琥珀色の戯言

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【読書感想】64(ロクヨン) ☆☆☆☆☆


64(ロクヨン)

64(ロクヨン)

内容紹介
D県警の広報が記者クラブと加害者の匿名問題で対立する中、警察庁長官による、時効の迫った重要未解決事件「64(ロクヨン)」視察が1週間後に決定した。たった7日間しかない昭和64年に起きたD県警史上最悪の「翔子ちゃん誘拐殺人事件」。長官慰問を拒む遺族。当時の捜査員など64関係者に敷かれたかん口令。刑事部と警務部の鉄のカーテン。謎のメモ。長官視察の日に一体何が起きるのか? 組織対個人。驚愕の長編ミステリー。

「2013年版 このミス国内編1位」「週刊文春 ミステリーベスト10国内部門1位」
今年は、宮部みゆきさんの大作『ソロモンの偽証』もあったのですが、2冠を達成したのは、横山秀夫さんの『64(ロクヨン)』でした。
ロクヨン」と聞くと、「ニンテンドー?」と反射的に感じてしまうのが、ゲーマーの常なわけではありますが。


いやしかし、『ソロモンの偽証』の700ページ超え×3冊に比べたらまだ「短い」としても、こっちも分厚いなあ……なんて思いながら読み始めたのですけど、横山秀夫さんらしい、「組織とひとりの人間との関係」が濃密に描かれた、素晴らしい作品でした。
正直、ちょっと中だるみするところもなくはないのですが、後半は一気に畳み掛けるように攻めてこられる感じです。


外部からみると、「ひとつの大きな組織」のようにみえる警察も、さまざまな部署があり、それぞれは、けっして仲が良いとは限らない。
大きな組織になればなるほど、セクションの壁は厚くなります。
まさにあの「事件は会議室で起こっているんじゃない、現場で起こっているんだ!」となりがちです。
そういえば、病院でも医者と看護師と事務系のスタッフが必ずしも和気藹々と仕事をしているというわけじゃないですしね。
患者さんからみれば「同じ病院のスタッフ」に見えているのだろうけれど。


「広報部」というのは、一般企業であれば、けっこう人気がありそうな部署ですが、警察組織のなかでは、「主流」とは言い難い。
有能な刑事だったにもかかわらず、人事のアヤで広報官になってしまった主人公。
マスコミからのプレッシャーと、部下たちとの関係、そして、他の部署、とくに現場の刑事やキャリア組との駆け引き。
そして、家族の問題。


身内の病気などのトラブルを抱えながら仕事をするのは、とてもとてもつらいことなんですよね。
でも、仕事もしないのは、もっとつらい。


後半、「これ、あまりに大風呂敷を広げすぎて、竜頭蛇尾に終わってしまう小説なのでは?」と思いながら読んでいました。
あれ、もう100ページもないよ!
でも、横山秀夫さんは、そこで読者を裏切るような仕事はしない作家さんですね。
すっきりしないからこそ、残る余韻もある。


マスゴミ」なんてネットではよく罵声を浴びせられているマスコミですが、警察の広報官なんて、マスコミ以上に「どうせ何か隠しているんだろ」なんていう偏見でみてしまいがちです。
大きくテレビで採り上げられるのは、謝罪会見で、みんなが一斉に頭を下げる場面ばっかりですしね。
でも、その仕事にもさまざまな葛藤があるし、彼らだって、好きで隠蔽をしているわけじゃないんだよなあ。
多くの場合、現場で矢面に立たされているのは、「ボスキャラ」ではないわけです。
もちろん、彼らには彼らの「役割」や「責任」があるのですけど。


この本を読み終えて、伊集院静さんの「人はそれぞれ事情をかかえ、平然と生きている」という言葉を、ふと思い出しました。
本当に、ミステリとしても、組織と人間の葛藤を描いたドラマとしても、素晴らしい作品です。

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