琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】立川談志 最後の大独演会 ☆☆☆


最後の大独演会

最後の大独演会

内容紹介
「今日はくだらない話だけをしようぜ」談志は二人に向かって、そう言った。病気療養中だった談志が、たけしと太田を相手に話芸の限りを尽くした三時間。現代落語最後の名人がお笑い界トップ2に言い残したのは、芸談でも人生訓でもなく、抱腹絶倒のアブナイ話、下ネタ、古今のゴシップ、バカ話。こんなにも粋でシャイな「別れの告げ方」もある。貴重な三人の座談収録CD付き。立川談志一周忌追善出版。

談志さんが亡くなられて、もう1年経ったのか……と、ちょっとしんみりしながら読みました。
(2011年11月21日没)


100ページ足らずの薄い本で、字も大きいのですが、談志さんとビートたけしさん、太田光さんの「鼎談」のCD付き。
ただし、CDの内容は、本に収録されているものの一部です。
実際、しゃべっているのは談志さんが主、たけしさんが合いの手を入れて、太田さんはほとんど発言はなく「聴衆」という感じです。
いや、あの太田さんが「自分の出番じゃない」と引いて、聞き役に徹しているところが、この2人の話芸のすごさの証明、ではありますよね。
2010年6月に収録されたものなのですが、ああ、談志さん声出すの辛そうだなあ、でも、たけしさん、太田さん相手に喋っているのは、すごく楽しそうだなあ、と、ちょっとしんみりしながらも、笑ってしまいます。
僕はこのCDを運転しながら聴いていたのですが、談志さんは放送禁止用語なんて全く気にしてもいないし、修正されてもいませんので、「ファミリー向け」ではありません、念のため。


この本のオビには「今日はとことんくだらない話をしようぜ」という談志さんの言葉が掲げられているのですが、まさにその通り、「とことんくだらない」内容なんですよね。
でも、それだけに、なんだかとても考えさせられるところもあって。
談志さんは、昭和から平成を生き抜いた名人なのですが、「芸人」に対する世の中のスタンスは、時代とともに、かなり変わってきています。

立川談志おれが「無罪になったといってるが、いいか、無実と無罪は違うんだ」なんか言って問題になった頃、たまたま地方都市に講演に呼ばれたんです。そしたら空港で、迎えの人が「すぐに帰っていただけませんか」って言うんだよ。「何だ?」と訊いたら、××の生まれたところなんだネ。地元でも騒ぎになってるから帰ってくれ、と。「講演はしなくても、約束の金はくれるんだな?」つったら、「払います」。ならいいやって、そのまま空港も出ずに帰ってきちゃった。そしたら、帰りの飛行機が行きの飛行機と同じだったんだな。スチュワーデスが吃驚して、「こんなにすぐお帰りになるお客さまは初めてです」。そりゃ、そうだろうね。まあ、いろんな場面場面で叩かれてきたよ。ただ、おれの発言でウケる客、喝采する日本人が大勢いるから、おれは暴言と呼ばれるものを口にしているんです。二人はわかっているだろうけど、おれは芸人ですからね、誰からもウケないよ、誰も喜ばないよとなったら、わざわざそんな暴言を吐くわけがない。芸人の<暴言>を聞くことで、大衆は意識のすぐ下にあるもの、フロイトがエスと呼んだものなのかどうか、ひょっとすると人間にとって恥ずべきものかもしれない思いや感覚を解消してきたんじゃないですか。それが今や、芸人の暴言ですら許されない世の中になってるでしょ。


ビートたけしでも師匠は、いまやもう、何を言っても抗議なんか来ない存在になったんじゃないですか? みんな、師匠なら仕方がないと諦めたのか、特別扱いなのか(笑)。


談志:むしろ、「キムジョンイル、マンセー」とか言うと、客よりも一緒に出ている芸人のほうが不安げな顔をしますな。おれがビン・ラディンの顔がプリントしてあるTシャツ着て出て行ったら、(桂)三枝のやつが微妙な顔してたヨ。もちろん娘さんを理不尽にもよその国に攫われたご両親の胸の痛みはわかりますし。政府が何もしてくれないから自ら運動し、ついにアメリカまで動かしたという行為は崇高だと思いますが、それでも芸人として高座で発言する場合、「しつこいな、まだ『返せ、返せ』って言ってるのか。老後の生き甲斐を得て、有名になれて、テレビにもいっぱい出られるし、アメリカの大統領にも会えるし、いいじゃねえか」となっちゃう。


たけし:ダメだ、この人は(笑)。


談志:毎度言うことだけど、こういう世の中の常識に反する言葉、人間として下衆だと思われるかもしれない思いを口にできない社会だから、グロテスクな犯罪が頻繁に起こるんじゃないですか。


この談志さんの言葉を読んで、「そうだそうだ!それが芸人の役割ってもんだ!」と諸手を挙げて「賛成」するか、と問われたら、僕はやっぱり抵抗があるんですよね。
確かに「ガス抜き」としての役割はあるのかもしれないけれど、芸人というのは、そんな特権を有しているのか?
談志さんやたけしさんは、「芸人というのは、昔は地位が低く、人間扱いもされないような存在だった。だからこそ、こういう『暴言』も許されていた面がある」と仰っています。
ところが、いまや「花形職業」となった芸人が、そんなふうに他人を傷つけるというのは、観ている側にとっては、「ガス抜き」というより「不快感」を生んでしまうのです。


でも、「じゃあ、芸人もみんな品行方正であれ」というのも、なんだかちょっと違う気がするし……
談志さんは、談志さん自身にとって「ちょうど良い時代」を生きた人なのかもしれないな、とは感じました。


この本、ある意味、談志さんの「最後の肉声による雑談」でもあり、ファンにとっては、素晴らしい遺産なのではないかと思います(ちなみに、CDの収録時間は合計30分くらいです)。
その一方で、きっと、これからの時代は、談志さんやたけしさんのような「あえて毒を吐く芸人」というのは、少なくともテレビで売れまくることはないのだろうな、と考えさせられる内容でもありました。

アクセスカウンター