琥珀色の戯言

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【読書感想】オタクの息子に悩んでます ☆☆☆☆☆


オタクの息子に悩んでます 朝日新聞「悩みのるつぼ」より (幻冬舎新書)

オタクの息子に悩んでます 朝日新聞「悩みのるつぼ」より (幻冬舎新書)

内容紹介
人生相談に役立つ思考ツール
●分析 エビデンス=証拠を求めながら、相談を読み解く
●仕分け 解決可能な項目と解決不能な項目に分ける
●共感 相談者の感情を共有する
●フォーカス 具体的な行動を提示する
●ピラミッド 構成要素を図解する ……etc.


父親が大嫌い、Twitterで悪口を書かれた、女優と結婚したい……こうした悩みを打ち明けられたとき、どんなアドバイスができるか。朝日新聞beの人気連載「悩みのるつぼ」で、誰よりも相談者の気持ちに寄り添い、「役立つ回答」を編み出し、読者や相談者本人から絶大な信頼を誇る著者が、「回答」に辿り着くまでの思考経路を一挙に公開。人生相談と本気で格闘することで、問題解決のための分析力、思考力が身につく、画期的な書。

 逃げなさい。さもなければ、母を助けなさい。

 この岡田さんの言葉、僕はネットで読んだのですが、いまでも強烈な印象が残っています。
 これは、「父親が大嫌いで許せない、近くにいるとイライラし、死んでほしい、殺したいという気持ちが強くなってつらい」という女子高生からの相談への「締め」の部分にあたります(2010年に朝日新聞朝刊の『悩みのるつぼ』に掲載)。
 「父親のことについての相談」なのに、なぜ、「母を助けなさい」という言葉で締めくくられるのか……
 興味がある方は、ぜひこの新書を手にとってみてください。
 読んで、損はしないと思います。


 この新書、最初に見かけたときは、「岡田斗司夫さんの悩み相談コーナーを新書にまとめたもの」だと思ったんですよ。
 もちろん、相談と岡田さんの回答は掲載されています。
 しかしながら、この新書の「肝」にあたるのは、相談そのものではなくて、「寄せられた悩みに答えるためのプロセスと、岡田さん自身の『他者の悩み』への向き合い方」が書かれている部分です。
 岡田さんがこの新書のなかでやろうとしているのは「個々の悩みに答えること」ではなくて、この新書を読んだ人たちが、自分や他者の悩みに「回答」できるような「思考法」を伝授することなのです。
 そのために、「分析」「仕分け」「共感」などの、さまざなまツールの使い方が、この新書では紹介されています。

 共感のコツは相談者と”同じ温度の風呂に入る”ことにあります。
 恋愛で悩んでいるとか、借金のことで困っているとか、いろんな悩みがありますよね。
 その時に、ついつい僕たちはその相談者と”同じ温度の風呂”に入らないんです。
 その人が熱くて困ってるとか、冷たくて困ってるといっても、自分は服着て標準の温度で快適に過ごしながら、つまり安全地帯から「こういうふうにすればいいよ」と忠告してしまう。
 とくに男性はこれをやってしまいがちです。女の人が男性相手に相談をすると、ムダに疲れてしんどいというのをよく聞きます。
 というのも、男性はすぐに回答を出そうとする。
 僕と同じで、役に立とうとするあまり、その人に対していま自分が言える一番論理的で、行動可能で、こういうふうにすれば状況が改善されるのにといった指針を、手早く言おうとしすぎるんです。
 結論だけじゃダメなんです。それよりもっと前の段階で、「相手と同じ温度の風呂に入る」これが結論です。

 ああ、なんか身につまされる話です。
 僕も「身も蓋もない回答」をしてしまって、嫌われてしまうことが多いので。
 岡田さんも昔はきっと、「安全地帯から、論理的な解決法を宣告していた」のではないかなあ。


 この新書で紹介されている、岡田さんの「人生相談テクニック」の数々は、かなり具体的に「用法」が書かれています。
 「精神論」や「概念」じゃなくて、すごく「実践的」なんですよ。

 あんがい簡単なんです。相談文の中で”解決可能な問題”はどれだろうかと仕分けしてみれば、すぐわかります。
 深い悩みに落ち込んだ場合や、「もうどうしようもない」というジレンマに陥ってしまった場合、僕がいつも使う方法を紹介しましょう。
 その悩みを、三つに分けるんです。


1 今すぐ「私が」手を打たなければならない問題
2 年内に「私か誰かが」手を打たなければならない問題
3 「人類が」いずれ解決しなければならない問題


 この三つです。
 たとえば「どうして人は争うんでしょう」という悩み。これだって立派な悩みです。
 でも、これは人類が手をつけるべき問題であって、「今後100年の間に解決すればいいな」という類の問題なんですね。
 それとは反対に、「どうやれば来週のローンの支払いができるでしょうか」という問題。これを解決できるのは「私」だけ。そして期限も決まっている。
 これは「今すぐ考えるべき問題」なんです。

 岡田さんは「悩み」って、この3つのフェーズが入り混じって、問題を大きくしている場合が多いと指摘しています。
 「人類が長い間悩み続けている問題」を、相談者が突然解決できるはずもないのに、ついつい、自分で自分の悩みを豪華にしてしまうんですよね、人間って。
 ちゃんと優先順位をつければ、「自分で解決することが可能な問題」って、ものすごくスリムになってしまうことに、読みながら感動します。
 その「悩みのコア」みたいなものに向き合うのが怖いから、悩みそのものを大きく、複雑にしてしまうというのも、「悩む人」にありがちなんですけどね(僕もそうです、やれやれ)。

 これまで本書で僕は何度も書きました。
「すぐに解決策を考えるな」「もっと問題の底に潜れ」と。
 なぜみんなは、そんなにさっさと解決策を言いたがるのでしょうか?
 それは、実は自分の中に未解決な問題があって、それが解決できてないからです。
 だから、人間というものは安心したがるあまり、手近な解決策を言いたがる。
 次に、共感して「あなたも大変ね」と言おうとも、やっぱりそれでもまだ自分の中の問題というのは解決してないんです。
 昔あった問題、失恋の問題とかを言われた時に、「私も昔こんなつらいことがあったのよ」と言ってちょっと楽になるかもしれないけど、その程度なんです。
 人から悩みを打ち明けられたら、同時に「当時の自分の悩み」にも回答するつもりで考える。
 それが僕の見つけたゴールです。
 悩み相談は「相談→回答」じゃない。「相談から始まる対話」なんです。
 だから二人で回答を見つける。
「悩みのるつぼ」連載のように新聞読者がいる場合は、読者みんなを巻き込んで「僕ら全員の心の中にあるこの問題に決着をつけよう」と呼びかける。
 それは、自分自身に引っかかってる「心のしこり」を溶かすためである。
 誰もが心の底にしまい込んで忘れてしまってる「心の不良債権」を処理するためである。

 この新書の冒頭で、岡田さんは「他の相談者とは差別化されている、オリジナリティのある回答をしなければ」という意識があったことを書いておられます。
 「相談者のためになる」というより、ひとりの文筆家としての「野心」みたいなものを持ってこの仕事に関わったことを率直に述べているのです。
 でも、いろんな相談者の「悩み」に触れて、試行錯誤していくうちに、どんどん「同じ温度の風呂に入ってしまった」。
 そして、この本には、「悩み相談の極意」というだけでなく、「他者と同じ土俵に立って対話するための心得」が書かれることになりました。
 「他人の話を聞くのが苦手」だという人(これも僕にあてはまります)は、ぜひ、一度読んでいただきたい新書です。
 なんだかこんがらがった話や、まわりくどいだけで意味がなさそうな他者の話のなかにも、さまざまな「材料」が詰まっているということがよくわかるから。


 僕自身、これを読んでいて、あらためて、「自分の心の不良債権」を意識せずにはいられませんでした。
 悩みを解決するための最大の壁は「正しい選択肢を選ぶこと」ではなくて、「その選択肢を実行すること」であることは、変わらないのでしょうけど。

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