琥珀色の戯言

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【読書感想】世界の陰謀論を読み解く ☆☆☆☆


世界の陰謀論を読み解く――ユダヤ・フリーメーソン・イルミナティ (講談社現代新書)

世界の陰謀論を読み解く――ユダヤ・フリーメーソン・イルミナティ (講談社現代新書)

内容説明
フランス革命フリーメーソンの仕業? 
ユダヤ人による世界支配計画の書『プロトコル』? 
新世界秩序陰謀論の黒幕イルミナティ? 
関東大震災や3・11は人工地震?――
「邪悪な誰かが操っている」という世界を解釈する枠組みに潜む論理と心理を読み解く。


「ユダヤ!フリーメーソンイルミナティ!」まさに「陰謀論界のフルコース」というメニューのこの新書。
これに加えて、現在のアメリカの「福音派」など、これ1冊で、世界の「陰謀論」の概略がわかります。
とはいえ、この新書、「あまりにも多くの要素を1冊にまとめている」ので、ちょっと読みにくいところはあるんですよね。
読んでいて、ちょっと混乱するというか、頭に入ってこないような感じもしました。


この本では、まず、定番の「ユダヤ人の世界支配計画」が紹介されています。
ところが、とくに日本では、「ユダヤ人」が何者であるかも知らず、「陰謀論」の主役にしてしまっている人も少なくないのです。

「ユダヤ人」とはユダヤ教を信じる人びとのことだ、とよく言われる。しかしこれも不十分だ。イスラエルは世界中のユダヤ人すべてに移住と国籍取得の権利を認めている。移住条件を規定している国籍法によれば、ユダヤ人とは「ユダヤ人の母から生まれ、あるいはユダヤ教徒に改宗した者」である。後に「他の宗教の成員ではない者」という条件が追加されたが、この規定にしたがえばユダヤ人の血を引いていることも、ユダヤ教徒であることも、十分条件であって必要条件ではないのである。

日本に住んでいて、「ユダヤ人の知り合いがいる」という人は、そんなに多くはないはず。
そんな「よく知らない人たち」のことを、「世界の陰謀の主役である」と決めつけているのは、なんだかとてもおかしな話です。
日本人だって、「海外からの誤解や決めつけ」に憤りを感じる機会は少なくないのに。


続いて登場するのが、「フリーメーソン」と「イルミナティ」。
フリーメーソン」に関しては、その科学的な思考や啓蒙主義的な考えなど、世界に影響を与えた面もあるのですが、「イルミナティ」は、完全に「買いかぶられている」ような感じです。

 TVシリーズとしては昭和最後の仮面ライダー、『仮面ライダーBLACK』の敵役は「暗黒結社ゴルゴム」である。主人公の南光太郎は、身の回りで不可解な出来事が起こると、とにかく「ゴルゴムの仕業だ!」と決めつける。第14話「マグロが消えた日」では、マグロが何者かに買い占められ市場に出回らなくなった、と聞いただけで「さてはゴルゴムの仕業か!」と言い出す始末だ。
 陰謀論において、このゴルゴムの役割を務めているのがイルミナティである。イルミナティは多くの場合、数多くの陰謀集団を背後で束ねる「司令部」として位置づけられている。

特撮でこういう「ゴルゴムの仕業だ!」というのを観ると、僕はつい笑ってしまうのですけど、陰謀論というのは、まさにあんな感じなんですよね。
ゴルゴムだって、マグロの買い占めよりも、もっと効率的な世界征服の方法がありそうなものです。
著者は、「イルミナティ」の歴史の概略を紹介しているのですが、実際の「イルミナティ」は、1776年に結成された「身分や国家や宗教を超えた普遍的な人類愛、迫害や圧政からの解放、蒙昧な因習や迷信の打破、理性の光による人間的完成」などを理念とした、当時としては、あまりにも開明的すぎる秘密結社だったそうです。
なぜ「秘密結社」になったかというと、こういう理念は、当時のヨーロッパの大部分の権力者にとっては、「反社会的な思想」だとみなされていたから、だったのです。
1787年には、「反社会的」「反キリスト的」だとして、史実のイルミナティは、その短い歴史に幕を下ろしました。


ところが、このイルミナティが、「フリーメーソン陰謀論」と結びついて、その実体以上に恐れられていくのです。

 さらに1982年には、スティーブ・ジャクソン・ゲームズのカードゲーム『Illuminati』(イルミナティ)がヒットした。同ゲームはその後も版を重ね、最新の拡張セットは2010年に出ている。『Illuminatiトレーディングカード版(1995年)や、同社の汎用TRPGシステム『GURPS』のサプリメントGurps Illuminati』(1997年)なども発売されており、このゲームが看板商品であることがよくわかる。なお同社のロゴマークは、このゲームのヒットにあやかって、あの「ピラミッドの目」である。
 ダン・ブラウンの小説がシオン修道会イルミナティを取り扱ったやり方とは異なり、小説の『イルミナティ』もゲームの『Illuminati』も、陰謀論言説が虚構にすぎないことを踏まえたうえで、その虚構を楽しむことを意図してイルミナティを取り扱っている。しかし皮肉にも、これらの作品によってイルミナティの名がポピュラーになったことで、イルミナティ陰謀論も広く流通するようになったのである。
 非常にばかばかしい話だが、幾人かの陰謀論者、例えばベンジャミン・フルフォードなどは、ゲーム『Illuminati』をイルミナティ陰謀の証拠とみなしている。トレーディングカード版も含めた『Illuminati』カードの内容は「大メディア」「シオン賢者」「第三次世界大戦」といった陰謀論の定番から「下水道の白いワニ」「エイリアン・アブダクション」のような都市伝説、さらには「アトミック・モンスター」(イラストは角の生えたゴジラ)、「トレッキー」(スタートレックの熱狂的なファン)などいったものまでさまざまだ。それらはいわば陰謀論者の思考をパロディ化したものだが、陰謀論者は例えば、二つの高層ビルが爆破されている図柄(カード名は「テロリストの核攻撃」)や炎上したペンタゴンの図柄(「ペンタゴン」)を指して「これはアメリカ同時多発テロイルミナティによって事前に計画されていた決定的証拠だ」と主張するのである。

この『Illuminati』(イルミナティ)というカードゲーム、僕が中学生くらいのときに、ちょっと流行っていたのです。
ゲームとしては、シオン賢者と白いワニ、トレッキーが結びついたりして、むしろ、陰謀論者の妄想をプレイヤーが笑い飛ばす、というものなのですが、陰謀論者にとっては、自らをパロディ化したようなゲームでさえ、「陰謀の証拠」になってしまいます。
一度「陰謀論」にハマってしまうと、自分を批判するものさえ、「これは自分を妨害しようとする陰謀だ!」ということになるので、もうどうしようもなくなるのです。
ダヴィンチ・コード』が大ヒットしているのをみると、みんな信じているかいないかは別として、「陰謀論」というか「世界には一般人が知らない、隠された秘密がある」という話は、けっこうウケるものではあるみたいですし。


しかしながら、世の中のすべてが「陰謀論者の妄想」ではない、というのも困ったところではあるんですよね。
著者は、こんな歴史的事実を紹介しています。

1932年から72年にかけて、アメリカ・アラバマ州のタスキギー郡およびその周辺の黒人住民のうち600人は、非常な高待遇で政府による医療と検査を受けていた。身体検査や簡単な治療は無料、交通費も無料、身体検査日には食事も提供され、死亡時の病理解剖に同意すれば遺族年金支給。ただし、そこ以外で勝手に治療を受けないことが条件だった。実際には、彼らはいっさいの同意も説明もなく、アメリカ公衆衛生局による人体実験にかけられていたのである。彼らのうち399人が梅毒の罹患者で、残りの201人は対照群として選ばれていた。この実験の目的は梅毒の治療でも新薬の実験でもなく、治療を施さない場合の梅毒の症状の経過観察、死の様態の観察であった。実験対象となった黒人たちは教育を受けていなかった人びとであり、彼らは自分たちが実験に参加していることも、梅毒に罹患していることも知らされなかった。彼らはただ検査のたびに「悪い血(bad blood)」があると言われつづけていたという。1945年には梅毒の治療薬となるペニシリンが実用化されたにもかかわらず、それが使用されることもなく、実験は変わらず続けられたのである。
 この実験は1972年にその存在を暴露され、中止された。しかし合衆国政府がすべての非を認め、公式に謝罪したのはようやく1997年のことである。当時の実験の生存者はわずか8名になっていた。
 以上がタスキギー梅毒実験と言われる出来事だ。

 1972年までの話、いまから40年前に終わった話じゃないか、と思われる方もいるかもしれません。
 僕が知る限りでは、日本の医療界では、この手の人体実験は、(少なくとも)いまは行われていないはずです。
 でも、こういうことが「科学」とか「研究」の名の下に行われたという事実は、重いものです。
 すべてを疑っていたら何もできないけれど、すべてを信じることができるほど、世界は綺麗ではありません。
フリーメーソン」や「イルミナティ」のような派手な「秘密結社」がセンセーショナルに採り上げられる一方で、政府が、こんなとんでもない「実験」を、隠密裏にしている。
 それもまた、世界の現実です。
 やはり、「疑うこと」も必要なんですよね。

 インターネットでの情報収集は、自分にとって都合のよい情報だけを選り好みして摂取することになりがちだ。信じたいものを信じるための情報には事欠かない。それが根拠薄弱な陰謀論でしかないことにも気づかないまま受容されることもじゅうぶんありうる。
 情報は毎日の食事と似ている。特定のメディアに依存して情報をただ享受することは、食事のメニューを握られているようなものだ。親元で生活していれば、自分の好みとは合わないけれども、ある程度バランスのとれた食事をとれるかもしれない。もしかしたら、特定の信念にもとづいた偏った食生活を強いられるかもしれない。一方で、自由に情報を取捨選択することは、一人暮らしをはじめるようなものだ。意に沿わない食事を強制されることはなくなるだろう。しかし、好きなものばかり食べて体を壊すかもしれない。誰にも頼ることなく、自分の判断で、健康な食生活を維持することは案外難しいものである。
 自らの責任で食生活を管理するためにも、食べてよいものとよくないものを判断する基準は必要だろう。

インターネットは、多くの人に真実を検証する手段を与えたのと同時に、デマや陰謀論に直接さらされる機会も与えています。
どんな便利なツールでも、それを利用するのは、あくまでも人間なのです。


参考リンク:フリーメイソン ‐‐「秘密」を抱えた謎の結社(琥珀色の戯言)
フリーメイソン」の詳細を知りたい方には、こちらの新書をオススメしておきます。

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