琥珀色の戯言

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【読書感想】Steve Jobs Special ジョブズと11人の証言 ☆☆☆


Steve Jobs Special ジョブズと11人の証言

Steve Jobs Special ジョブズと11人の証言

内容説明
2011年12月に放送され、大反響を呼んだNHKスペシャル『世界を変えた男 スティーブ・ジョブズ』。同局のスタッフの努力により、ジョブズの素顔を知る人々の貴重なインタビューが多数収録されたものの、放送時間枠の都合上、番組では伝えきれなかった貴重な証言の数々を、活字としてできるだけ詳細に再構成し、書籍化したのが本書です。
証言者(予定)はスティーブ・ウォズニアック氏、ダニエル・コトケ氏、ビル・フェルナンデス氏、リッチ・ペイジ氏、ラリー・テスラー氏、ジョン・スカリー氏、福田尚久氏、
前刀禎明氏、ダグ・キットラウス氏、ウォルター・アイザックソン氏。
そのほか、2001年に「クローズアップ現代」にて行われたスティーブ・ジョブズ氏のインタビュー、同じく、ジョブズ氏の逝去直後に同じく「クローズアップ現代」にて収録された孫正義氏の貴重なインタビューもあわせて収録。


スティーブ・ジョブズが亡くなって、もう1年以上が経ちました。
関連本も公式伝記の『スティーブ・ジョブズ』を含め、本当にたくさん出ていますが、この本には、NHKの取材班が、ジョブズの追悼番組のために行ったインタビューと、その番組内での出演者の話、そして、2001年に行われたジョブズへのインタビューが収録されています(ちなみに、ジョブズのインタビューだけ、英語対訳の形になっています)。


この『ジョブズと11人の証言』は、公式伝記『スティーブ・ジョブズ』の副読本、という感じです。
両方読んでみての感想としては、この『ジョブズと11人の証言』に書かれていることは、直接、あるいは少し形をかえて、公式伝記のなかには書かれているので(ウォルター・アイザックソンさんは、ジョブズ本人も含めて、本当にたくさんの関係者にインタビューされたようです)、内容の理解とコストパフォーマンスを考えると、まずは公式伝記の方を読むべきではないかと思います。
公式伝記を読み終えて、もうちょっとジョブズに関する話を読みたい、という人や、公式伝記はけっこう読むのが大変なので、ジョブズが目指したもののエッセンスくらいは知っておきたい、という人のための本、というのが、僕にとってのこの本の「位置づけ」でした。

ジョブズのコアなファンにとってのコレクターズアイテム、あるいは、ジョブズにあんまり興味はない人のための「あらすじで読む、スティーブ・ジョブズ」といったところでしょうか。


それでも、この本を読んでいると、スティーブ・ジョブズという人の独創性とか、偉大さについて、あらためて考えさせられるのです。


2001年に行われたスティーブ・ジョブズへのインタビューより。

ジョブズ時々、私のところへ、会社を始めたいという人が相談に来ます。だから理由を訊ねると、金儲けをしたいと答えるんです。だから私は言うんですよ。それなら止めたほうがいいと。
 それだけの理由では、まず成功しませんね。お金持ちになりたいという理由で会社を始めた人で、成功した人間を私はあまり見たことがありません。成功する人は、時には、会社を始めることも考えていないような人たちです。
 彼らはアイデアを持っています。それを世界に広めたい、表現したいと願っています。そして、そのアイデアを聞いてもらうために、会社を立ち上げなければならないんです。

ジョブズの死後に行われた、スティーブ・ウォズニアックのインタビュー。

 アップルが携帯をコンピュータに変えるための開発を始めた時、「これ(携帯電話)はコンピュータをつなくためのモデムである。どうやったら電話の大きさのコンピュータを構築できるのか」と考えた。一方、ほかの携帯メーカーは、「私たちは携帯電話を製造している。そこにどうやってコンピュータっぽい機能をつけようか」と考えた。
 この発想の違いが、アイフォーンをほかの製品とはまったく違うものに仕上げるのに、とても重要な役割を果たしたんだ。
 スティーブは、自らアップル製品を愛用していた。全部の製品をね。でも、デザインの仕方は知らなかった。デザインする時に、エンジニアがどんな苦労をしているのかも、すべて理解していたわけではないと思う。でも、微調整する能力があったんだ。「そうではなく、こう動くようにして欲しい」とか、「別の方法で使えるようにして欲しい」とか、そうやって的確に指示するんだ。

ジョブズは、結果的にアップルを大成功させたし、大金持ちになったけれども、お金のために仕事をする人ではなかったのです。
それは、起業家としては諸刃の剣だったのかもしれません。
もしジョブズがアップルを追われたあと、ピクサーでギリギリのところで「大逆転劇」をみせ、アップルを建て直すことができなければ、「経済観念のない、無謀かつ夢想家の経営者」として反面教師になっていたことでしょう。


リッチ・ペイジさんのインタビュー。

 例えば、ネクストの工場は、工場自体が非常に美しいものでした。外観や内部に到るまでが芸術品のようでした。でも、工場の見栄えなど重要なことでしょうか。プライドを満たすという点では、多少意味があるかもしれません。顧客や一般の人々を対象二「工場ツアー」をする際にも役立つかもしれません。
 ある日、ネクストが注文した工場用の機器が搬入されてきました。ところが、注文したものとわずかに色みが違ったのです。誰かグレーっぽい色でしたが、ほかの機器との色合いも微妙に合っていませんでした。私たちはすぐに色を塗り替えるよう求めました。搬入した相手はとても小さな会社でしたが、その会社の社長だかオーナーだかは、「なんで?」という感じでした。「そんなことは、おたくの社長も気にしないだろう」と言うのです。でも、私からすると、それこそがスティーブの最も気にすることだったのですね。スティーブにはこうした細部こそが重要でした。なぜなら、それは取るに足りない小さいことなのかもしれないし、重要な意味を持つ細かいことなのかもしれないからです。


こういうエピソードを読んでいると、ジョブズというのは、日本でいえば、千利休とか北大路魯山人みたいな人だったのかな、という気がするんですよね。
「美をつくり出す人」というより、「美の基準を定める人」。


日本で傲慢に振る舞うジョブズに対して、日本側の対応した人たちは、辟易しながらも、「あっ、ジョブズが酷いこと言ってきた。やっぱりジョブズだ、本物だ!」と、まるでダウンタウンの浜ちゃんにはたかれた芸能人のような喜びを感じていたのではないか、という話も興味深いものでした。
ジョブズほどの「カリスマ」になると、「横暴」すら芸になる、のかもしれませんね。



最後に、福田尚久さんへのインタビューから。  

 これも彼がよく言っていた話ですが、「人はみな、生まれたら全員が同じ金額をもらってゼロスタートから人生を始め、死んだら自分の財産を全部国に還すのが、いい」「その人生の中で、ある程度差がつくのは仕方がない」と。頑張る人、頑張らない人、能力のある人とない人、スキルのある人とない人、いろいろなタイプの人間がいるから、それはしょうがないんだ、と。だけど、本当にフェアな社会というのは、ゼロスタートでいって、最後に死んだ時にはチャラになる、そういう社会が理想的なんだということですね。
 世界全体をそういう風にしていこうとした時に、一番大事になってくるのは「情報」なんだ、と。重要な情報を知っている人と知らない人がいるのがおかしいんだというわけです。で、その「知ってる人」と「知らない人」との差をなくすのが「パーソナル・コンピュータ」というものの元々の発想なんだと彼は言っていました。だから、マッキントッシュには最初からネットワークがついていただろう――と。

ジョブズは、「事業家」というより、「革命家」だったのです。
ジョブズにとってのコンピュータは、「商品」ではなくて、「世界の格差をなくすための道具」でした。
海外旅行に出かけると、いろんな国の人がiPhoneを使っているのを目にします。
それを見ると、なんだか僕は、「世界がつながっている」ことを感じるのです。
もちろん、ジョブズは、やりたいことを100%実現できたわけではなかったはず。
ジョブズが目指していたのは、「人間の感情を伝えられるコンピュータ」だったと言われていますし。
ソフトバンク孫正義さんは、「ジョブズが生きていたら、最終的にはiRobotをつくっていたのではないか」と話しておられます。


この1年間、ジョブズがいなくても、地球は回っていますし、iPhone5も順調に売れています。
どんな企業も、永遠に右肩上がりでの繁栄を続けることはありえません。
ソニーやシャープが、いま、苦しんでいるように。


でも、もし今後斜陽の時期がやってきたとき、「あるひとりの人間を失ったからだ」とみんなが思う企業は、たぶん、アップルだけなのではないでしょうか。


ジョブズを偲びつつ、あわただしい中で一冊読むには、ちょうど良い分量、内容の本ではないでしょうか。
個人的には、「きれいなジョブズ」じゃないほうのエピソードのほうが、けっこう好きだったりするんですけどね。

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