琥珀色の戯言

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【読書感想】芸人の妻たち ☆☆☆☆


芸人の妻たち

芸人の妻たち

◆金なし、地位なし、安定性なし。
そんな男と、あなたは結婚できますか?
―――芸人の妻たちが、実際の結婚生活を赤裸々に語るインタビュー集!


・どうやって出会ったのですか?
・親に反対されませんでしたか?
・毎月の生活費がばらばらで不安はありませんか?
・能天気な男と暮らしてイライラしませんか?
・嫁・姑問題は大丈夫ですか?
・他にもっと(条件が)いい人はいなかったのですか?
・それでも幸せなのはなぜですか?


マイナス要素ばかりのはずの「芸人婚」は、
実はプラス要素がいっぱい! ?
答えはこの中にあります。

著者について
第1章 インスタントジョンソンゆうぞうの妻・楢村海香
格差婚「結婚してから、ちゃんとした人になれた」


第2章 トップリード新妻悠太の妻・新妻紗代
ひとめぼれ婚「一番近くにいる、一番のファン」


第3章 マシンガンズ西堀亮の妻・太田笑子(仮名)
癒しのペット婚「ハードルが低いから喜びが増える」


第4章 ダーリンハニー吉川正洋の妻・吉川マキ
好みのタイプ婚「育児もゲームにして一緒に楽しむ」


第5章 アルコ&ピース平子祐希の妻・平子真由美
押し切り婚「0点からの加点方式なので、どんどん好きになる」


第6章 マシンガンズ滝沢秀一の妻・滝沢友紀 バクチ婚「恐怖の給料日とスリリングな毎日」


第7章 東朋宏の妻・飛田彩
超ポジティブ婚「夢を食べて生きている」


第8章 デンジャラス安田和博の妻・安田香澄
年の差仲良し婚「ビッグダディを目指します」


第9章 くらげライダー松丘慎吾の妻・赤プル
W芸人婚「私がこの人を絶対幸せにしたい」


★芸人ダンナ座談会「夫の言い分」


「芸人の妻」といえば、夫の「飲む、打つ、買う」に泣かされまくったり、まったく稼ぎがない夫が「ヒモ状態」になってしまう、というようなイメージを持っていたのですが、この「芸人の妻たち」のインタビュー集を読んでいると、いまの芸人というのは「飲む」はさておき、博打で借金つくりまくりとか、浮気しまくり、というようなわけでもないようです。


もっとも、こういうインタビューに答えてくれる時点で、それなりに夫婦仲が良いというバイアスがかかってはいるのでしょうけど。
「別居中で離婚寸前」なんて夫婦は、こんな企画に出てこないだろうし。


この本に出てくる芸人さんたちは、なかなか微妙なラインというか、そこそこ売れている人から、「誰それ?」なんていう人まで含まれています。
あらためて思い知らされるのは、「芸人というのは、ごく一部の超高額所得者と、それ以外の大部分を占める『芸人としては食えない人』に二極化しているのだな、ということでした。


第2章に出てくる「トップリード」の新妻さんの収入について、著者は、こう述べています。

 2011年、2012年と『キングオブコント』で決勝まで進んだ(最終結果はどちらも8位)トップリードだが、まだまだ”売れっ子”というにはほど遠い。当然お笑いの稼ぎだけでは生活できないのでいまだにバイトと掛け持ちである。

キングオブコント』で2年連続決勝進出するくらい「芸」を評価され、あの番組だけでもかなり世間に認知されたはずなのに、それでも、芸人の仕事だけでは食べていけないんですね……
「芸人としての収入だけで食べていけるようになる」ためのハードルは、僕が思っていたよりもはるかに高そうです。
その一方で、「スギちゃんみたいに、芸歴20年でいきなり大ブレイクをしてしまうケースもあるので、なかなか夢を諦められない」なんて話もありました。


そんな「稼げない」「超ハイリスク・ハイリターン」な芸人と結婚する女性も、千差万別。
「ダメな男を自分が面倒をみることにやりがいを感じる」という人もいれば、「夫の芸が好きだし、絶対に売れると信じている」という妻もいる。
「芸人だから、というより、話し上手、聞き上手で、人間的に好きだった」という妻もいる。


いやまあ、「芸人が夫だと、仕事が不規則なので、自分の時間を持てるし、自分も毎朝しっかりしなくてもいいからラク」なんて話を読むと、「うーむ、子どもがいなければ、それでいいんだろうけど」とか、つい考えてしまったりもするんですけどね、うちも結婚したときよりも、子どもが生まれてからのギャップのほうが大きかったから。


これを読んでいると、芸人の妻たちは、基本的にみんな楽天家で、普段の生活を楽しんでいるようにみえます。
お金に関しては、この本に出てくる芸人さんくらいの売れ方では、まだまだけっこうキツイみたいで、共働きの家庭がほとんどです。
また、芸人の世界のルールみたいなものもあるんですよね。
マシンガンズの西堀さんの奥様は、付き合っていた時期から、夫の「小遣い」まで出していたそうです。

「キャッシングとかしてたって聞いてたから、そんなところから借りるぐらいだったら私が貸すって言ったんですけど、それが運の尽きで……」
 基本は飲み代。やはりお笑い芸人はなんだかんだ飲む機会が多い。先輩と飲むときには先輩が出してくれるからいいものの、それ以外の席では自分の分は出さなければいけないどころか、ヘタに後輩を連れていこうものなら自分が全部奢らなければならないのが芸人の世界。
「持ってれば持ってるだけ、あればあるだけ使っちゃいます。ほぼ全部お酒に使うと思います。お金を貸すようになってからは結婚する前からお小遣い制にして、西堀の給料の10%を渡すって決めてるんですけど、ほぼ
間違いなく毎月足りないです。たとえば今月の給料が20万円ならその中から2万円をお小遣いで渡すんですけど、そんなものは1週間でなくなってしまう。一応申告制にしてるんですけど、”なくなった”って言われたらあげないわけにもいかないんで、結局毎月10万円前後渡すことになるんですよね。それだけ外で飲んでるんだから家では飲まないようにすればいいのに、私のそんな声はまったく聞こえないみたい。それでも一時期は自分でもちょっと考えたのか発泡酒にしてくれてた時期もあるんですけど、最近はまたビールを買ってくるから”生意気に”!と思って」

「すごく売れて、稼いでいる人がお金を出してくれる」のならともかく、「中途半端に売れている人」にとっては、けっこうつらいシステムではありますね。
それでも、芸人仲間との関係とか、新しいアイディアの閃きとか、「飲み会は芸人にとって大事」だというのは、現在でも変わりないようです。
夜中に先輩から呼び出されるなんてこともあるし、それを断るのも難しい。
なかには、食えない後輩がご飯を食べさせてもらいに家に来る、なんて話も出てきて、いろいろ大変だなあ、と。


 いったい、何が良くて結婚したのだろう……とか思ってしまうのですが、その疑問に対して、西堀さんの奥様はこう答えています。

「どうしてかな……それでも一緒にいて欲しかったんですよね。精神面で支えてもらった。西堀が何をしてくれるってわけじゃないけど、”私がいないと生きられない人が世の中に一人いる”っていうことが、私が頑張れる支えだったのかもしれない。西堀といると、なんだか自分がまともになった気がするんですよ。人間的に優れてる人になったような気がして。相手があんまりダメだから(笑)」

 
 なんて損な性格なんだ、とは思うけれど、こういう人もいますよね確かに。
 著者によると、「芸人というのは、そういう女性を見つける嗅覚が圧倒的に優れている」のだとか。
 生存本能、なのでしょうか……


 結局のところ、それでお互いに幸せにやっていれば、それはそれで良いのだろうな、と。
 こういう人が「仕事も家事もこなし、人間的にも非の打ち所がないスーパーマン(まあ、あんまりいないと思うけど)」と結婚したら、かえってコンプレックスを感じたり、パートナーと競争してしまって、うまくいかないような気がしますし。


 「芸人の妻たちは、お金が無いのに、なぜみんなけっこう幸せそうにみえるのか?」という著者の疑問に対して、ある「芸人の妻」が、こんなふうに答えています。

「もう楽しまなきゃやってられないっていうのもあります。暗くなっちゃったら本当にみじめになっちゃうので」
 と言いながらも、笑いながら話している友紀さんはやっぱり幸せそうだ。
「最初か理想が低いですからね。0から始まるどころか、むしろ”マイナス”から始まってますから。”こんなはずじゃなかったのに……っていうのがないんです」
 つまり最初からハードルが低いというか、ハードル自体がないので、何があってもガッカリしない。逆にちょっとでもいいことがあれば”プラス”になる。
「ただ、求めることが多い人には勧められないですね。”最低限これだけ稼いでほしい”とか、”ダンナさんはこうあるべきだ”みたいな理想がある人は本当に苦労するからやめた方がいいです」
 それでは逆に”芸人の妻”にむいているタイプの女性は?
「最初から結婚に何の期待も持っていない人だったら、普通の人より一緒にいて楽だし、”ちょっとおもしろく生活できるかな”という点でお勧めできます。お金のことは抜きにして」


 僕はこの本を読みながら、ずっと考えていました。
 「売れない芸人の妻」は大変だろうけど、じゃあ、もしこの芸人さんたちが売れたら、妻たちは幸せになれるのだろうか?って。
 売れないからこそ、時間に余裕があるし、パートナーへの感謝も生まれやすい。
 でも、売れて収入がアップしたら、物質的な面で生活はラクになるでしょうけど、精神的な面では、どうなのだろう?
 夫婦の関係は、同じように保たれていくのだろうか?
 もちろんこれには、逆の面もあって、「ある程度のお金があるからこそ、維持できている夫婦関係」のほうが、現実的には多いのかもしれませんけど……

 
 何かの役に立つ、というタイプの本ではないのですが、けっこう楽しく読めました。
 ああ、こんな不景気な世の中でも、こういう結婚生活があって、みんなそれなりに幸せに暮らしているのだな、って。

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