琥珀色の戯言

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【読書感想】桐島、部活やめるってよ ☆☆☆☆


桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)

桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)

内容説明
バレー部の「頼れるキャプテン」桐島が突然部活をやめた。
それがきっかけで、田舎の県立高校に通う5人の生活に、小さな、しかし確実な波紋が広がっていく。
野球部、バレー部、ブラスバンド部、女子ソフトボール部、映画部。
部活をキーワードに、至るところでリンクする5人の物語。
桐島はどうして部活をやめたのか?
17歳の彼らは何を抱えているのか?
物語をなぞるうち、いつしか「あの頃」の自分が踏み出した「一歩」に思い当たる……。
世代を超えて胸に迫る青春小説の傑作! 第22回小説すばる新人賞受賞作。


この文庫の「解説」は、映画化された『桐島』の監督である吉田大八さんが書かれています。
僕より少し年上、1963年生まれの吉田さんが、

 いやだって、タイトルといい装丁といい帯の惹句といい「お若くない方にはご遠慮いただきます」と慇懃に断られているような気がしていたのだ本屋で。完全に被害妄想。

と仰っているのを読んで、「そうそう!僕もそう思っていました!」と大きく頷いてしまいました。
書店で大々的にピックアップされていても、「まあ、青春小説なんて、いまさら読む気にもなれんというか、これを手にとっていたら、『あのオッサン、こんな本読んでんのかよ、いい年してさ』なんて若者にバカにされるんじゃないか」と思っていたのです。


でも、実際に読んでみたら、けっこう面白かった。
いや、なんというか、「昔の傷跡をなぞるような体験」ではあったな、と。
その傷は、もう完全に瘢痕化していて、もう触っても痛くない。
「痛かったときの記憶」は、うっすらと残ってはいるのだけれど。

 高校って、生徒がランク付けされる。なぜか、それは全員の意見が一致する。英語とか国語ではわけわかんない答えを連発するヤツでも、ランク付けだけは間違わない。大きく分けると目立つ人と目立たない人。運動部と文化部。
 上か下か。
 目立つ人は目立つ人と仲良くなり、目立たない人は目立たない人と仲良くなる。目立つ人は同じ制服でもかっこよく着られるし、髪の毛だって凝っていいし、染めていいし、大きな声で話していいし笑っていいし行事でも騒いでいい。目立たない人は、全部だめだ。
 この判断だけは誰も間違わない。どれだけテストで間違いを連発するような馬鹿でも、この選択は誤らない。
 なんでだろうなんでだろう、なんて言いながら、僕は全部自分で決めて、自分で勝手に立場をわきまえている。

僕自身は、この「スクールカースト」がもっとも身にしみたであろう高校時代は男子校だったので、この作品で描かれているような「共学のスクールカーストのピークの時期」は経験していないんですよね。
これを読みながら、やっぱり男子校で正解だったのかな、と思わずにはいられませんでした。


この作品のなかでは、映画部の前田涼也という生徒が「ダサイ文化系キャラ」として出てくるのですが、それでも彼は、「映画づくり」という打ち込むことがあったり、中学時代にほのかにつきあったことがある女の子がいて、恋愛感情みたいなものも抱えており、「こいつは、『下の下』じゃないだろ」と言いたくもなるのです。
この高校のカーストには、バラモン(司祭)、 クシャトリヤ(王侯・戦士)、バイシャ(商人)はいるけれど、シュードラ(隷属民・奴隷)がいない。
何のとりえもなく、将来への展望もなく、ただ日々を過ごしているだけ、そんな高校生が。
……とか書きながら、「じゃあ僕自身はどうなんだ?」とか「本当にそんな『何もない高校生』がいるのか?」とも考えてしまったんですけどね。


もう25年くらい前のことになるのだけれど、まっただ中にいる僕には、たぶん「ひかり」は見えなかったと思う。
19歳でこれを書いた著者は、本当に「ひかり」を見ていたのだろうか、それとも、「そうであってほしいという願い」なのか?

 体育でチームメイトに迷惑をかけたとき、自分は世界で一番悪いことをしたと感じる。体育でチームメートに落胆されたとき、自分は世界で一番みっともない存在だと感じる。

この作品を読みながら考えていたのだけれど、僕のような文化系で運動音痴でスクールカースト下位で、体育教師の「じゃあ、2人組をつくって!」という声を恐れていた人間は、結局のところ、蓄積された「学生時代の体育の時間の怨念」を燃焼させて、なんとか生き抜くための推進力を得ているのかもしれませんね。

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