琥珀色の戯言

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夢売るふたり ☆☆☆☆



あらすじ: 東京の片隅で小料理屋を営む貫也(阿部サダヲ)と妻の里子(松たか子)。店は小さいながらも順風満帆だったが、火事で全てを失ってしまう。ある日、貫也が常連客と一夜を共にし、すぐに里子の知るところとなるが……。

映画『夢売るふたり』公式サイト


2012年27作目の映画館での鑑賞。
20時台レイトショーで、観客は、僕を含めて10人くらい。中高年のカップル+ひとりで来た人が数名。


冒頭から序盤の、ちょっとした不注意から、うまくいっていた小料理屋(っていうより、ちょっとした居酒屋くらいの規模はありました)が火事になり、すべてを失ってしまった貴也と里子。
「ここまで来るのに、10年かかったのに……」と自暴自棄になってしまう貴也に対して、里子は「また一からやり直せばいいじゃない!」と気丈にふるまい、貴也を励まし続けるのです。
ああ、里子、立派な妻だな……


………………が、しかし……


なんというか、僕の場合は、里子が「正論」を掲げて立派な行動をするのを観ながら、「ああ、これは貴也はつらいだろうな……」と思っていたのです。
パートナーがあまりに不実でバカだと腹が立つんだけど、あまりに正しくて立派だと、それはそれで、なんだかすごく自責の念に駆られたりするんだよね。いっそのこと、お前がもっとバカだったり、こっちを責めてくれたほうがラクになるのに、なんて考えてしまうこともあるのです。
で、そんなかで、「そうはいっても、向こうだって完璧超人じゃないしな」なんて思い直して、「今日はちゃんと話をしよう」と家に帰って「話し合いモード」になっていると、「鞄をテーブルの上に置くな散らかる!」とか言われて、また爆発してみたり。
自分だって悪いと思っていることで逃げ場もないくらい徹底的に責められたら、人間、逃げるかキレるしかないじゃないですか……


うわ、なんかあまりにリアルな話というか、映画感想じゃなくなってきたな。
(ちなみにこれは、「知り合いの劇画原作者に聞いた話」ですので、そこのところ御周知ください)


前半の「夫婦がギクシャクしていく姿」は、あまりにもリアルで、観ていて、すごいなと思いつつ、これをあと2時間くらい観なければならないのか?と戦々恐々としていたのです。
ところが、そのシークエンスがいきなりガラッと変わって、夫婦の「新しい商売」の話になったので、このドロドロの行く末を観てみたかった、という気持ち半分、ホッとしたのが半分。


その後の展開は、まあ、「リアル」ではないです。
あんなに簡単に騙される人ばっかりだとは思えないし(ただし、「そういう能力」がある人もいるのは事実なのでしょう。あの「毒婦」と呼ばれている容疑者のような)、ちょっと極端なキャラクターをあえて出してきて、「お前らもまさかこいつが、とは思わないでしょ?」と観客を試してくるのも感じ悪い。


ある意味、この物語は、すべての人を敵にまわしているんですよね。
貞淑な妻、小市民な夫、人を信じては騙される女、暴力男、子供、目標を持ってがんばる女、自分のプライドを自分でもてあましている女……


作品中で、市澤夫妻は、テレビの幼児虐待のニュースを見て、こう語り合います。
「ひどい親だねえ。あんなひどいことする親がいるなんて、信じられない。同じ目にあわせればいいのに!」
悲しいほど、自分のことって、見えない。


ある女性は、こう言います。
「私は自分が結婚もできないような女だと思われるのがイヤだった」
ああ、でもこの言葉は、すごくリアルだよなあ。
相手が好きで、一緒にいたいからではなく、自分が「結婚できない人間ではない」ことを証明するために「誰か」と結婚し、「離婚するような人間ではない」というプライドを守るために結婚生活を続ける。
それっておかしいよね。
でも、そういう気持ちを笑い飛ばせるほど「純粋な結婚生活」を送っている人ばかりなのだろうか?


西川美和さんの作品らしく、「すべての人が、ちょっとだけ歪んでいるけど、明らかに間違っているわけではない」。
みんな、それぞれの「都合」や「打算」で生きているだけのようにみえるけれど、「愛」と「都合」と「打算」の境界線って、あらためて考えてみると、よくわからなくなってしまう。


その一方で、この映画を観ながら、「本当は、みんな自分の人生からよけいな『向上心』や『見栄』みたいなものを捨て去って、『リセット』したいんじゃないかな」とも考えていたんですよね。
僕たちは、少し自分の生きかたというものを、客観的に見ようとしすぎているのではないか。


とはいえ、子どもがいたりすると、リセットなんてそう簡単にはできなくなるわけで。
結局、夫婦というのは「共通のミッションをこなす戦友」として繋がっていくしかないのかもしれません。


まあ、なんというか、「恋人同士で行っても、夫婦で観ても、かなり気まずくなる映画」であることは保証します。
個人的には、ラストは西川監督らしい「寸止め」なのですが、今回は「尺止め」くらいだったので、もうちょっと描いてほしかったかな。


あと、松たか子さんの演技は、素晴らしかった。
……でも、ファンとしては、あんなことやこんなことを松さんがやって「演技派」と呼ばれることに、寂しさというか、「松たか子に、そんなことさせないでくれ……」と悲しくなってしまったのも事実です。
それにしても、松さんって、「背中で語れる女優」になってきたよなあ。
自転車に乗っている後姿をみながら、そう感じました。

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