琥珀色の戯言

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【読書感想】人生ゲーム 人生は1マス5年で考えよう ☆☆☆☆


人生ゲーム 人生は1マス5年で考えよう

人生ゲーム 人生は1マス5年で考えよう

内容紹介
ダッコちゃん、リカちゃん、人生ゲーム、ミクロマンチョロQトランスフォーマー、フラワーロックなどなど、数多くの定番玩具を世に送り出したタカラの創業者、佐藤安太氏(89歳)が、数々のアクシデントとピンチを乗り越えて、成功に至った道のりを語る!


本書は、「人生は100年、1マス5年で20マスの人生ゲームだ」と、タカラ(現・タカラトミー)の玩具『人生ゲーム』に例えて、企業が長期のビジョン・ミッションという遠大な目標を掲げつつ、実際には5年の中期計画で動かしているのと同じように、人生も「まずは『5年先』を考えなさい」と説きます。
「5年先にどんな自分になっていたいか」を思い描き、そして今の自分に足りないことを点検し、足りない部分を補うように努力していく。この5年を1マス1マス積み重ねていくうちに、あなたにとっての人生の成功、人生のゴールまでの道のりが見えてきます。


本書では、苦しかった少年時代から、タカラの起業時、“おもちゃの王様"と呼ばれるまでになった数々の玩具開発秘話、そこから学んだ成功法則、人生の完成期にいたった心境までを、タカラ時代のエピソードをふんだんに交えながら語りつくします。


僕は「ダッコちゃん」に関する記憶は全くないのですが、「リカちゃん」で周囲の女の子たちは遊んでいましたし、人生ゲームもよくやっていました(僕の勝負弱さは、当時からだったような記憶があります)。「ミ〜ク〜ロ〜マン〜」というCMは、いまでもなんとなく覚えています。
ちなみに、「ダッコちゃん」の正式な商品名は「木登りウィンキー」というらしいです。「ダッコちゃん」とは「だれともなく呼ばれるようになった」のだとか)。


この「ダッコちゃん」の大ブームは、タカラにとって「輝ける歴史」のはずなのですが、著者は「結果的には失敗だった」と振り返っています。
ブームに乗って、工場は増産を続け、会社は大きくなったのですが、ブームは、あっという間に収束してしまいます。
そこで、バッタリと仕事がなくなってしまい、大きくなってしまったがために、増えた社員に給料も払えなくなってしまったのだとか。
社員を知りあいの同業者に預かってもらい、奥様とふたりきりの状態に戻った時期もあったそうです。
でも、そこで諦めず、「息の長い製品をつくる」ことを目指したのが、タカラの運命の分かれ目だったのです。


いまでも愛され続けている「リカちゃん」開発時の話。

 そこで私たちは、少女漫画の世界観をリカちゃんに取り入れようとしました。女の子たちにとって、リカちゃんは自分の分身のように思える。自分はまだドレスを着たり、アクセサリーをつけたりするおしゃれはできないけど、それをリカちゃんに着せることで、自分のおしゃれ心を満足させる。そういう人形にしたいと考えました。
 しかし、難問だったのは「リカちゃんを永久に売れる商品にすること」です。当時の玩具というのは「パッと売ってパッと消える。翌年は違うものが売れている」というのが常識でした。それを「永久に売れ続ける」ようにするにはどうしたらいいか。
 思いついたのは、映画の『男はつらいよ』でした。寅さんの映画は、当時すでにシリーズ化され、毎年多くの人が映画館に観に行っていました。でも、ストーリーは毎回ほとんど同じ。それがどうして飽きられないかというと、マドンナの存在なのです。
 毎回、違ったマドンナが登場して、寅さんとの淡い恋愛エピソードが語られる。違うマドンナが登場することで、寅さんの違った面が見えて、観客はどんどん寅さんに親しみを覚え、寅さんが好きになっていくのです。
「これだ!」と思いました。主人公であるリカちゃんは、どうやっても変えることができない。でも、リカちゃん以外の登場人物=マドンナを登場させることで、リカちゃんの別の面が見えてくる。そうすれば、また別の遊び方ができ、飽きずに遊び続けられると思ったのです。
 たとえば、リカちゃんの友だちとしていづみちゃんを登場させると、女の子の友情を題材とした遊び方ができます。ボーイフレンドのわたるくんを登場させると、淡い恋愛を題材にした遊び方ができます。さらにリカちゃんママを登場させると、甘えたがりの女の子としてのリカちゃんを遊ぶことができるのです。
 こうして、次々と”マドンナ”を登場させて、リカちゃんそのものはいつまでも同じ人形ですが、違った面を見せることで永遠に売れ続ける商品にしていこうと考えたのです。

「リカちゃん」の発売は、1972年。僕よりも少し年上なんですね。
「パッと売って、次の年は、また違うもの」という玩具業界の常識にとらわれず、「リカちゃんを中心とした世界」をつくることによって、ここまで息の長い玩具になったのです。
 子ども相手だからといって、子どもを甘く見ない姿勢が、この成功をもたらしたとも言えるでしょう。
 

 この「世界観重視」の姿勢は、「ミクロマン」でも活かされます。

 その中でも力を入れたのが、悪役であるアクロイヤーの造形でした。悪役の造形に関しては、特に力を入れて開発したのです。ミクロマンなどの正義の味方は、子どもたちが自分自身を投影して遊びます。ですから、あまり突飛な造形にすることはできません。どうしても好青年の雰囲気の造形になってしまいます。これは裏を返せば、特徴が出しづらいということでもあります。
 そこで、悪役の造形を思い切ったものにすることで、正義の味方であるミクロマンを引き立てようと考えたのです。これはリカちゃんのときにはなかった発想で、変身サイボーグやミクロマンの開発の中で生まれてきたものです。

 「リカちゃん」の世界に、仮面ライダーの怪人みたいなキャラクターを出すわけにはいかないでしょうけど、いまでは当たり前のこととなっている「悪役重視」を、当時からタカラは意識していたということなのです。
 

 あと、「もしもし、わたしリカちゃん」という、「リカちゃん電話」が生まれたきっかけについても書かれていました。

 リカちゃん電話は、タカラ本社の代表電話に、リカちゃんで遊んでいるお子さんから「リカちゃんはいますか?」と電話がかかってきたのが始まりです。
 ある女性社員が機転を利かせて「私がリカです」と、リカちゃんのふりをして、そのお子さんと話をしたところ、口コミが口コミを呼んで、「リカちゃんはいますか?」という電話が毎日のようにかかってくるようになりました。本社の代表電話でしたから、仕事にも差し支えるようになり、「ここまで人気があるのなら」と、リカちゃん専用電話を設けたのです。
 最初は、女子高生のアルバイトを雇って、シナリオにそって会話をしてもらうものでしたが、「万が一、リカちゃんを名乗って電話をして、お子さんを誘い出すような犯罪者に利用されてはまずい」と思い、途中からすべてテープでの対応に変えました。
 そのリカちゃん電話を使って宣伝をするわけでもありませんでしたが、お子さんたちは実際にリカちゃんの声を聞くことができ、リカちゃん遊びの世界をより楽しめるサービスに育ったと思います。

 ひとりの社員の機転から生まれた「リカちゃん電話」。
 最初は女子高生がシナリオに沿って喋っていたんですね。
 ある意味、ネットとかでの怪しげな「チャットレディ」のはしりとも言えなくはない。
 それにしても「宣伝をするわけでもない」にもかかわらず、ここまで「世界観」をつくりこんでいったというのはすごいことですし、その姿勢こそが、タカラの商品をロングセラーにしているのでしょうね。
 良い商品をつくるだけでなく、アフターサービスやメンテナンスもしっかりしているからこそ、ロングセラーになるのです。


「リカちゃんをアメリカで売ろうとプロモーションに行ったら、現地の人に笑われた話」とか、日米の玩具文化、そして子どもに対する考え方の違いを浮き彫りにしていて、興味深いものでした。


僕はもうちょっと個々の「製品開発エピソード」を詳しく読みたいな、と思っていましたので、その点については、この本は、ちょっと物足りない感じもするんですよ。

 人生も同じです。ビジョン、究極の目標はあった方がいい。でも、それをはっきりと意識することは難しい。ですから、まずは目先の5年先を考えて、自分をいかに成長させていくかを考える。この5年をどんどん積み重ねていくうちに、あなたの中にあった人生の究極の目標がはっきりとしてくるはずです。
 つまり、人生は人生ゲームなのです。1マス5年で、自分を成長させていく人生ゲームです。そして、「あがり」はあなたの究極の目標です。その「あがり」がなんであるか。億万長者なのか、幸せな人生なのか、それは1マス5年の人生ゲームで、山を越え、谷を渡るうちに次第にはっきりとしてくるでしょう。
 いちばんよくないのは、スタート地点に立ち止まってルーレットも回さずに、ゴール=目標がなにであるかを考え続けてしまうことです。

この著者の考え方には納得できるのですが、「人生観が変わるようなインパクトがある」わけでもなく、ちょっと人生訓めいた話が多いな、「セミリタイアした成功者の典型的な講演」みたいな内容だな、と思ったのも事実です。
しかしながら、「まずはルーレットを回さないとはじまらない」というのが「真理」であることは間違いありません。


懐かしいおもちゃの話がそれなりに出てきますし、タカラという日本を代表する玩具メーカーの歴史が概観できる本ですので、興味を持たれたかたは、読んでみる価値はあると思います。
徒手空拳の町工場から、試行錯誤しながら這い上がってきたタカラは、太平洋戦争後の「世界のなかでの日本」の姿でもありますから。

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