琥珀色の戯言

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【読書感想】99%対1% アメリカ格差ウォーズ ☆☆☆☆


99%対1% アメリカ格差ウォーズ

99%対1% アメリカ格差ウォーズ

内容説明
巨大資本に操られるインチキ政治運動、デマだらけの中傷CMをぶつけ合う選挙戦、暴走する過激メディアまで、日本人が知らない「アメリカの内戦」を徹底レポート。
ティーパーティーを操る石油化学産業の帝王とは?
● 全米最大ニュース局に君臨する世論操作の達人とは?
● 最も信頼できるニュースキャスターに選ばれたお笑い芸人とは?
ハゲタカファンドの出身の大統領候補ロムニーの本性とは?
● 「アラブの春オバマの陰謀」と叫んだ“泣き虫扇動家”とは?
● アメリカをデフォルトさせようとしたキリスト教保守議員とは?


町山さんの「アメリカの現在」レポート。大安定の面白さです。
しかし、「日本にとって、もっとも重要な同盟国」が、こういう国であるということを、面白がっていて良いのだろうか?という不安もあるんですけどね。
それにしても、この本で紹介されている、「FOXニュース」は凄い。

「敵」――オバマ政権のマスコミ担当官、アニタダンは、(2009年)10月11日、CNNのインタビューに答えてFOXニュースをそう呼んだ。
「2008年の大統領選挙の時を思い出してください。当時、アメリカは重大な危機に直面していました。イラクとアフガンの戦争、それに金融危機です。ところがFOXニュースがアメリカの脅威として報道していたのはビル・エアーズのことばかりでした」
 ビル・エアーズは60年代の極左爆弾テロ組織の一員だったが、80年に自首して不当起訴により無罪となった。オバマはシカゴで貧困層救済をしていたときに、たまたま近所に住んでいたエアーズと知り合った。エアーズはイリノイ大学の教授だった。それだけででFOXはオバマを「テロリストの弟子ではないか」と報じたのだ。
 予備選のあいだから、FOXは何度もオバマをテロリスト呼ばわりした。まず、「オバマインドネシアの小学校でイスラム過激派の教育を受けた」と報じた。CNNはすぐに現地ジャカルタの支局員にその公立小学校を取材させ、どんな宗教教育も行っていない事実を突き止めて「FOXにひとつ教えてあげましょう。報道には取材が必要です」と釘を刺した。
 それでもFOXは懲りない。オバマが予備選に勝利してミシェル夫人と拳をぶつけあうと、FOXは「あれはテロリストの挨拶か!?」と騒いだ。アメリカの学校や職場やスポーツの試合でみんなやってる挨拶なのに。
 そんな根も葉もない中傷と戦ってきたアニタダンはついにキレた。
「FOXニュースはCNNのような報道機関ではありません。共和党の翼賛団体だと言っても間違いではないでしょう」

これで本当にいいのか?
みんなこんなのを支持しているのか?
そう思いますよね。
でも、FOXが、アメリカでもっとも視聴率が良いニュース局であることは、まぎれもない事実です。
多くのアメリカの白人たちが、煽られて「国民皆保険制度は、共産主義だ!」とか「働けなくて貧乏になっている人たちを『俺たちの税金』で救済する必要はない!」と叫んでいます。
実際は、オバマ大統領が目指していた「国民皆保険」や「富裕層への課税(そして、貧困層への援助)」は、彼らの大部分にとっても、プラスになる政策のはずなのに。
「より弱い人たちを叩くことで、弱者に偽りの優越感を与える作戦」に、見事にハマる、大勢のアメリカ人……
いや、これは「アメリカの話」だけではなくて、日本もそんな感じになりつつあるんですけどね。
「俺たちの金で、弱者を助けるな!」って、「ちょっと病気でもすれば、生活保護を受けなければならない可能性がある人たち(いまの日本では、大多数の人がその状況だと思います)」が、大声で叫ぶ。


FOXで人気の保守系コメンテーター、グレン・ベックさんのエピソード。

 ちなみにベックは「集会で奇跡が起こる」と予言していたが、「本当に奇跡は起きた」そうである。
 ベックは誇らしげに語る。
「開会の音楽が鳴ると、池にいた雁の群れが一斉に飛び立ったんです。あれは神の御業です」
……雁って、大きな音立てると一斉に逃げるもんだよ!

これ、お笑いのネタ……じゃないんだよなあ……
思わず新幹線のなかで吹き出してしまったけど。
ただ、彼らはバカだから引っかかるのではなくて、「自分たちは正しい」「ちゃんと神を信じている」という意識を持っているからこそ、疑わない、疑うことができないのも事実です。


そういう「日本人からみたら、狂信的にすら思える人たち」と、「ものすごくリベラルで博愛主義的なニューヨーカー」が共存している国って、ある意味すごいですよね。
そして、民主党と共和党というふたつの勢力が、とりあえず「何か大きな問題があったら、政権交替ができる」レベルで拮抗しているという絶妙なバランス感覚。

 CNNは日本での特派員の活躍でどこよりも多くの情報を提供し、視聴率でライバルのFOXニュースを抜いた。03年のイラク戦争報道で1位の座を奪われて以来である。世界的なネットワークを武器にするCNNニュースに対して、アメリカの保守層をターゲットにしたFOXニュースはその取材力の弱さを露呈した。日本の原発を呈した地図では渋谷のライブハウス「エッグマン」を原発として報道してしまった。

エッグマン」が原発
いやあ、日本も都心に原発ができる国になったんですね!
これ、「FOXってバカだなあ」と呆れる話ではあるのですが、その一方で、アメリカにはCNNという「FOXに対するカウンターとなるメディア」が存在しているわけです。
日本のテレビ局では、みんな「横並び」の報道ばかりで、他社との比較の余地はキャスターの好みくらいのものでしょう。
町山さんのアメリカの話を読むたびに、「なんてバカバカしい国なんだ……」と呆れてしまうのだけれど、それと同時に、アメリカというのは、「バカバカしさに満ちている一方で、常にそれを浄化しようという良心も維持してきた国」なのだということも痛感させられます。


この本を読んでいると、「白人であること、アメリカ人であることにアイデンティティを見出そうとしている人たち」への憤りとともに、彼らの焦りも感じずにはいられません。

 また、ティーパーティー(オバマ政権に反対する保守系反政府市民運動)はオバマの景気刺激策に猛反発したが、それはサブプライムローンで買った家のローンが払えずに差し押さえの危機にある人々を救済する予算が含まれているからだ。サブプライムローンに頼ったのは貧困層で、黒人やヒスパニックが多い。「自分の医療保険は自分で払え」というティーパーティーの主張は、貧困層やマイノリティへの福祉に対する反発なのだ。
 その心理を表明したのがサウスカロライナ州のアンドレ・バウアー副知事だ。彼はタウン・ミーティングで「貧困層の子供たちの給食費を州が援助するのは中止すべきだ」と言って、集まったティーパーティー活動家から喝采を浴びたが、その言葉は差別的だった。
「うちの婆ちゃんが言ってました。動物にエサをやるなって。なぜかわかりますか。連中は増えるからです。特に何も考えない奴に限って子沢山です」
 そんなティーパーティーをベンジャミンはそれほど恐れていない。彼は「奴らももうすぐマイノリティ」だからと、国勢調査局の資料を示す。それは2050年までには白人の人口は5割を切ると予測している。ティーパーティーは白人最後のあがきなのだ。

そうなんですよね、彼らがどんな激しいヘイトスピーチを繰り返そうとも、アメリカの白人の割合は減ってきているし、今後もその傾向は続くはずです。
そもそも、もう、アメリカ社会は、白人だけでは成り立たなくなっているのです。


その先にあるものが、もっと深刻な対立なのか、それとも共生であるのか……
後者であって欲しいと同盟国の一員としては願っているのですが、歴史を顧みると、正直怖いです。
本当の「敵」は「貧しい隣人」ではなく、「貧困」や「弱者同士の人種やイデオロギーの対立を煽って、格差から目をそらそうとしている人たち」なのにね。

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