- 作者: 加地倫三
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2012/12/15
- メディア: 新書
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内容紹介
「ロンドンハーツ」「アメトーーク! 」(テレビ朝日系)など大人気番組のプロデューサーが、自らの「脳内ノート」を大公開! ヒット企画の陰にある数々の「たくらみ」とは? バカな番組を実現させるクソマジメな仕事術とは? 「トレンドに背を向ける」「企画はゆるい会話から」「勝ち続けるために負けておく」「文句や悪口にこそヒントがある」「スベる人の面白さ」……「面白いもの」が好きな人、「面白い仕事」がしたい人、必読の一冊。
出版社からのコメント
思えば、ずっと、たくらんできました―― 「格付け」「ブラックメール」など過激さとリアルさが突き抜けている「ロンドンハーツ」。 「家電芸人」「中学のときイケてない芸人」など、斬新でツボをついた企画の「アメトーーク! 」。 この二つの番組を同時に手がけ、企画・演出・統括の全てをこなすのが加地プロデューサーです。 「どうしてそんなに面白いことを思いつくの?」「なぜヒットし続けているの?」「どうやって仕事ををこなしているの?」――その秘密は、彼の『たくらむ技術』にあります。 アイディアの出し方、会議のコツ、社内の根回し、スタッフに必要なスキル、仕事と向き合う姿勢まで、業界がいま最も注目するプロデューサーが、「頭の中」と「手の内」を初めて明かします。
この新書を読んで感じたこと。
・いまのテレビバラエティって、みんな同じようなものばっかりでつまんないなあ、と思っていたけれど、制作側はけっこう真面目につくっているんだなあ。
・テレビ業界って、相変わらず体育会系なんだなあ。
『ロンドンハーツ』とかをつくっている人だから、テリー伊藤さんみたいにぶっ飛んだ人なのかと思いきや、この本を読むかぎりでは、著者は「常識人」でした。
書いてあることも「驚くような発想術」ではなくて、「ふだんから、こんなふうに真面目に番組作りをしているんですよ」「テレビ局のスタッフとか芸人さんっていうのは、こんなにすごいんですよ」という話が多いです。
最近のバラエティ批判でよく語られるテロップの多用についても、かなり作り込んでいるのが伝わってきますし、加地さんの場合は「視聴者はどう視ているのか?」をきちんと意識して「間」をコントロールしているのです。
あるエピソードが披露されてスタジオ内が大爆笑に包まれ、あまりの面白さに、笑いが10秒間も続いたとします。ただし、そのうち3秒が大爆笑で、残り7秒が余韻だった。
こういう時に、作り手側はついつい残り7秒の部分をカットしてしまうのです。ここでカットしておけば、時間がストックできて、他の部分でその7秒を使うことができるからです。
ところが、これは不正解。「7秒の余韻がカットされる」ということは、つまり「テレビの前にいる視聴者が、笑い終わって落ち着く時間がカットされる」ということだからです。自分の笑いが収まっていないと、その後に続くトークに集中できません。すると、次の面白いエピソードの話し始め、つまり話の「フリ」の部分をちゃんと聞けていない。結果として、「オチ」を聞いても話がきちんと伝わらず、「完璧の面白いトーク」とは思ってもらえない。笑いが1つ死んでしまうことになるのです。
視聴者側の気持ち、生理を無視してしまう編集とはこういうことです。自分がカットしやすいところでカットすると、笑いのために必要な間を殺すことになつながるのです。
「PTAが子どもに見せたくない番組」の上位を常に維持している『ロンドンハーツ』のプロデューサーの著者なのですが、この新書を読んでいると「他人のコンプレックスを過剰に採り上げない」とか「人の生死や病気をネタにしない」などの「自分ルール」を遵守してバラエティ番組をつくっているそうです。
「日常のイヤなことを忘れたい」「笑ってスッキリしない」のがバラエティなのだ、というポリシーを貫いているのです。
「視聴率のためなら、なんでもやる」という感じの人かと思いきや、ああ、こんなことまで真面目に考えているんだな、と意外に感じたところもたくさんありました。
逆にいえば、そういう「真面目さ」が、「いまのバラエティの足枷」にも見えるのかもしれませんが……
関根勤さんを例に挙げての「ホメ上手」の話。
関根勤さんは、2013年で60歳という大ベテランの方ですが、テレビで見るのと同じ感じで、僕らや若手芸人にも丁寧に接してくださいます。中でも感激するのが、番組の感想を具体的に、実に嬉しそうに言ってくださる点です。
「この前のあれ、面白かったねえ。特にあの有吉(弘行)くんの毒舌と熊田(曜子)の返し、最高!」
こういうことを言われると、たまらなく嬉しくなります。中学時代、関根さんんと小堺一機さんのラジオ番組のハガキ職人だった自分としては、喜びもひとしおです。
考えてみると、感想を言うのでもとてもうまい人と、そうでもない人がいます。その違いは何かと言えば、具体的なポイントが入っているかどうかだと思います。
「この前の『アメトーーク!』面白かったですねえ」
これだけでも、もちろん嬉しいです。でも、ちゃんと全部見てもらえたのかどうか、下手したらほんの2〜3分しか見てもらえていないかもしれない、とちょっと不安になってしまう。でも、
「この前の『アメトーーク!』面白かったですねえ。特にあの運動神経悪い芸人vs少年野球の対決、最後感動して泣きそうになりましたもん。まるでスポーツドキュメンタリーを見てる感覚でしたよ」
というように、具体例があればあるだけ、ああ本当に面白いと思ってくださったんだなあ、と感じることができるし、そこから会話も広げていける。
逆にこちらが感想を言う際には、感想に質問をプラスするのもいいやり方だと思います。
なるほど、「ちょっと具体例を入れる」だけで、同じ褒めるのでも、相手が受ける印象というのはかなり違ってくるものなのだなあ、と。
もちろん、本当は観ていないけど、社交辞令として言っている、という場合には、余計なことは言わないほうが無難だとは思いますが、本心であるならば「あの場面がよかった!」というのをひとつ入れておく、というのは大事だと思います。
それにしても、関根さんは、褒めるのも芸達者なのですね。
ちなみに、著者は、この本のなかで、「芸人さんたちの凄さ」を繰り返し紹介しています。
最近では「スベる」ことが特徴となっている芸人さんもいます。見ている側は、「あの人はスベってばかりで面白くない」と思っているかもしれません。
でも、これは大間違いです。ただ単にスベる人は単なる面白くない人です。テレビには出られません。
彼らは、スベっている様子や、その後のリアクションも含めて、やっぱり「面白い」人なのです。一見、空気を読んでいないように見える人もちゃんと読んでいます。出川さんや狩野も空気を読もうとしています。それがズレて面白くなるので、彼らはさらにスゴい人たちなのですが(笑)。
そういう人たちが普通の飲み会にでも出てくれば、とてつもなく面白い。一般人のレベルとは全く異なります。ちょっと面白いというレベルの素人では、絶対に太刀打ちできません(もちろん飲み会で、あからさまにその力を出したりはしませんが)。
たまに芸人さんに密着する企画で、僕と食事をしている場面をカメラに収めることがあります。そのVTRを編集のために見ていると、彼らと比べていかに自分のしゃべりがダメか、思い知らされて嫌になってしまいます(それを芸人さんに話すと、「素人なんだから嫌になるのはおかしい」と言われますが……)。
構成力、間、トーン、言葉のチョイス……全てが違います。
同じ話をするのでも、素人とプロの面白さのレベルはケタ違いなのです。
それは当然と言えば当然で、芸人さんたちは、日々の修業、努力で話術を磨きぬいているのです。
あまたいる「面白い人」のなかで、プロの芸人になり、しかもテレビにコンスタントに出られるくらい売れている人というのは、プロ野球でいえば少なくとも1軍クラスなわけで、考えてみれば「つまらないわけがない」のですよね。
「スベる」こともまた、芸なのか……
出川さんや狩野さんの「普段のトーク力」を、ぜひ一度観てみたいものです。
これを読んでいると、やっぱり、あらゆる面でマメじゃないとテレビの世界で「作る側」としてやっていくのは難しいのだな、と感じます。
大事なのは、一瞬のひらめきよりも、体力も含めたバイタリティと「持続する力」なのだなあ。
『ロンドンハーツ』や『アメトーーク!』のファンの人なら、番組の裏側も含め、けっこう楽しめる新書だと思います。
テレビ業界の仕事に興味がある人にもオススメです。