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琥珀色の戯言

【読書感想】【映画感想】のブログです。2016年8月より、『はてなブログ』に移行しました。

広島カープ・野村監督と堂林翔太選手の「二つの約束」

 7月21日の土曜日、ラジオで松山坊ちゃんスタジアムでのプロ野球オールスター第2戦の中継を聴いていました。
 この試合でトップバッターに抜擢されたカープの堂林選手の打席で、ベンチリポートのアナウンサーが、「今シーズンが始まる前に交わした、野村監督と堂林選手の2つの約束」の話をしていました。
 ひとつめは、つねに全力でプレーすること。
 ふたつめは、どんなときでも弱みを見せないこと。


 堂林は、まだ20歳、プロ入り三年目の選手です。
 高校時代は主にピッチャーで、プロ入りしてから、内野手(サード)にコンバートされました。
 昨年までは、一軍出場なし。
 今シーズン、野村監督に抜擢され、カープのサードを守っています。
 堂林選手は、高校時代、中京大中京のエースとして甲子園で優勝したという華々しい実績があり、野球センスも素晴らしいものを持っていました。
 カープファンは、彼を「プリンス」と呼び、将来に期待していたのです。


 でも、これまでまったく一軍経験のない選手、しかも二軍でも目覚ましい活躍をしていたというわけではないのに、いきなり開幕サードに起用されたことに、僕は「贔屓じゃないの、これ? バーデン(カープの外国人野手。長打はないが、選球眼がよく、守備も堅実)か小窪かキムショー(木村昇吾)あたりのほうが、良い成績を残すだろうに。ペナントレースで最初から「育成」するなよ……」と感じたのです。
 しかしながら、堂林は予想以上に頑張って試合に出続け、結果も残しています。
 シーズン半ばをすぎて、「飛ばないボール」下で、10本近いホームランを放ち、打率も2割5分をこえているのです。
 堂林をみていると、「ああ、世の中には、環境に順応して、どんどん自分のレベルを上げていけるタイプの人がいるのだなあ」と痛感させられます。
 「二軍では豪打爆発だけど、一軍に上がるとサッパリ駄目」は、大勢いるんですけどね、とくにカープには。

 
 ただ、カープファンはみんな御存知でしょうが、堂林のサードの守備は、まだ「未熟」というか「プロのレギュラーレベルには、ほど遠い」ものです。
 先日、巨人戦のリードした場面で、堂林が連続エラーをして負けてしまったことがあったのですが、そのとき、ネットの応援掲示板では「あんなミスをしても泣いたり悔しがっている様子を見せない堂林には反省の色がない!』と批判する声が噴出しました。
 「(先発の)大竹がかわいそう」
 「あんなにエラーばかりしていては、少々打ってもマイナス面のほうが大きい」
 「致命的なエラーをしたのに、泣きもせず、悔しがっている様子もない」


 僕もあの試合の堂林のエラーには、かなり腹が立ちました。
 ルーキーの菊池のエラーなどもあり、あの回、大竹は5アウトくらいはとったのではないかと思います。
 それでも、一度はカープが堂林自身の犠牲フライなどもあって追いついたんですけどね。
 あれだけミスが出て、打ち合いになっては、いまの強い巨人に勝つのはなかなか難しい。


 僕は堂林があの日、ベンチで「泣いたり悔しがったりして見せなかったこと」に驚いたのと同時に、20歳にしてこの若者が持っている「覚悟」も感じました。
 大人であれば、「自分が失敗したときに酷く落ち込んでみせても、周囲が取り扱いに困ってしまうだけで、かえって迷惑をかけることにしかならない」のを知っている人は少なくないはず。


 わかっていて、我慢しようと思っても、泣いたり落ち込んだりしてしまうことだってあるでしょう。
 今シーズンの交流戦で、先発・大竹投手の勝ちを消してしまった今村投手が、ベンチでこらえきれずに涙を流していたのを、「勝ち投手になれるはずだった」大竹が声をかけて慰めている光景がありました。
 大竹は、カープの抑えをやっていたこともあり(当時はけっこう打たれていたんですけど)、今村の悔しさがわかっていたのでしょう。
 肩痛、そして不運な手の骨折でほぼ2シーズンを棒に振った大竹にとっては、「ひとつ勝つこと」は重かったはず。
 それでも、大竹は、先輩として、チームメイトとして、今村を責めなかった。
 結果的には、あの今村の涙と大竹の優しさをきっかけに、今シーズンのカープは甦ったような気がします。


 「感情を出す」あるいは「感情が出てしまう」ことが、流れを変える場合だってあるんですよね。
 でも、堂林は、それを捨てて、強くなろうとしています。
 まだ若いし、サードにコンバートされて、3年も経っていません。
「ヘタクソなのは、当たり前」なのです。
 泣いても、当たり散らしても、みんな「しょうがないな」と許してくれるのではないかな。

 
 にもかかわらず堂林は、感情を表に出すまいと耐えて、汚名返上を誓っていました。
 なんてすごい20歳なんだろう、そして、どんなに高いハードルを、自分に課しつづけているんだろう。


 僕自身は、つい、「落ち込んでいることをアピールしてしまう」人間なのです。
 大学時代の部活では、成績が残せなかったときに(というか、成績を残せたことがないかもしれないくらいだったのですが)、落ち込んでしまって、先輩たちに迷惑をかけまくりました。
 「そういうのは仲間に負担をかけるだけなのだ。誰にとってもプラスにならないのだ」とわかったのは、自分が「先輩」の立場になってからだったんですよね。
 下級生のときは、「悔しがるべき状況では、『悔しいです!』っていうパフォーマンスをやらないと、反省していないと思われるのではないか」と考えていたのです。


 泣けば、人ってけっこうアンタッチャブルな存在になってしまう。
 自分でも、「悔しさ」を露にして、なんとなくスッキリしてしまう。


 だからこそ、安易に泣いたり、悔しがったりしてはいけないのです。
 悔しがってみせるのは、誰にでもできる。
 でも、そこでじっと耐えて、周りに気を遣わせないようにできるのが、大人であり、チームの一員なのです。

 
 堂林は、まだまだ伸びていく選手だと思うし、本当に強いというか、強くあろうとし続けている人間なのだと思います。
 もちろん、「弱み」を見せてしまうことだって、あるかもしれません。


 もうすぐロンドンオリンピックが始まります。
 好成績で笑顔をみせる選手がいれば、実力を発揮できなかった選手も出てくるでしょう。
 僕は、競技を終えた選手をみるとき、いつも自分に言い聞かせています。


「うまくやれなくて、悔しくない人間なんていない。そして、成績が悪くても平然としている人のほうが、本当は悔しさを噛みしめているのかもしれない」


 堂林は、とにかくエラーが多くて、カープファンとしては、ヤキモキするというか、正直、苛立ったりもするのですけど、チームメイトには、堂林を責める者はひとりもいないそうです。
 ある意味、監督から「贔屓」されて使われているのに。


 ある選手が、その理由を、こんなふうに語ったそうです(すみません、ネットで読んだ話なので、ソースはないです)。

 俺たちは、アイツが他の誰よりも練習しているのをずっと見ているんだ。
 だから、誰もアイツを責めないよ。