都市と消費とディズニーの夢 ショッピングモーライゼーションの時代 (oneテーマ21)
- 作者: 速水健朗
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2012/08/10
- メディア: 新書
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内容紹介
ウォルト・ディズニーが最後に見た夢は「都市計画」だった! ?消費社会の進展により、もはや「ショッピングモール化」とさえ言える変貌を遂げた都市。消費のあり方が都市の姿を変える。現在に至る変遷と未来の姿。
著者は、「まえがき」でこう述べています。
現代的な都市といまどきのショッピングモール。この両者は言葉上の定義が似ているだけではなく、少しずつ姿を変えながら互いににじり寄る関係にあり、近い将来、その両者を区別することは困難になって、どこまでが都市でどこまでがショッピングモールなのかわからなくなってしまう可能性すらあると筆者は考えています。
つまり、ショッピングモールについて語るということは、現代の都市について語ることでもあるのです。
しかし、ショッピングモールほど知識人たちに忌み嫌われている存在もないでしょう。
建築家たちは、ショッピングモールを無個性で画一的で商業主義にまみれた建築の分野に押し込み、それについてよく語るということはまずありません。むしろ、嘲笑の対象としてショッピングモールを語ります。
この新書を読みながら、僕は以前読んだ『父として考える』という新書のなかで、東浩紀さんが、
東:かつて三浦展さんがショッピングモールに覆われた風景を「ファスト風土化」と批判しました。似た問題意識を持つかたは多いですが、僕はその見方はあまりに一方的だと思う。実際、若い子連れの夫婦があまりお金をかけずに一日遊べて、買い物もできるという意味では、ショッピングモールほど便利で快適な場所はない。
と仰っていたことを思い出しました。
どこでも同じような店が入っていて、個性もなく、売っている品物もなんだか中途半端な感じがするショッピングモール。
僕も若い頃は、「なんだか俗っぽいよなあ。どこもかしこも一緒でさ」
なんて思っていて、あまり好きではなかったのです。
でも、僕も親になってみて、東さんの言葉の意味がわかるようになりました。
子どもがいないときは、「なんでイオンモールはこんなに子連ればっかりなんだ?うるさいなあ」なんて思っていたのだけれど、小さい子ども連れの家族を積極的に許容してくれる場所って、街中にはイオンモールくらいしかないんですよ本当に。
地方都市のショッピングモールに行くと、「少子化なんて言っているけど、けっこう子どもってたくさんいるんじゃない?」っていう気分にすらなるのですが、裏を返せば、「子ども連れのファミリーが行く場所は、ショッピングモールくらいしかない」のですよね。
カートもたくさんあるし、そんなに階を移動しなくてもいいし、店員さんも「子ども慣れ」しているし。
あまりに「大型化」してしまって、「書店に行きたいだけなのに、店内の移動がめんどくさいなあ」なんてボヤいてしまうこともあるのですけど。
この本のなかでは、アメリカをはじめとする海外でのショッピングモールの歴史や日本で普及していくまでの流れ、そして、「ショッピングモール化せざるをえなくなってしまった都市」のことなどが丁寧にまとめられています。
以前御紹介した新書『商店街はなぜ滅びるのか』が、「商店街側からみた消費行動の歴史」を語る新書だとするならば、こちらは、「大規模店からみた、消費行動の歴史」になるのでしょう。
ひとことで「ショッピングモール」といっても、時代によって、さまざまな変化がみられていることを著者は示しています。
鉄道の駅の近くにつくられたショッピングモールから、モータリゼーションの波によって「郊外型」へ。
(それも、幹線道路に隣接した店から、交通渋滞などの影響で、さらに郊外へ)
そしていまは、高騰化した地価をまかなうために、「駅などの公共施設と一体化した、超大型化した施設」へ。
僕が住んでいる九州でいちばんの都会、博多をみていると、まさにこの流れに沿って「ショッピングモーライゼーション」が起こっているなあ、と感じました。
博多には「天神」というJRの博多駅から少し離れた大きな繁華街があり、そこに大きなデパートやテナントビルが並んでいました。
1996年、博多駅から歩いて20分くらいのところに「キャナルシティ博多」(この新書のなかにも少し採り上げられています)という大型のショッピングモール(劇団四季の専用シアターや映画館なども含む、まさに「ひとつの町」ともいえる施設でした。……できた当時は)が完成したのですが、その後、さらに「車で行って駐車できる大きなショッピングモール」が、郊外にたくさんできていきます。
おかげで、「駅からはちょっと遠くて、駐車場も停めにくくて高い」キャナルシティは、どんどん閑散としていったのです。
そして、2011年3月には、日本最大規模の駅ビル「JR博多シティ」がオープン。
「駅の近く」から、「車で行ける郊外」、そして、「駅そのものと一体化した、超巨大ショッピングモール」へ。
僕はちょうどオープン日に博多に用事で行ったのですが、巨大な駅ビルとあまりに大勢の買い物客をみて、「これじゃあ、博多での買い物が全部駅で済んでしまう人も多いだろうなあ」と感じたものです。
公共の施設として、駅が「総取り」してしまっても良いのだろうか?と疑問にも感じました。
しかしながら、この新書を読んでいると、「中途半端な施設では見向きもされないから、ショッピングモールとして生き残るためには『総取り』するしかなかったのだな」という気がしてきます。
後半の「ショッピングモールを目指す観光客たち」の話もすごく興味深いものでした。
年に1回、家族で海外旅行に出かけるのですが、海外の観光地、とくにリゾート地と呼ばれるようなところには、必ず「大型ショッピングモール」があるんですよ。
僕自身は、「なんでわざわざ外国にまで来て、日本でも買えるようなブランド品のショッピングに時間を使わなければならないんだ?」と思ってしまいます(幸いなことに、その点では妻とも気が合っています)。
でも、街中で嬉しそうに「戦利品」を持って歩いている日本人観光客をみると、それなりの魅力はあるのだろうなあ、と。
さて、訪日観光客が日本観光に来る最大の目的は、名所でも遺跡でも自然でもありません。ショッピングです。
今、手元に香港で売られている2010年度版の旅行ガイド本があります。このガイドの最初に載っている東京の観光スポットは、入間のアウトレットモールです。入間はそもそも埼玉県ですし、東京の中心部から行こうと思うと自動車で2時間はかかります。当時、まだオープン間もなかった入間のアウトレットモールがもっとも旬な東京の観光スポットとして紹介されているのです。
しかも、著者によると、その次に紹介されているのが御殿場のアウトレットモールで、浅草や明治神宮も採り上げられてはいるものの、「東京」からはやや離れた横浜や船橋の「ららぽーと」も大きく採り上げられているのだとか。
僕としては、「なんでわざわざ外国に来てまで……」と思うのですけど、「観光」=「ショッピング」という人は、どうやらかなり多いようなのです。
イタリアのミラノに行ったとき、同じバスに載っていた若い女性たちが「『最後の晩餐』よりもショッピング!』という話をしていたのを聞いて、悶絶したこともあったものなあ。
この新書のなかでは、世界中のさまざまなショッピングモールも紹介されています。
そして、これを読んでいて痛感したのは、観光地のショッピングモールというのは、ある意味「グローバル化のひとつの象徴」だということでした。
世界各国の「海外旅行に出られるくらいの経済力のある人たち」が、世界中の同じようなつくりのショッピングモールで、同じような品物を買っていく。
これはむしろ、「世界中同じようなショッピングモール」であるからこそ、意味があるのかもしれません。
人類は、民族や国籍ではなく「海外旅行に行って、ショッピングモールで買い物ができる人」と「そうでないひと」に分裂していくのだろうか。
もちろん、その上層に「ブラックカードで買い物ができる、一握りのセレブ」なんてのもいるのでしょうけど。
現代社会を考える上で欠かせない二つが都市と観光です。その両者がショッピングモールとして結びつくことが、どういった可能性を生むのかについても、我々が今後見守るべき事柄です。
ジャーナリストのトーマス・フリードマンは、マクドナルドのチェーンが進出するような「中流階級が現れるレベルまで発展」した国同士は、もはや率先して戦争を行わないという仮説を説いています。1999年の時点での話です。これをショッピングモール時代に合わせて、”ショッピングモールにGAPが進出している国、あるいはそのサプライチェーンに組み込まれている国同士は戦争をしたがらない”にアップデートできるのではないでしょうか。それらの分断は、グローバル企業にとっての不利益をもたらします。しかし、あまりに楽観的な見方なのかもしれません。
「古い文化の破壊者としてのショッピングモール」ではなく、「新しい世界構築の重要なパーツとしてのショッピングモール」が語られた、刺激的な新書だと思います。
ちなみに、「病院にコーヒーショップが進出してくる理由」も紹介されていて、僕の小さな疑問が解消されたことも付記しておきます。
商店街はなぜ滅びるのか 社会・政治・経済史から探る再生の道 (光文社新書)
- 作者: 新雅史
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2012/05/17
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