琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

職業としてのAV女優 ☆☆☆☆☆


職業としてのAV女優 (幻冬舎新書)

職業としてのAV女優 (幻冬舎新書)

内容紹介
日当3万円! 倍率25倍! 年齢不問! ! スキルがなくてもカラダがある! ?


業界の低迷で、100万円も珍しくなかった最盛期の日当は、現在は3万円以下というケースもあるAV女優の仕事。それでも自ら志願する女性は増える一方だ。かつては、「早く足を洗いたい」女性が大半だったが、現在は「長く続けたい」とみな願っている。収入よりも、誰かに必要とされ、褒められることが生きがいになっているからだ。カラダを売る仕事は、なぜ普通の女性が選択する普通の仕事になったのか? 長年、女優へのインタビューを続ける著者が収入、労働環境、意識の変化をレポート。求人誌に載らない職業案内。


この新書を読んで、「AV女優って、そこまで『狭き門』になっていたのか……」と、ちょっと驚きました。
たしかに、ひとむかし、ふたむかし前に比べると、綺麗な子、可愛い子が多いものなあ。

この本によると、AV女優は、「単体」「企画単体」「企画」の3つのランクに分けられているそうです。
このランクによって、もらえるお金は全然違います。

・単体   100万〜250万円(1本あたりの出演料、芸能人、元芸能人を除く)
・企画単体 30万円〜80万円(一日あたりの日当)
・企画   15〜25万円(一日あたりの日当)

この金額をみて、「単体」が圧倒的に稼げるかというとそうでもなく、「アイドル候補」として大々的に売り出される「単体女優」は、メーカーとの専属契約で仕事の総量が制限されるのに比べて、名前は出るものの何らかの「企画モノ」にキャスティングされる形の「企画単体」は、専属契約がないためにどのメーカーの作品にも自由に出演できるため、「単体」よりも稼げたり、有名になったりすることもあるそうです。売れっ子になると、毎日のように撮影して、月20本以上も出演作がリリースされることもあるのだとか。
「仕事量」としては、それはそれで大変そうではありますけど。
「企画」は、「女優の名前が出ないような『その他大勢」的な役割ですが、自ら応募して採用された人の80〜90%はこのカテゴリーに属することになり、「事務所には所属しているものの、まったく仕事がない女優」もかなりいるそうです。
そして、「単体」からスタートしても、人気によって「企画単体」、そして「企画」とランクダウンしていくことも多いのだとか。
この「AV女優の格付けと仕事の内容、収入」の解説は、この新書のなかでも、「本当にAV女優になってみようと考えている人」にとっては役立つ情報だと思います。
「人前で脱いでセックスする覚悟さえあれば、高収入が得られる」という時代ではないのです。


ひとむかし前は、「借金」とか「事務所に騙され、半ば強引に」なんて例が少なくなかったそうなのですが、今の「供給源」は、「応募」か「スカウト」。
自分からAVに出たがる女性が増えていて、「合格率」はかなり下がってきているようです。
ネットの普及のため、アダルトDVDや雑誌というメディアの売り上げは下がってきており、著者によると、これらのメディアの利用者は、「ネットをうまく使いこなせない中年以上の男性」と高齢化しているそうです。
だからこそ、「熟女もの」は今後期待できるジャンルなのだ、とも。



「好きこのんでカラダを売るなんて……」と僕は考えてしまうのですが、この本のなかでは、「都会暮らしの若い女性の金銭的な行き詰まり」も紹介されています。

 現在は特別な能力がある者以外はワーキングプアという時代であり、一般的な時給や給料では東京で満足な一人暮らしはできない。大多数の若い女性たちは特別な能力などなく、持っているのは若い肉体だけ。もうちょっと余裕ある生活がしたいのでキャバクラや風俗やAV女優に走る、という選択が地方出身女性たちの中では普通になされている。地方出身の女性にとっては生活が苦しいというのは死活問題で、カラダを売ることを決意させるのが、決して遊ぶお金やブランド物が欲しいからという欲の問題ではなく、生きるため生活のため。AV女優は清楚だったり清純だったり、色に染まっていない真っ白なタイプを採用する傾向があり、地方出身の一般女性とマッチする。ごく普通に育った地方女性が続々とAV女優になっている裏側には、そういう切実な事情がある。

借金漬けで強要される、というような話ではなくて、「東京では仕事があっても給料が安く、生活するだけでギリギリのワーキングプア状態」。
資格があるわけでもなく、「他人に注目される人生」に憧れていれば、「AVに出る」というのは、そんなに意外な選択肢ではないのでしょう。
というか、そういうワーキングプア状態で、もう少し稼ぎたいと思えば、一発逆転のためにできることって、そんなに多くはないんですよね。


でも、それなら、風俗とかのほうが、まだマシなんじゃない? AVって、不特定多数の人に見られるから、身元バレしたら、「元AV女優の○○さん」って、ずっと言われ続けることになるだろうし……


ところが、女性の立場からすれば、必ずしもそうではないんですね。
「誰を相手にさせられるかわからない」し、「献身的な接客を求められる」「人間関係がめんどくさい」という風俗や水商売に比べて、AVにはメリットもたくさんあるのです。


お金はそんなに稼げなくても、有名になれるというのもあるし、相手は熟練の男優さんがほとんど。基本的にコンドームをつけてのセックスで、たくさんのスタッフで、(最近は)クリーンに「管理」されている。
むしろ、「AVのほうが、リスクが少ない」面も多々あるのです。
著者によると、ごく一部の単体有名女優以外は、そんなにバレるものでもないみたいですし。


先日、NHKのドキュメンタリーで、「母親との関係がうまくいかないAV女優の話」(『裸になれない心』というタイトルです)を観たのですが、その女優さんは、芸能プロダクションに所属していて、半ば強引にAVに出演させられた、と話していました。
精神的にも不安定な様子がうかがえ、「やっぱり、AVに出るような女性は、いろいろと『不幸な背景』があるのかなあ」なんて考えずにはいられなかったのですけど、少なくとも最近のAV業界は、「ごく普通の女性が、ちょっと勇気を出して出演するくらいの感じ」みたいです。
もちろんAV出演後に、さまざまな問題を抱えている女性はいるのですが、著者は「彼女たちは、AVに出演したからそうなったわけではなく、もともとそういう性向を持っていたのだ」と述べています。

 過去、AV女優に病んでいる女性があまりに多かったことから、たまに「過酷な性搾取をするAV女優という職業が女性を壊している」といったニュアンスの論調を聞くことがあるが、それは大きな間違いである。
 病んでいる女性が症状を抱えることになった理由は、AV女優として性を売っているからではなく、機能不全家庭で育ったことやイジメ、過保護など幼少時や思春期の経験が原因である。
 人格障害など深刻な症状を抱えている女性の多くは、親が似たような症状を持つ遺伝だったり性的虐待を受けている。桜一菜も機能不全家庭で育ち、AV女優になる前から自殺未遂を繰り返すような状態であった。
 AV女優に漂着するまでに負のスパイラルが起こっている彼女たちの人生は、壮絶ですらあるが、傷を負った女性はAV女優になる以前の10代半ばから発症して社会的な活動ができなくなり、多くは自傷の延長として性的逸脱を繰り返している。
 規則正しい生活を送ることができず、身近に信用できる家族や友人を持たない孤独な女性が、勤務日時が自由で高額な風俗や売春を仕事に選ぶのは必然的な流れで、AV女優という選択はその延長にある。要するに不健康な女性は、AV女優になる以前から不健康なのである。逆に承認欲求を満たしてくれて、成功体験を得られるAV女優という仕事は、彼女たちを蝕むどころか、精神的安定を与えているケースの方が多いのだ。

名前のない女たち』シリーズで、たくさんのAV女優たちを取材してきた著者の言葉ですから、重みがあります。


いまの時代では、AV出演というのは、「その人にとってプラスにもなるキャリアの一部」でさえあるのです。
著者は、人気女優だった小室友里さんにインタビューされていますが、小室さんは人気絶頂で稼いでいた時期も「環境が変わっても意図的に自分自身を変えないようにしていた」そうです。
プロ野球などのスポーツ選手にも、引退後人生を狂わせる人がいるのですが、結局のところ、それは「職業の責任」というよりは、「本人の気の持ちよう」なのでしょうね。
それがいちばん難しいこと、なのかもしれませんが。


とはいえ、この新書のなかでは、女優の変死とか、ハードな撮影中の行き過ぎ行為で女優を傷つけてしまった例なども紹介されており、「100%安全」というわけではありません。
ずっと同じでは飽きられるし、過激になればなるほど、リスクは上がる。
そもそも、AV女優というのは、どうしても、「出演作が増えれば増えるほど、新鮮さは薄れる」面があります。


そう何年も続けられるようなものではないし、ごく一部の「超人気女優」にならなければ、そんなに稼げるものでもない。
超人気女優になればなったで、その後の人生の選択肢が狭められたり、普通の人生に戻りづらくなったりもする。


この本を読むと、「東京で暮らしている、とくに資格もない若い女性が、なんとかしてもう少し金銭的な余裕が欲しいとき」に、AVや風俗の仕事って、すごく魅力的というか、現実的なんだろうなあ、と考えてしまいます。
しかし、そういう仕事が「最後のセーフティネット」だった女性たちは、「普通の女の子」が参入してくることによって、「詰んでしまった」のではないか、とも思うんですよね。


著者は、この新書をこう結んでいます。

 本書はAV女優でもしようかな? と思っている女性や、娘を持つ親たちに読んでほしい。たとえアルバイト気分でも、職業は現実を知ってから選ぶべきである。

「AV女優の話」ということで、僕も好奇心を抑えきれずに読んだひとりなのですが、読み終えて、「これは、AVに限定された話ではなくて、『普通の人』が、いまの時代を生きていくための仕事選び」について語られた本なのだということがわかりました。
いま、オススメの新書です。

アクセスカウンター