琥珀色の戯言

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【読書感想】ブラック企業 ☆☆☆☆


ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪 (文春新書)

ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪 (文春新書)

内容紹介
あの有名企業も「ブラック」化している!
若者を使い捨て、日本の未来を奪う。その恐るべき手口とは?
1500件の労働相談が示す驚愕の事実。


いまや就活生の最大の恐怖「ブラック企業」。大量採用した正社員を、きわめて劣悪な条件で働かせ、うつ病から離職へ追いこみ、平然と「使い捨て」にする企業が続出しています。
著者は大学在学中からNPO法人POSSE代表として1500件を越える若者の労働相談に関わってきました。誰もが知る大手衣料量販店や老舗メーカーの新入社員集団離職など豊富な実例を元に、「ブラック企業の見分け方」「入ってしまった後の対処法」を指南します。
さらに恐るべきは、日本社会そのものがブラック企業の被害を受けているということ。若者の鬱病、医療費や生活保護の増大、少子化、消費者の安全崩壊、教育・介護サービスの低下――「日本劣化」の原因はここにあるといっても過言ではありません。その解決策まで視野に入れた、決定的な一冊です。


目次
●第1章 ブラック企業の実態
●第2章 若者を死に至らしめるブラック企業
●第3章 ブラック企業のパターンと見分け方
●第4章 ブラック企業の辞めさせる「技術」
●第5章 ブラック企業から身を守る
●第6章 ブラック企業が日本を食い潰す
●第7章 日本型雇用が生み出したブラック企業の構造
●第8章 ブラック企業への社会的対策


これはもう、読んでいるとものすごく気が滅入ってくる新書です。
もう40歳で、とりあえず新卒として就職活動をすることはない僕でさえ、読んでいてこんなにイヤな気分になるのですから、これから就職を控えている学生たちの絶望は、どれだけ深いことか。


日本のマスメディアは「すぐ仕事をやめてしまう若者たちの甘え」を責め、「コストをギリギリまで切り詰めて利益をあげる新興企業」をもてはやしています。
テレビでは、「ファミレスグルメ」や「ビジネスパーソンの厳しい仕事っぷり」が、毎日のように放送され続けていますしね。
そりゃ、みんなテレビ見なくなるよ。
だって、いまのテレビに映っているのは「スポンサーが見せたいもの」ばっかりなんだから。
CMの時間以外にも、CMだらけだものね。


この新書を読んで、僕が思い知らされたのは「すぐに仕事をやめてしまう、我慢のできない若者」だと報じられている人の多くは、「ブラック企業によって、やめるしかない状況に追い込まれている若者」なのだということでした。


著者は、こんな「中堅IT企業Y社の事例」を紹介しています。

 Cさんは、新人研修後、営業部内の社長アシスタントというポストについた。社長アシスタントとは、要するに社長の雑用係である。営業部に配属された2週間後、「仕事が遅いのは見た目を気にしているからであり、コンサルタントで採用されたことをひきずっている」との理由でグレー無地のスウェットでの通勤、勤務を命じられる。就業時間外であっても呼ばれれば、すぐに社長や副社長のもとに向かい、雑用をこなさなければならなかった。ここでいう雑用とは、具体的には、社長の出迎え、カバン持ち、副社長のペットの散歩などである。
 雑用に加え、副社長が管轄している稼働管理という部署の仕事を担当していたCさんの残業時間は1日平均5時間に及んだ。彼は懸命に仕事を処理しようとしていたが、社長や営業社員による叱責はやむことがなかった。「気がつかえない。おもしろくない」と評価され、なぜ「おもしろくない」のかと数時間にわたって問い詰められることさえあった。長時間残業と上司によるハラスメントで追いつめられたCさんは、別部署の同僚の目にも明らかなほど「痩せて顔色が悪かった。顔がひきつっていた」という。
 結局、辞めざるをえなくなり、配属3ヶ月後に自己都合で退職した。

自分で「犬の散歩」もできないようなら、犬を飼うなよ副社長!


 某社では、入社式で、新入社員に「お前たちはクズだ。異論はあるだろうが、社会に出たばかりのお前たちは何も知らないクズだ。その理由は、現時点で会社に利益をもたらすヤツが一人もいないからだ」という発言が、役員から浴びせられたのだそうです。
 

 こういう会社では、「会社都合でクビにする」と法律上問題が出てくる(あるいは、クビにすることそのものが許されない)ため、排除したい社員自身から「自己都合で退職する」と言わせるための、さまざまなテクニックを駆使してくるのです。
 そのため、心身を病んで、会社も辞め、その後再就職もできず……という、「ボロボロにされて、使い捨てられる若者」が次々と生みだされるのです。
 「コスト削減」「社内競争」の名のもとに。
 しかも、そうやって病んでいった若者たちは、休職させて、いったん「回復した」ということにさせてから辞めさせ、会社の責任を回避するという卑劣さ。


 それでも、いまの社会情勢では、「労働者には、いくらでも代わりがいる」し、「多少きつそうな条件でも、正社員というだけで、希望者がいる」。
 むしろ、「使い捨てにしたほうが安上がり」なのです。
 なかには、「入社してから、さらに激しい競争をさせ、結果的には半分くらいしか残らないことを見越して採用している」企業もあります。

 具体的に「戦略的パワハラ」の手口を紹介しよう。
 まず、この手の(社員を使い捨てにすることを前提として採用する)会社にはリストラ担当の職員がいる。彼らは狙いをつけた職員を個室に呼び出し、「お前は全然ダメだ」と結論ありきの「指導」をする。業績不振をあげつらうこともあれば、「うちの社風に合っていない」と「指導」することもある。そしてその職員が「ダメな奴」であることを前提に、様々なタスクを課す。
 たとえば、PIP(Performance Improvement Program:業務改善計画)と称して達成不可能なノルマを設定させ、「そのノルマを達成できないなら責任をとれ」と転職をほのめかす。達成可能なノルマを設定すると、「意識が低い」とつめよられるため、この手のPIPに入ったら逃げ道は無い。
 Y社の場合には、「リカバリープラン」と称して精神的に追い詰めるようなタスクを課していた。坊主頭での出勤を命じたり、コンサルタント会社の集まる社ビルにスウェットで出勤するよう命じたり、他にも「コミュニケーション力を上げるために」と駅前でのナンパ、中学校の漢字の書き取りなどをさせる。いずれのタスクもやり遂げたところでその状態から脱け出せるわけではなく、当然ながら本人にとっても意味が感じられない。
 会社からの「指導」に素直に従ってしまう人は私たちに相談に来る人の中でも多く、ある人は会社に認めてもらおうと難しい資格を短期で3つも取って能力を示した。にもかかわらず、会社は「うちに合わないから改善が必要だ」と追い込む。
 こうしたことを繰り返していると、人間は驚くほど簡単に鬱病適応障害になる。そうなった頃に、「会社を辞めた方がお互いにとってハッピーなんじゃないか」と転職を示唆するのである。「解雇してほしい」と労働者が言ったとしても、「うちからは解雇にしないから自分で決めてほしい」と、退職の決断はあくまでも労働者にさせる。
 精神障害になることは最初から想定されているため、労働者が病気になるまで追い詰められたとしても会社は躊躇しない。適応障害になったと報告した社員に「ほら、前からうちには合わないって言っていた通りでしょ。あなたはうちには適応できないんですね」と言って謝罪させ、一緒に精神科の産業医のもとに行って「この人はうちで働き続けない方がいいですよね」と産業医に同意を求め、更に精神的に追い込んだ例もある。
 労働者が最後まで「辞めない」と言ったとしても、病気になってしまえば後は簡単だ。
 休職に持ち込み、休職期間中も定期的に嫌がらせを行い、休職期間の満了まで「復職できない」と判断すればよい。「戦略的パワハラ」の事例を通して、労働者の健康がどれだけ軽視されているかがよくわかるだろう。
「戦略的パワハラ」の弊害は経済的にも生じる。雇用保険を利用するとき、自己都合で辞めた人には3ヶ月間の受給制限期間が設けられる。このペナルティを、本来受けるべきでない労働者が受ける。雇用保険も受給できない状態で、鬱病で放り出されることになる。


 これでも「若者が会社をやめるのは、怒られることに慣れておらず、忍耐力がない」からなのか?
 昔から、厳しい上司、理不尽な上司はいたはずです。
 でも、ここまで組織的に、若い社員に対する「使い捨てのテクニック」が仕組まれていたでしょうか?
 しかも、昔のように「終身雇用、年功序列で、いま辛抱しておけば、将来は良くなっていくはず」という希望もないのです。
 とりあえず、いまを生きのびるために「ブラック企業」に入り、ボロボロにされて捨てられるか、ずっと「いつ終わるかわからないサバイバルレース」を続けていくか。


 もちろん、そうじゃない、ちゃんとした企業もたくさんあると思うんですよ。
 ただ、短期的にみれば、こういう「コスト削減のために、人間を使い捨てにする企業」と「社員の将来のことも考える、ちゃんとした企業」が勝負をすれば、前者のほうが競争力が高くなりがちです。


 こういう「ブラック企業」が衣料品や飲食業に多いのは、消費者側にも責任があるのではないか、と考えざるもえません。

 しかし、「店長」というだけでは残業代を払わなくてもよいわけではないと学んだローソンは、支店経営の「SHOP99」をフランチャイズ経営の「ローソンストア100」に置き換え、雇われ店長ではなく個人事業主とすることで残業代の支払いを免れようとしている。

 もう一つ、「みなし残業」と同じように、残業代の支払いを免れられるように装う場合もある。「労働者ではない」と言ってしまうことだ。大体、「管理監督者」とされるか「個人請負」とされるかのどちらかである。


(中略)


「個人請負」の場合、労働者はいきなり「事業主」になる。「委託」「委嘱」「請負」など、雇用契約とは異なる契約書を交わし、労働法の埒外で働かされる。牛丼チェーンの「すき家」を展開する株式会社ゼンショーは、アルバイトで働く従業員事業主だと強弁している。アルバイトは「事業主」であって労働者ではないから、労働法に守られる必要もないというのが彼らの論理だ。

 こんな「コストカット」の元で生みだされた「安い食べ物」や「長時間営業」って、誰を幸せにしているのだろう?
 利用する側は、「安いから」「いつでも空いているから」幸せ?
 その「ささやかな幸せ」は、自分自身や、子孫が、こんな労働を強いられる世界と引き換えにできる?


ちなみに、「ブラック化」は、こんな業界にも起こってきています。 

 今年登録した(第64期)の弁護士に話を聞くと、すでに周りの同期が何人も弁護士事務所を「自主退社」しているという。その経過はブラック企業と瓜二つである。相談者のプライバシーを保護するために、相談室のドアを閉めていたところ、「外から相談の様子が見えないと、何が起こるかわからない。非常識だ」(おそらく、開けていても同じことを言われるだろう)と激しく叱責されたり、できるはずのない高度な訴状の作成をいきなり命じられる。そして、昼休みにも高度な法律の問題で質問攻めにして追い込む。ある女性弁護士は、見るからに痩せ衰えて、「自分は仕事ができない人間だ」というようになり、性格まで変わってしまったという。こうして、知り合いの内何人もが同じように弁護士事務所を去り、中には弁護士登録をやめてしまった人も出ているという。
 弁護士事務所の場合にも、利益を出すために、ひやすら事務的な仕事を新規登録者にやらせて、「使えない」と判断すると、すぐに切る。こうして大量の弁護士が仕事にあぶれている。また、その過程で使命感や倫理観も失っていく。そうした弁護士たちが、ブラック企業労務管理に介入していることは想像に難くない。


まさにこの世は、弱肉強食の「ブラック地獄」という感じです。
著者は、「ブラック企業対策」として、とにかく「自分が悪いと思わないこと」「労働組合や専門家と連帯すること」など、さまざまな「対処法」を紹介しています。
みんなで戦わなければ、世の中は変わらない。
でも、「戦おうとする人は、さらに多くの荷物を背負わなければならない」のも事実です。
結局のところ、公的な大きな力が加わるか、好景気になって労働者にとっての「売り手市場」にならなければ、どうしようもないのかな、という気もするんですよね。
植民地をつくるわけにもいかない時代では、「好景気」になるには、もっとコストカットをすすめなければならず、となると、「ブラック企業化」をすすめることが、景気の回復につながる、という人もいるわけで、本当に、どうすればいいのやら。


僕自身は、とりあえず、ネットでの情報共有というのは、働く側にとっての大きな武器なのではないかと思っています。
みんなが「ブラック企業では働かない」という意思を共有できれば、ブラック企業は大きなダメージを受けるはず。
でも、「とにかく働かないと食えない」となると、やっぱり「ブラック企業でも、自分が生き残ればいいんじゃないか」と、考えてしまう人が出てきて、「協調」できないのもよくわかります。


「いまの若者は忍耐力がないから、仕事が続かないのだ」「極限までの合理化、コストカットこそが、日本の未来を良くする」と考えている人は、ぜひ読んでみていただきたい。
「日本のごくひとにぎりの大金持ちの未来」=「日本の未来」じゃないよ絶対に。

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