琥珀色の戯言

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【読書感想】池上彰の政治の学校 ☆☆☆☆


池上彰の政治の学校 (朝日新書)

池上彰の政治の学校 (朝日新書)

内容紹介
国会、政党、官僚制などの政治の基礎から、混迷する現在の政局まで、あの池上さんがわかりやすく解説する。ネットと政治、橋下現象に象徴されるポピュリズムなどの新しい話題も満載。アメリカ大統領選など世界各国の選挙事情にも触れる。


池上彰さんの「○○の学校」シリーズ。
今回は政治の話なのですが、いつもの通り、そんなに目新しいことが書いてあるわけではありません。
おそらくこれを読むと「そんな初歩的なこと、もう知ってるよ」と仰る人も少なくないでしょう。
でも、それを承知の上で、こういう「聞いたらバカにされそうで、聞きづらかった事」をまとめてくれる池上さんって、本当に貴重な存在だなあ、と。


僕も昔『バカの壁』を読んだとき、「こんな、みんながわかっているようなことを書いた本が、なんで大ベストセラーになったんだ?」とすごく疑問だったんですよ。
いまから考えると、「わかっているつもりのことを、『こんなの知ってるよ』と思われるくらい整理して書く」というのは、けっこう大変なことなのだよなあ。
読んでいる人たちに「わかってるよ」と思わせつつも、最後まで読み続けさせるための匙加減というのも難しい。


2010年の7月の参議院選挙の選挙特番は、池上さん効果もあり、テレビ東京にもかかわらず、視聴率民放2位だったそうです。
そこでは、池上さんが「特番をつくっている政治のプロと視聴者(=素人)をつなぐ番組にする」ことを目指したそうです。

 そうした考えのもと、「民主党を支持している日教組の組織率はどのくらいなのか」とか、「公明党創価学会の関係はどうなっているのか」とかいうことをテレビでお話ししました。
 私のコメントは、放送中からネット上で「池上がタブーを破った」とお褒めをいただきました。でも私はタブーを破ったという気はまったくありません。これらの話は政治の世界を生きるプロたちにとって、「当たり前」のことで、わざわざ放送するようなことではないと判断されてきただけなのです。選挙特番に出演するような人にとっては、「労働組合民主党を応援していて、その中でも日教組が特に熱心だ」とか、「日本最大の宗教団体である創価学会公明党を応援している」とか、「選挙事務所には、『必勝祈願』と書かれた紙が貼ってあるけれども、あれはすべてそれぞれの支援団体が作ったもの」とかいったことは常識だから、口に出さないだけなのです。
 でもテレビを見ている人たちにとって、それは「常識」ではありません。だから「なぜ創価学会公明党の関係についてテレビでは放送しないんだ。何かあるからではないか」と思われていました。そこで私が「みなさん、いかがですか。これらのことは多少はどこかで耳にはさんだことはあるけれども、詳しくは知らないでしょう」と言って、きちんと解説をした。そうしたら、斬新な番組内容だと喜んでもらえた。これが真相です。もちろん私なりに辛口の味付けをしましたが。

多くの人は「タブーだから言及しないんだ」と思っていたことが、関係者にとっては「常識だから、あえて言う必要はないだろう」と判断されていたのです。
こういう話って、政治の世界やテレビ業界だけではなく、いろんなところにありそうですよね。
ネットでも、ものを書いていると「そんなの常識」「みんなが知っている」というお叱りを受けることがあるのですが、「100人中50人が知っている」ことでも、「100人中50人は知らない」と考えると、けっしてムダなことばかりではないのかな、と。
専門家集団にいると、「みんなはどこからがわからないのか?」が、わからなくなってしまいがちですし。


この新書のなかで、池上さんは、日本の政治の問題点を、簡潔にこう言い表しています。

 日本の政治がうまくいかないのは、政治家が「票集め」に走り、国民は「幸せの青い鳥」を追い求めているからです。

この新書で、池上さんは、この言葉について詳しく解説していくのです。


池上さんは、「現代版ポピュリズム衆愚政治)」をこのように説明しています。

 政治家が民衆の人気取りに走ってしまい、本当に必要な政策を実行しない。そして民衆もそれを咎めることができない、それがポピュリズムの基本的な症状です。

池上さんは、「ポピュリズム」について考えるために、2人の政治家を例示しています。

 このように世界を見渡してみると、政治家が打ち出す政策がポピュリズムを狙ったものかどうか、私たちは見極める目を持たなければなりません。たとえば、小泉氏の靖国参拝や、橋下氏の主張する「愛国心を育てる教育」や「教師の国歌斉唱義務化」は、実はポピュリズムをくすぐる、ある種の政治戦略的な政策とも言えます。
 小泉氏が総理大臣になる前から靖国神社に参拝していたのか調べてみてください。つまり、総理大臣になる前から靖国神社に参拝をしていた人が総理大臣になってもそれを貫くのであれば、それはわかります。でも小泉氏の場合は、総理大臣になる前までは靖国神社などにまったく興味がなかったのに、「中国からの圧力に負けない強い政治家」を表現するために総理大臣になってから参拝を始めたわけです。これはあきらかにポピュリズムです。
 一方、中曾根康弘氏は、昔から靖国神社に参拝していたし、総理大臣になっても靖国神社に参拝していたけれども、そのことで中国との関係が悪くなったので参拝を控える判断をしました。これはポピュリズムではありませんね。
 つまり、誰の目を気にした行動なのかということです。

ここで大事なのは、小泉さんがやっていたことが「人気取り」であるということよりも、小泉さんが総理大臣になってから急に靖国神社を参拝するようになったことを「なんで急に参拝するようになったの?」と指摘する政治評論家やマスコミがみられなかったこと、あるいは、いてもその声がほとんど伝わってこなかったことだと思うのです。
政治家に選挙がつきものである以上、「人気取り」が無くなることはないでしょう。
ただし、そこにチェック機構が働いていれば、まだ救いようがあるのです。
そこに、人気がある総理大臣であれば、少々の矛盾には目をつぶり、人気がないと漢字の読み間違いで大バッシング、という日本のメディア、国民が加われば、「衆愚政治」の完成です。


池上さんの話のなかで、僕が「なるほど」と思ったのは、「選挙権を得られる年齢の引き下げ」でした。
池上さんは「選挙権を得るのは、18歳にすべきではないか」と主張しておられます。

 アメリカは18歳で投票権が得られます。つまり、(2012年の大統領選挙)投票日の11月6日当日に18歳になっていればいい。高校3年生の中には11月6日の段階で有権者になっている人たちが相当数いる。だから、自分たちが誰に入れようかを考える。18歳から選挙権を与えると、こんなにも政治に対する関心が高まるのには驚きました。
 なぜ日本では選挙権を得るのが20歳なのかというと、酒やたばこを許される年齢が20歳だったので、その年齢に揃えたに過ぎません。いわゆる「大人」の年齢を20歳にしたので、選挙権の獲得もその年齢に合わせた。
 ただ、世界を見渡せば、大体18歳です。18歳にする意味はあると思います。18歳だと、たいてい高校生で、真面目なこともあり、選挙へ行きなさいと言われればきちんと選挙に行く可能性が高い。また、生まれ育った地元にいる分、そこがどんな状況か、誰が立候補しているか、だいたいわかるので、誰に投票すればよいか判断ができる。これが20歳になってしまうと、地方から都心の大学や会社に行ってしまったりするので、自分が住んでいるところから誰が立候補するかわからないことが多くなります。

正直、僕はこれまで、「18歳、高校生に選挙権なんて、早すぎるよな」と思っていました。
まだ子供じゃないか、って。
でも、この池上さんの話を読むと、「なぜ20歳なのか」と逆に疑問に感じてきたのです。
18歳、多くの人が高校生のときに、一度「国政選挙の投票」を経験しておくというのは、その後「投票に行くかどうか」を、けっこう左右しそうな気がするんですよね。
「まだ子供の部分が残っている時期」だからこそ、その時期に投票することに意味があるのです。
アメリカでは、高校に本物の候補者を呼んで演説してもらい、生徒たちが模擬投票をするという活動をしているNGOもあるのだそうです。
投票率の低下」を本気で嘆いているのであれば、「政府や地域でできること」って、けっこうあるはずです。
ところが、現状は「選挙は大事」「選挙に行きましょう」とテレビで宣伝しているくらいです。
もしかしたら、日本の政治家たちは、いままで高齢者重視で当選を重ねてきた人が多いので、若者にはあまり選挙に来てほしくないのかもしれませんが……


「初心者向けの解説本」のようで、この本のなかには、池上さんの「政治観」というか、「あまりに政治オンチすぎる日本人に知っておいてほしい、最低限の知識」が詰まっているのです。
「政治のことはよくわからないけれど、なんだか今の世の中じゃダメなんじゃないか」という人は、ハキハキとした政治家の言葉に思わず「イイネ!」を押してしまう前に、ぜひ、この本を読んでみてください。
これは本当に「いい仕事ですねえ」、池上さん。

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