかがなものか、という面はありますが、「教育者」としては素晴らしいし、僕もこういう講義を受けてみたかったなあ、と思います。


「人気のある講義をするコツ」の話も、かなり実践的で、「講義をする機会がある人」は、読んでみて損はないはずです。

 ハーバード大学の1クラスは、週に60分の授業を3回にわけるスタイルと、週に90分の授業を2回にわけるスタイルの講義があります。私の場合は90分2回の方なので、私1人がしゃべりまくったり、100枚のスライドを見せたりしたら、居眠りする者や途中退場者が続出となってしまいます。途中退場なんて! と、驚かれるかもしれませんが、おもしろくない時は学生は勝手に出ていきます。正直すぎです。
 そこで、学生が飽きる前に、いろいろな音を繰り出すのです。それは効果音の時もありますし、流行りのポップスの時もあります。たとえば、元寇の話をしなくてはならなくなった時には、モンゴルの民謡をバックグラウンドで流し、いつもと違った雰囲気を演出します。そして元寇を語る際には「神風」、つまり台風のネタに触れることになりますから、暴風の音を出してみたりします。結婚の話題の時にはウェディング・ソングを流してみたりと、授業の内容に関連する音を選んで雰囲気を変えます。
 音には誰もが敏感で、こうした授業の進め方はとても新鮮らしく、学生には好評です。また、その時に私が言うことを、音とともに自然に覚えてしまうといった意見も聞かれます。特に、それが彼らに馴染みのある音楽だったりすると、記憶は無理なくしっかりと定着するようです。このように、視覚だけでなく聴覚を使わせるよう毎回工夫しています。

最近はパワーポイントを使ってのスライド講義はみんなやっていますけど、「音」の利用とか、「学生たちにラジオ番組や映画をつくらせ、能動的に参加させる」なんていう「さらにメディアを駆使した講義」は、日本でも参考になるはずです。
うーん、でも、僕だったら、「そんな大変そうな講義より、出席したら単位をくれる楽勝なやつ」を選択するかも……


僕がいちばん印象に残ったのは、北川さんが、ハーバード大学のティーチング・アワード(学生に高く評価された講師に与えられる賞)を受賞したときに、その「成功の秘密」を問われたときの話でした。
北川さんは、考えたすえ、結局、3つの「秘密」をひねりだしたそうです。

 この「秘密」を考えるにあたって、個人的な秘密の前に、まずは大きなクラスを成功させる大前提があることに気がつきました。その大前提とは、ごくシンプルです。「準備がすべて」ということです。
 誰かに物事を教える仕事をうまくこなす秘訣の99パーセントは、準備段階にあると思うのです。準備に力を入れずに、出たとこ勝負ではすぐに限界がきます。ですから、準備を念入りにすることこそがキュー(学生からの評価)攻略の大きな鍵だと思います。つまり、個人的な秘密の前に、共通して「準備が重要」ということが大前提です。

 これって、すごく大事なことなんですよね。
 スティーブ・ジョブズのプレゼンテーションは有名ですが、彼は、大事なプレゼンの前には、ものすごく時間をかけてリハーサルを行っていたそうです。
 本番になって、特別なことをやったり、演者のキャラクターに頼ったりするようなやりかたは「すぐに限界がきます」。

 
「教える側」の人には、たくさんのヒントが詰まっている本だと思いますよ。

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